- 著者
-
藤代 裕之
- 出版者
- 一般社団法人 社会情報学会
- 雑誌
- 社会情報学 (ISSN:21872775)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.2, pp.143-157, 2019
<p>本研究は,2018年に行われた沖縄県知事選挙に関するフェイクニュース検証記事を事例に,地方紙である沖縄タイムスのニュース制作過程を,地方紙のニュースバリューである「地域性」,「取材先」,「社内」,「同業他社」をインターネットメディアとの関係性を考慮に入れながら明らかにしたものである。3人の記者の聞き取り調査から,フェイクニュースを取材することで,これまでは異なると考えられていた既存メディアとインターネットメディアのニュースバリューが重なり,インターネットメディアであるバズフィード日本版が「同業他社」として位置づけられたことが分かった。これにより,候補者間で偏りが生じないよう報道するという記者が捉えていた選挙報道のニュース制作過程の公平性の「原則」が揺らぐことになった。また,地理的環境に左右されないインターネットメディアにより,地方紙が重視するニュースバリュー「地域性」に二重性が生じた。これらの変化が,これまでの地方紙のニュースバリューで取材を進める記者に戸惑いを生むことになった。選挙時のフェイクニュース検証記事における課題として,公平性についての議論が必要である。本研究の調査対象者は限られており,フェイクニュース検証記事の制作過程を一般化することは難しいが,フェイクニュース検証というソーシャルメディア時代の新たなニュース制作過程を明らかにしたという点で意義がある。</p>