- 著者
-
加藤 喜之
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.93, no.1, pp.101-124, 2019
<p>自然法則を神の意志と密接に結びつけたデカルトの革新的な考えによって、「自然における悪」とそれさえ意志する「善なる神」という概念的な矛盾が生じてしまう。多くの初期近代の思想家たちはこれを悪の問題とみなし、様々な解決法を論じた。十七世紀オランダの哲学者スピノザもそのひとりである。しかし先行研究をみても、スピノザの悪の問題についての議論とその解決策を的確に論じているものはない。そこで本稿はその全体像を明らかにするために、まず、一六六四年から六五年にかけて交わされた在野の神学・哲学者W・ブレイエンベルフとの書簡を分析する。つぎに、『エチカ』(一六七七年)の第四部でスピノザが悪について論じた箇所に着目し、伝統的な哲学との理解の違いを確認する。最後に彼の『神学・政治論』(一六七〇年)をひらき、キリスト教会と悪の関係に光をあて、この問題の解決としての彼の国家論に注目したい。</p>