著者
中澤 高志
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.285-305, 2016-12-30 (Released:2017-12-30)
参考文献数
69
被引用文献数
4

「地方創生」論の特徴は,人口減少による「地方消滅」と東京の「極点社会」化という終局を回避する手段として,大都市圏から地方圏への人口の再配置による出生率向上を重視している点にある.とりわけ東京は,世界都市にふさわしい競争力を保持すべきとされ,その足かせになりかねない高齢者もまた,地方圏への移住が推奨される.そこには,東京を国民経済推進のエンジンとして,地方圏を子育てと高齢者医療・介護というケアの空間として,それぞれ純化させる論理が潜んでいる.「地方創生」論において,地域は国民経済や人口を量的に維持・拡大するための装置とみなされ,地域間格差の是正という社会的公正に対する意識は欠落している.     「地方創生」論の批判的検討を踏まえ,本稿では,ライフコースを通じた自己実現の過程における制約と機会という観点から地域間格差をとらえ直す.自己実現のための諸機会の多くは土地固着的であるため,いかなる地域政策をもってしても完全な地域間の均衡化は達成できない.したがって,住み続ける自由に加えて,移動の自由をも含めた地理的制約からの自由の拡大を目指すべきである.本稿では,カール・ポランニーの議論を敷衍し,資本主義社会に生きる者にとって不可避な「権力と市場」の空間的形態として,地域構造を認識する.そして,社会的自由の拡大という基準に照らしてより望ましい地域構造を構想することが,地域政策論の目的となり,理念となると論じる.
著者
中澤 高志
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.312-337, 2019-12-30 (Released:2020-12-30)
参考文献数
90
被引用文献数
1

本稿は,再生産の経済地理学に関する試論である.人口地理学と労働の地理学の相互交流を契機として再生産に対する地理学者の関心が高まってきたが,世代の再生産が長期的に保証されていることを暗黙の前提としてきた.資本・国家は,再生産の過程に介入しこれを統制しようとしてきたが,「資本主義の黄金時代」の終焉によってそれは困難となり,再生産は不調を来した.政府は,子育ての障害の除去に努め,再生産の期待を国民に負託するが,ボイコットに直面している.少子化対策は,経済支援や子育て環境の整備のように,経済主義あるいは環境決定論の色彩を帯びる.いずれも一定の条件が整えば場所とは無関係に世代の再生産が達成されると想定するが,現実には出生率の規定要因は無数にあり,その関係性自体が場所によって異なるため,画一的な少子化対策の効果は限定的である.一国の領域内での再生産が困難になると,再生産の空間スケールはグローバル化する.日本は,外国人労働者をスポット買いできる労働力と位置づけてきた.現行の処遇を続けても,外国人労働者にとって日本が選ばれる移動先であり続けられる保証はない.再生産の困難性は,再生産が人間の主体的な意思決定に委ねられていることに起因する.このことは,私的利益の追求が全体にとって最適の結果を必ずしももたらさないという個人と社会のアポリアを示すが,結婚や出産に関する自己決定権を捨てて,社会に殉じる必要はないし,そうすべきでもない.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.80-103, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
119
被引用文献数
2

「労働の地理学」は,従来の経済地理学が企業や資本の視座に立脚していたことへの反省から,労働者の行為主体性を正当に評価するべきことを主張し,企業や資本の視座から労働者の視座へと,経済地理学のポジショナリティを転換することを目指している.資本によるフレキシブルな労働力の活用は,労働者にとってはリスクとみなされる.エンプロイアビリティは個人に帰すことのできない地理的多様性を持った状況依存的な概念として再認識され,失業や不安定雇用の原因を労働者のスキル不足に求め,労働市場への参入を動機づけようとするワークフェアの概念は,その妥当性を問われることになる.「労働の地理学」において,労働市場は本質的に地理的多様性を持ち,社会的に調整されたアリーナであると認識される.「労働の地理学」は空間スケールを所与のものとみなさず,労働者を含めた諸主体の相互作用によって空間スケールが生み出され,それがより上位/下位の空間スケールと接合している態様を分析するのである.
著者
中澤 高志
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.165-180, 2018

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;低出生力や高齢化といった現代日本の人口学的諸問題は,東京一極集中や限界集落化といった地理学的諸問題と不可分である.つまり,最重要の政策課題は,人口と地理が結びつく領域にこそ存在する.人口地理学は,これまでも現状分析の面から人口政策に寄与してきたが,人口政策にまつわる理念やイデオロギーに関する議論とは距離を置いてきた.本稿では,欧米における新たな人口地理学の潮流を意識しながら,新書『縮小ニッポンの衝撃』の批判的検討を手掛かりに,政治経済学的人口地理学の可能性について模索する.地図は,住民の主体的意思決定に役立つツールである反面,客観性を装い,政策主体の意図に沿うように住民を説得するメディアとしても使われる.このことは,GIS論争やスマートシティに関する議論とも関連する.そもそも,データを収集する営み自体が客観的ではありえず,何らかの理想状態を想定して行われている.日本において人口減少への対策が論じられる場合,移民の受け入れ拡大が検討されない場合が多い.そのことは,日本人とは誰かという問いや,エスノセントリズムに関する議論などと結びつく.『縮小ニッポンの衝撃』からは,著者らが低所得の地方圏出身者を他者化していることが垣間見える.このことは,経済や財政への貢献度という一次元において,人々を序列化しようとするポリティクスの表れである.価値中立な地理的量としての人口概念こそ,再検討されるべきである.</p>
著者
中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.9, pp.560-585, 2005-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
71
被引用文献数
6 2

本稿は,金沢市と横浜市の高校を卒業した女性のライフコースについて,高校卒業時および最終学歴修了時の進路決定のプロセスとそれ以降の就業にみられる差異を把握し,そうした差異をもたらすメカニズムを明らかにする.金沢対象者は,学校側の積極的な介入の下で進学先を決定していた.そのことは,自分が学んだ分野と就職したい分野の葛藤に悩む学生を生んだ反面,教員や看護士の職に就く者を増やし,結婚後の就業率を高める一因となっていた.さらに金沢対象者では,結婚・出産後も女性が働きやすい環境にも比較的恵まれている.横浜対象者が通った高校では,進路について教師からの働きかけはほとんどなかった.そのため生徒は就職時の有利不利はあまり考慮せずに,進学先を決定していた.就職についても,民間企業を中心にイメージを重視した就職活動を行った.こうした進路決定は,現実との齟齬による離職を生んだ.これに加え,横浜対象者は家事や育児と両立しながら就業を継続することが難しい環境にある.このように,個人のライフコースは,地域が付与する固有の可能性と制約の中で,過去に規定されつつ,形成されてゆくのである.
著者
中澤 高志 由井 義通 神谷 浩夫 木下 礼子 武田 祐子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.95-120, 2008-03-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
43
被引用文献数
9 6

本稿では, 日本的な規範や価値観との関係において, シンガポールで働く日本人女性の海外就職の要因, 仕事と日常生活, 将来展望を分析する. 彼女たちは, 言語環境や生活条件が相対的に良く, かつ移住の実現性が高いことから, シンガポールを移住先に選んでいる. シンガポールでの主な職場は日系企業であり, 日本と同様の仕事をしている. 彼女たちは, 日本においては他者への気遣いが必要とされることに対する抵抗感を語る一方で, 日本企業のサービスの優秀さを評価し, 職場では自ら日本人特有の気配りを発揮する. 結婚規範の根強さは, 海外就職のプッシュ要因となる可能性があるが, 対象者の語りからは, こうした規範をむしろ受け入れる姿勢も読み取れる. 彼女たちは, これら「日本的なもの」それ自体というよりは, それを強制されていると感じることを忌避すると考えられ, 海外就職はこうした強制力から心理的に逃れる手段であると理解できる. 日本の生活習慣や交友関係のあり方は, むしろ海外での生活でも積極的に維持される.
著者
中澤 高志
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.33-49, 2017 (Released:2020-02-03)
参考文献数
69

本稿の目的は,ステューデンティフィケーションに関する研究をいくつかの分析視角に沿って検討し,研究の発展可能性を展望することにある.ステューデンティフィケーションとは,学生人口の増大と特定地区への集中によってもたらされる都市の社会的,経済的,文化的,空間的変容を意味する.都市空間の変容過程としてみた場合,ステューデンティフィケーションとジェントリフィケーションとの間には,類似性がある.2つの概念は,学生のライフコースによっても結び付けられている.すなわち,学生は未来のジェントリファイアー候補であり,ステューデンティフィケーションの進展とともに生成する「学生の空間」において,一人前の中間階級としてのハビトゥスを身に着けていくと仮定される.ステューデンティフィケーションは,ある種の学生の周縁化を伴うプロセスでもある.本稿では,イギリスにおける自宅生と,オセアニアにおける留学生を取り上げて,学生の周縁化について論じる.以上を踏まえ,ステューデンティフィケーション研究が今後の日本の都市地理学に与える示唆について考察して結びとする.
著者
中澤 高志
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.259-277, 2012 (Released:2018-01-24)
参考文献数
43

In September 2008, Lehman Brothers Holdings, a major American financial services firm, filed for bankruptcy, which consequently resulted in the global economic downturn. Many Japanese multinational companies, especially export-oriented manufacturers, downsized their factory floor employment mainly by reducing the number of subcontracted workers. In this paper, the author analyzed factors related to the workers who were placed in manufacturing factories by temporary staffing agencies or subcontractors, and who lost their jobs because of the economic downturn. The author analyzes the casework records of the consultation desk, which was established by a local municipality located in Kyushu, Japan, of those who had lost their jobs. Over a thousand workers lost their jobs as the economy of this locality was supported by a few export-oriented plants.Most visitors to the consultation desk had worked at specific plants but were not directly employed by the owners of their workplaces. Their move to the locality was mediated by a temporary staffing agency or subcontractors. When the financial crisis broke out and the restructuring of employment began, many workers who had lost jobs went back to their hometowns to seek family support. However, most visitors to the consultation desk did not have reliable families. Moreover, some of them had been remitting parts of their wages to their parents. This heavily strained their budget. Some households, such as those consisting of only couples where both partners were subcontracted workers, or households containing sick persons, etc., suffered even more severe circumstances.Typically, the residences for subcontracted workers are company-supplied dormitories. They are furnished, and workers who lived there did not need to provide either guarantors or deposits. However, the rents for the dormitories, plus a surcharge for the furniture, were relatively high, although the subcontracted workers did not receive large wages. Thus the visitors to the consultation desk rarely had any savings.With the reduction in the number working days and hours, the workers’ incomes were reduced to such an extent that they could no longer sustain their lives. Unemployed and isolated from their families, they exhausted their meager financial resources and soon had to evacuate the dormitories. Some workers arrived at the consultation desk in a condition of homelessness and hunger.The factors that contributed the difficult conditions of the workers are: (1) lack of contact with families, a source of support; (2) lack of financial resources; (3) lack of direct employment contracts; (4) lack of housing facilities independent of employment; and (5) migrant status. They were the first ones to lose their jobs because they were not employed directly. They lost their housing because it was bound to the employment contract. They could not withstand the hardship because they did not have financial or family resources. Moreover, they were migrants in the locality.
著者
中澤 高志 阿部 誠 石井 まこと
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1-21, 2009-01-28

The purpose of this study is to investigate the work experiences of the graduates of two vocational high schools in Oita prefecture in the context of the local labor market. J industrial high school is located in Nakatsu City, where the local labor market is buoyant because of the recent establishment of an automobile plant, whereas K commercial high school is situated in Oita City, which is the prefectural capital and boasts a population of 470,000. We interviewed 10 graduates from each vocational high school. Most of them were in their early twenties and had graduated from the high schools when the labor market was quite stagnant. The graduates of J high school whom we interviewed were all male. The typical job of this school's graduates was working as fabrication workers in manufacturing plants. Some of them were compelled to quit the job owing to the monotonous and intense operations or personal problems in the workplace; on the other hand, for others, it was their first job, and they were developing their occupational skills. The main factor that differentiated the two types of work experiences was not personal employability but the status of labor management and human relationships in the workplace. Most of the J high school graduates said that the vocational curriculums in the high schools were not helpful in their jobs in the manufacturing plants. However, they considered the manufacturing jobs to be suitable for the graduates of industrial high schools, such as themselves. They often changed their jobs, but were mainly employed in manufacturing plants. The graduates of K high school whom we interviewed were all female. For all but one interviewee of this school, the current job was their first job. Their typical job entailed working as support staff in the offices of local companies. They planned to quit their jobs when they got married or had children. Although they hoped to follow this course in life, it can be assumed that their jobs and workplaces were not challenging enough, and hence, they did not feel motivated to continue working after marriage or childbirth. Although most of the K high school graduates, similar to the J high school graduates, said that the vocational curriculums were not directly helpful in their workplaces, the business classes helped them develop a positive attitude toward their work in the office. Judging from the accounts of the graduates of the two vocational high schools, the vocational high schools gave the students the ideal environment to develop a positive attitude toward work and an occupational identity, rather than serving as a place where specific knowledge and skills, which were necessary for a specific occupation, could be acquired. Hence, we can conclude that in the context of the local labor markets, the role of the vocational high schools is to prepare graduates who could be immediately absorbed in a specific sector of the local labor markets.
著者
中澤 高志
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.59-81, 2010
参考文献数
46

大分市では,新産業都市への指定を機に人口が増加し,その受け皿として多くの郊外住宅地が形成された。本稿では,大分市の郊外化の過程を跡付けるとともに,ある郊外住宅地の住民像とそこにおける世代交代の現状を把握し,子世代の動向や親世代の意向に基づいて今後の変容について展望した。大都市圏の郊外住宅地と同様に,対象世帯のほとんどはホワイトカラーの夫と専業主婦からなる核家族世帯であったが,夫に関しては,転勤を契機として大分市に住み始めた者が多い点が特徴的である。対象世帯のほとんどは現住居への住み続けを希望しているが,住民の高齢化に伴って日常生活に不便をきたすことが懸念される。大分市内に居住する既婚の子世代の大半は親と別居しており,半数以上はすでに自分で持家を取得している。したがって,子世代が親世代の住居を継承して住むことはそれほど期待できず,長期的には空き家の発生などが懸念される。一方で,世代間の社会階層の再生産はなされており,大分市内に居住する子世代には,ホワイトカラー層が多く居住する大分市の西部に居住地を選択する傾向がみられた。このことは,都市内部の居住地域構造が,子世代の居住地選択を通じて世代を超えて引き継がれていく可能性を示唆している。
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.210-229, 2022 (Released:2022-07-15)
参考文献数
33

本稿では,テレワーク人口実態調査から得られる年齢階級別・職業別の雇用型テレワーカー率を,国勢調査から得られる年齢階級別・職業別雇用者数に乗じることにより,市区町村別のテレワーカー率を推計した.雇用型テレワーカー率の推計値は,都市において高く農村において低いことに加え,雇用型テレワーカー率の低い現業に従事する雇用者の割合が東高西低であることと逆相関の関係にあり,東日本で低く西日本で高い傾向がある.サービスは雇用型テレワーカー率が低い職業であるが,地域全体の雇用型テレワーカー率の高低に関わらず,偏在する傾向がある.本稿は,相対的に高所得かつテレワーカー率の高い雇用機会が地理的に偏在することだけではなく,テレワークが可能な職に就く人の生活が,同じ地域に住み,テレワークへの代替が困難な相対的に低所得の人々の仕事に支えられているという,地域内格差の可能性にも目を向けるべきであることを示唆する.
著者
中澤 高志 川口 太郎 佐藤 英人
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.181-197, 2012-09-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
6

本稿では,ある大学の卒業生に対するアンケート調査に基づき,東京圏に居住する団塊ジュニア世代の居住地移動について分析する.団塊ジュニア世代を含む少産少死世代は大都市圏出身者の比率が高い.そのため結婚までは親と同居する例が多く,特に給与住宅への入居機会が少ない女性においてその傾向が強い.結婚後,持家の取得に向かう居住経歴を辿ることは,多産少死世代と共通していた.夫婦のみの世帯や子どもが1人の世帯が結婚後の比較的早い段階で集合持家を取得する傾向にあるのに対し,子どもが2人以上の世帯では第2子が誕生した後に戸建持家を取得する傾向にある.大学卒業以降の対象者の居住地の分布変動は少ない.これは,居住経歴の出発点が東京圏内に散在している上に居住地移動の大半が短距離であり,外向的な移動と内向的な移動が相殺しあっているためである.都心周辺に値頃感のあるマンションが供給されている状況でも,郊外に居住する対象者は多い.郊外に勤務先を持つ対象者は,通勤利便性を重視して勤務地と同一セクターに居住地を選択する傾向にある.少産少死世代は親も同じ大都市圏に居住している場合が多いため,親との近居を実現できる可能性が高い.対象者でも結婚後に親と近居する傾向が明瞭にみられた.
著者
由井 義通 若林 芳樹 中澤 高志 神谷 浩夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.139-152, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

日本の女性を取り巻く社会的・経済的状況は過去数十年の間に急激に変化した.そうした変化の一端は,働く女性の増加を意味する「労働力の女性化」に現れている.とりわけ大都市圏ではシングル女性が増大しているが,それは職業経歴の中断を避けるために結婚を延期している女性が少なくないことの現れでもある.この傾向は,1986年の男女雇用機会均等法の成立以降,キャリア指向の女性の労働条件が改善されたことによって促進されている.その結果,日本の女性のライフコースやライフスタイルは急激に変化し,多様化してきた.筆者らの研究グループは,居住地選択に焦点を当てて,東京大都市圏に住む女性の仕事と生活に与える条件を明らかにすることを試みてきた.本稿は,筆者らの研究成果をまとめた著書『働く女性の都市空間』に基づいて,得られた主要な知見を紹介したものである.取り上げる主要な話題は,ライフステージと居住地選択,多様な女性のライフスタイルと居住地選択,シングル女性の住宅購入とその背景である.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.49-70, 2015-01-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
32

本稿では,高度成長期の勝山産地において,「集団就職」が導入され終焉に至るまでの経緯を分析する.進学率の上昇や大都市との競合により,労働力不足に直面した勝山産地の機屋は,新規中卒女性の調達範囲を広域化させ,1960年代に入ると産炭地や縁辺地域から「集団就職者」を受け入れ始める.勝山産地の機屋は,自治体や職業安定所とも協力しながらさまざまな手段を講じ,「集団就職者」の確保に努めた.「集団就職者」の出身家族の家計は概して厳しく,それが移動のプッシュ要因であった.勝山産地の機屋が就職先として選択された背景としては,採用を通じて信頼関係が構築されていたことが重要である.数年すると出身地に帰還する人も多かったとはいえ,結婚を契機として勝山産地に定着した「集団就職者」もいたのである.高度成長期における勝山産地の新規学卒労働市場は,国,県,産地といった重層的な空間スケールにおける制度の下で,社会的に調整されていた.
著者
中澤 高志
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.285-305, 2016

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;「地方創生」論の特徴は,人口減少による「地方消滅」と東京の「極点社会」化という終局を回避する手段として,大都市圏から地方圏への人口の再配置による出生率向上を重視している点にある.とりわけ東京は,世界都市にふさわしい競争力を保持すべきとされ,その足かせになりかねない高齢者もまた,地方圏への移住が推奨される.そこには,東京を国民経済推進のエンジンとして,地方圏を子育てと高齢者医療・介護というケアの空間として,それぞれ純化させる論理が潜んでいる.「地方創生」論において,地域は国民経済や人口を量的に維持・拡大するための装置とみなされ,地域間格差の是正という社会的公正に対する意識は欠落している.<BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp; 「地方創生」論の批判的検討を踏まえ,本稿では,ライフコースを通じた自己実現の過程における制約と機会という観点から地域間格差をとらえ直す.自己実現のための諸機会の多くは土地固着的であるため,いかなる地域政策をもってしても完全な地域間の均衡化は達成できない.したがって,住み続ける自由に加えて,移動の自由をも含めた地理的制約からの自由の拡大を目指すべきである.本稿では,カール・ポランニーの議論を敷衍し,資本主義社会に生きる者にとって不可避な「権力と市場」の空間的形態として,地域構造を認識する.そして,社会的自由の拡大という基準に照らしてより望ましい地域構造を構想することが,地域政策論の目的となり,理念となると論じる.</p>
著者
中澤 高志
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.328-334, 2021 (Released:2021-10-31)
参考文献数
53
被引用文献数
1
著者
中澤 高志 佐藤 英人 川口 太郎
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.144-162, 2008 (Released:2018-01-06)
参考文献数
27
被引用文献数
8 6

This paper examines the process of generational transition in two suburban neighborhoods in the Tokyo metropolitan area, focusing on the inter-generational reproduction of social status in their residents. One neighborhood is the Kamariya District located in the southwestern sector of the Tokyo metropolitan area. The other is the Yotsukaido District in the eastern sector. Both neighborhoods were developed in the 1970s as residential districts for commuters to the downtown, and are situated 40 kilometers away from Tokyo Station, the center of the Tokyo metropolitan area. The two neighborhoods are similar in the ages, educational attainments, and occupational class of the first generation residents: Husbands who are now in their 60s or 70s were typically white collar workers employed by major companies or the public sector and once commuted to the central business district by train and bus in relay, while wives stayed at home devoting most of their time to housekeeping and childrearing. The first generation residents of both neighborhoods think it ideal to keep independent of, but in close relationships with, their adult children.The broad similarity between the two neighborhoods seems to verify a prevailing recognition that the suburbs are a homogeneous space not only physically but also socially; however, comparison of the social status of the second generation demands re-investigation. The male second generation of the Kamariya District have well succeeded to the high social status of the first generation. On the contrary, the process of inter-generational reproduction of social status does not seem to function well in the case of the Yotsukaido District. More of the Yotsukaido second generation are in non-permanent positions or unemployed in the labor market and live with their parents than the Kamariya second generation.It is also interesting that the two groups of the second generation who are already married are distributed differently within the Tokyo metropolitan area. The residences of the Kamariya second generation are concentrated around the Kamariya District. The married second generation of the Yotsukaido District live also mainly within the eastern sector where the Yotsukaido District is located, however, the pattern of the distribution shows more expansion to the opposite side of the metropolitan area than that of the Kamariya second generation. Both Kamariya and Yotsukaido districts were once thought of as appropriate residential neighborhoods for downtown white collar workers. The difference in the distribution of the married second generation implies that the Kamariya District is still recognized as a commuter’s neighborhood by the second generation, but Yotsukaido no longer is.Along with the generational transition, some suburban neighborhoods will remain residential areas of commuters to the downtown who have high social status, whereas some neighborhoods are changing into self-contained territories which include both home and workplace, experiencing fluctuations in the attributes of residents.