- 著者
-
中澤 高志
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3, pp.165-180, 2018
<p> 低出生力や高齢化といった現代日本の人口学的諸問題は,東京一極集中や限界集落化といった地理学的諸問題と不可分である.つまり,最重要の政策課題は,人口と地理が結びつく領域にこそ存在する.人口地理学は,これまでも現状分析の面から人口政策に寄与してきたが,人口政策にまつわる理念やイデオロギーに関する議論とは距離を置いてきた.本稿では,欧米における新たな人口地理学の潮流を意識しながら,新書『縮小ニッポンの衝撃』の批判的検討を手掛かりに,政治経済学的人口地理学の可能性について模索する.地図は,住民の主体的意思決定に役立つツールである反面,客観性を装い,政策主体の意図に沿うように住民を説得するメディアとしても使われる.このことは,GIS論争やスマートシティに関する議論とも関連する.そもそも,データを収集する営み自体が客観的ではありえず,何らかの理想状態を想定して行われている.日本において人口減少への対策が論じられる場合,移民の受け入れ拡大が検討されない場合が多い.そのことは,日本人とは誰かという問いや,エスノセントリズムに関する議論などと結びつく.『縮小ニッポンの衝撃』からは,著者らが低所得の地方圏出身者を他者化していることが垣間見える.このことは,経済や財政への貢献度という一次元において,人々を序列化しようとするポリティクスの表れである.価値中立な地理的量としての人口概念こそ,再検討されるべきである.</p>