著者
高田 佳輔
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.89-105, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
24

これまでMassively Multiplayer Online Role-Playing Game(MMORPG)に関する先行研究において,仮想世界内での活動は,問題解決および対人関係能力を高めるという結果が量的な検討によって示唆されているが,MMORPGにはさまざまな集団および難易度の活動があり,それらの区別が十分に行われていない。その一因としては,仮想世界内の活動について,質的な検討が未だ十分に行われていないことが挙げられる。したがって,本稿は,我が国で流行するMMORPGの1つであるFinal Fantasy XIVを対象に,成員が流動的な集団における高難度クエストに焦点を当て,活動の内実およびプレイヤーに求められる能力について参与観察およびインタビュー調査による質的検討を行った。 その結果,第1に,高難度クエストは,仕掛けられた罠に対処するための問題解決能力と,非言語的情報の多くが遮断された環境下での,対人関係能力が必要とされる環境であることが示された。第2に,高難度クエストにおけるプレイヤーの思考や行動を抽出し,コーディングを行うことで,高難度クエストでは「問題の明確化」,「根拠・事実の確認」,「原因の分析および解決策の案出」,および,「実行と評価」といったサブカテゴリーによって構成される合理的問題解決能力と,「同調行動」,および,「調和行動」によって構成されるチームワーク能力が重要であることが示された。さらに,以上の能力は,現実世界の集団作業で重要な2つのリーダーシップの機能として提示される「目標達成」と「集団維持」を包含し,それぞれがリーダーシップを介在せずに機能していることが示された。
著者
趙 慶喜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.35-47, 2018

<p>本稿はここ数年韓国で熾烈な論争を引き起こしている女性嫌悪言説を追跡したものである。「嫌悪(혐오)」という語には,憎悪(hate)と嫌悪(disgust),そして恐怖(phobia)が混在している。嫌悪は新自由主義時代のグローバルな現象であると同時に,韓国社会を強力に規定してきた分断イデオロギーや敵対性の記憶によって増幅される情動である。本稿では,2015年以後に起きたいくつかの出来事を通して,「女嫌」という情動の増幅と転換の過程を考察した。</p><p>江南駅女性殺害事件とともに触発された韓国の「女嫌」論争は,メガリアンという新たなフェミニスト集団を誕生させた。メガリアンは女性嫌悪に反対するという消極的な立場にとどまらず,「女嫌嫌」を目指すミラーリング戦略をとった。ミラーリングは単に原本のコピーに止まらず,原本がいかに差別と嫌悪にまみれたものであるのかを反射を通して知らしめる戦略であった。彼女たちは,男性たちの女性への快楽的な嫌悪表現や日常的なポルノグラフィをそっくりそのまま転覆することで男女の規範を撹乱した。メガリアが爆発的な波及力を持ちえたのは,女性たちの共感と解放感という同時代的な情動が共振した結果であった。</p><p>しかし,女嫌をめぐる葛藤は単なる男女の利害関係をこえたより複雑な分断にさらされた。とりわけLGBTへの反応は,右派/左派あるいは世代や宗教のあいだの様々な対立構図を生み出した。たとえばキリスト教保守陣営による「従北ゲイ」という言葉は,反共と反同性愛を結合させることで韓国社会の内なる敵への憎悪と嫌悪を凝縮させ,フェミニストやLGBTなど既存の境界を撹乱する存在に対する過剰な情動の政治を作動させた。本稿は「女嫌」言説の増幅過程を通して,それが韓国社会に蓄積された様々なイデオロギー的葛藤のひとつの兆候であることを明らかにした。</p>
著者
藤代 裕之 松下 光範 小笠原 盛浩
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.49-63, 2018

<p>東日本大震災以降,ソーシャルメディアは大規模災害時の情報伝達ツールとして重要度を増しているが,情報爆発やデマといった課題により活用が困難になっている。本研究では,課題解決を目的に,限られた時間的制約のもとで優先度の高い情報を整理する情報トリアージのソーシャルメディアへの適用可能性を検討する。調査手法は,熊本地震に関するソーシャルメディア情報を収集・分析するとともに,報道機関や消防機関に対してソーシャルメディア情報の影響についてインタビューを行った。その結果,ソーシャルメディアから救助情報を探すことは困難であること,消防機関では通常時には情報トリアージが機能しているが,大規模災害時にはソーシャルメディアの情報を含む膨大な通報が寄せられたことにより,機能不全に陥っていたことが明らかになった。ソーシャルメディア情報の整理を消防機関の活動と連携して行うことで,情報トリアージが機能し,情報爆発やデマといった課題を解決出来る可能性があることが明らかになった。本研究は,大規模災害時の情報伝達ツールとしてソーシャルメディアを活用するためには,ソーシャルメディア情報のみを対象に研究するだけではなく,被災地での活動を調査し,連携する方法を検討することが重要であることを示している。この知見は,救助活動のみならずソーシャルメディアを通した被害状況の伝達や物資支援などにも応用が可能であろう。</p>
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-43, 2013

本研究では「SNS疲れ」に繋がるネガティブ経験について明らかにし,「SNS疲れ」という抽象的な言葉で捉えられてきた現象を具体化することが目的である。高校生15名に対して半構造化面接を行った結果,36のエピソードを得た。36のエピソードをコード化し,それが「受信者」または「発信者」としてのエピソードであるのか,「現実世界で交流のある者」または「現実世界で交流のない者」とのエピソードであるのか,上記2つの軸に基づき分類することが妥当であると思われた。その結果,「受信者」としてのネガティブ経験が複数語られ,特に「誹謗中傷発信」「見知らぬ者からの接近」が挙げられた。つまり,SNSでほとんど発信を行っていない者であっても,「SNS疲れ」に至る可能性が明らかになったと言える。また,「現実世界で交流のある者」に関するネガティブ経験も複数語られ,その理由として,SNSが既存の関係の中で主に利用されており,SNSを退会することによる既存の関係への悪影響を高校生が懸念している為だと思われる。
著者
趙 慶喜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.35-47, 2018 (Released:2018-10-12)
参考文献数
14

本稿はここ数年韓国で熾烈な論争を引き起こしている女性嫌悪言説を追跡したものである。「嫌悪(혐오)」という語には,憎悪(hate)と嫌悪(disgust),そして恐怖(phobia)が混在している。嫌悪は新自由主義時代のグローバルな現象であると同時に,韓国社会を強力に規定してきた分断イデオロギーや敵対性の記憶によって増幅される情動である。本稿では,2015年以後に起きたいくつかの出来事を通して,「女嫌」という情動の増幅と転換の過程を考察した。江南駅女性殺害事件とともに触発された韓国の「女嫌」論争は,メガリアンという新たなフェミニスト集団を誕生させた。メガリアンは女性嫌悪に反対するという消極的な立場にとどまらず,「女嫌嫌」を目指すミラーリング戦略をとった。ミラーリングは単に原本のコピーに止まらず,原本がいかに差別と嫌悪にまみれたものであるのかを反射を通して知らしめる戦略であった。彼女たちは,男性たちの女性への快楽的な嫌悪表現や日常的なポルノグラフィをそっくりそのまま転覆することで男女の規範を撹乱した。メガリアが爆発的な波及力を持ちえたのは,女性たちの共感と解放感という同時代的な情動が共振した結果であった。しかし,女嫌をめぐる葛藤は単なる男女の利害関係をこえたより複雑な分断にさらされた。とりわけLGBTへの反応は,右派/左派あるいは世代や宗教のあいだの様々な対立構図を生み出した。たとえばキリスト教保守陣営による「従北ゲイ」という言葉は,反共と反同性愛を結合させることで韓国社会の内なる敵への憎悪と嫌悪を凝縮させ,フェミニストやLGBTなど既存の境界を撹乱する存在に対する過剰な情動の政治を作動させた。本稿は「女嫌」言説の増幅過程を通して,それが韓国社会に蓄積された様々なイデオロギー的葛藤のひとつの兆候であることを明らかにした。
著者
柳 文珠
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-29, 2013-06-30 (Released:2017-02-04)

本稿は,韓国においてインターネット文化の改善を目的とするインターネット実名制の導入過程について概観し,さらに,デッグル数という量的要素の変化に注目しながら,インターネット実名制の影響に関する考察を行う。まず,選挙掲示板の実名制の導入は,新たな政治参加手段として成長したインターネットの威力に対して警戒を強めた政界の積極的な主導によるものであった。それに対し,一般掲示板の実名制(制限的本人確認制)は,インターネット上で発生した一連の出来事が世間を騒がせるなど社会問題化したことをきっかけに,法的規制の必要性を訴える声が高まったため,比較的世論の支持を受けて導入に至るようになる。次に,インターネット実名制の施行後,韓国におけるインターネット空間にどのような変化が生じているのかを検討するため,ポータルサイトDAUMが提供するニュースに付けられたデッグル数の推移を分析した。その結果,デッグル数は,制限的本人確認制の施行直後と長期的な期間において減少していることが明らかになり,デッグルを用いた意見表明の活発さが萎縮している可能性が示唆された。
著者
柳 文珠
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-29, 2013

本稿は,韓国においてインターネット文化の改善を目的とするインターネット実名制の導入過程について概観し,さらに,デッグル数という量的要素の変化に注目しながら,インターネット実名制の影響に関する考察を行う。まず,選挙掲示板の実名制の導入は,新たな政治参加手段として成長したインターネットの威力に対して警戒を強めた政界の積極的な主導によるものであった。それに対し,一般掲示板の実名制(制限的本人確認制)は,インターネット上で発生した一連の出来事が世間を騒がせるなど社会問題化したことをきっかけに,法的規制の必要性を訴える声が高まったため,比較的世論の支持を受けて導入に至るようになる。次に,インターネット実名制の施行後,韓国におけるインターネット空間にどのような変化が生じているのかを検討するため,ポータルサイトDAUMが提供するニュースに付けられたデッグル数の推移を分析した。その結果,デッグル数は,制限的本人確認制の施行直後と長期的な期間において減少していることが明らかになり,デッグルを用いた意見表明の活発さが萎縮している可能性が示唆された。
著者
根村 直美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.73-88, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
22

本稿では,まず,押井守監督の映画『イノセンス』と欧米発の「サイボーグ映画」との比較考察を行った。そして,『イノセンス』には,「ポスト・モダン」状況の中で呼び起こされつつある理論的・思想的な懐疑がヒューマニズムへと回収されてしまうのを回避しようとする思考が認められることを明らかにし,そのような思考をポスト・ヒューマニズムと呼んだ。 続いて,そうしたポスト・ヒューマニズムがどのような身体図式・イメージをうみだしているのかを分析することを試みた。『イノセンス』においては,人形の身体は人工的に構築されたものとして捉えられている。その身体図式・イメージは,映画全体の基調となっているのであるが,人形の身体は,実は人間の身体の表現に他ならない。すなわち,『イノセンス』は,その<社会的に構築されたもの>という身体理解を通じて,<有機体>としての<人間の身体>に付与された<神秘性>から我々を解き放ったのである。 また,『イノセンス』の身体図式・イメージにおいては,構築される身体とは,<他者>と関わることにより立ち現れる具体的な状況において,画定された境界線をもつ。すなわち,その身体は,自分ではないが自分の一部であるような<他者>とのネットワークと相互作用がうみだす「偶発性」に基づくものである。しかも,そうした身体図式・イメージは,ヒューマニズムの枠組みには回収されえない<他者>への<敬意>とも結びついているのである。
著者
河井 大介
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.31-46, 2014-09-30 (Released:2017-02-04)
被引用文献数
2

Krautら(1998)が最初のインターネット・パラドクスに関する論文を発表した当時と比べ,インターネット利用環境は大きく変化した。特に近年の社会的な関係に基づくソーシャルメディアの普及は,実社会での社会的な関係に大きな影響を及ぼす可能性がある。その一方で,ソーシャルメディア上での人間関係に負担を感じるいわゆる「ソーシャルメディア疲れ」などの議論もある。すなわちソーシャルメディアの利用によって友人関係や精神的健康にネガティブな影響を及ぼすソーシャルメディア・パラドクスの可能性が考えられる。そこで本稿では,2011〜2012年にかけて実施したインターネットを用いたパネル調査のデータを用いて,このソーシャルメディア・パラドクスの可能性について分析を行った。ソーシャルメディアの新規利用者では,よく投稿をする人が一時的に友人関係満足度にポジティブな影響を及ぼしているが,全体でみるとソーシャルメディアをよく投稿するほど友人関係満足度や孤独感に対してネガティブな影響を及ぼす傾向が示された。つまり社会的な関係を基礎とするソーシャルメディアの利用において,友人関係や精神的健康にネガティブな影響を及ぼすというソーシャルメディア・パラドクスの存在の可能性を示した。
著者
高田 佳輔
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.89-105, 2016

<p>これまでMassively Multiplayer Online Role-Playing Game(MMORPG)に関する先行研究において,仮想世界内での活動は,問題解決および対人関係能力を高めるという結果が量的な検討によって示唆されているが,MMORPGにはさまざまな集団および難易度の活動があり,それらの区別が十分に行われていない。その一因としては,仮想世界内の活動について,質的な検討が未だ十分に行われていないことが挙げられる。したがって,本稿は,我が国で流行するMMORPGの1つであるFinal Fantasy XIVを対象に,成員が流動的な集団における高難度クエストに焦点を当て,活動の内実およびプレイヤーに求められる能力について参与観察およびインタビュー調査による質的検討を行った。</p><p> その結果,第1に,高難度クエストは,仕掛けられた罠に対処するための問題解決能力と,非言語的情報の多くが遮断された環境下での,対人関係能力が必要とされる環境であることが示された。第2に,高難度クエストにおけるプレイヤーの思考や行動を抽出し,コーディングを行うことで,高難度クエストでは「問題の明確化」,「根拠・事実の確認」,「原因の分析および解決策の案出」,および,「実行と評価」といったサブカテゴリーによって構成される合理的問題解決能力と,「同調行動」,および,「調和行動」によって構成されるチームワーク能力が重要であることが示された。さらに,以上の能力は,現実世界の集団作業で重要な2つのリーダーシップの機能として提示される「目標達成」と「集団維持」を包含し,それぞれがリーダーシップを介在せずに機能していることが示された。</p>
著者
辻 和洋 中原 淳
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.37-54, 2018-12-12 (Released:2019-02-02)
参考文献数
37

本研究は2001年に新聞協会賞を受賞した高知新聞社「高知県庁闇融資問題報道」を事例に,調査報道のニュース生産過程を明らかにした事例研究である。取材のきっかけとなる情報をつかむ基礎的調査の段階から,発展的調査の段階を経て,第一報の記事化の準備の段階までを,記者のインタビュー調査によって明らかにした。とりわけ,日本のマスメディアが持つ構造的な問題の一つとして指摘されている編集権の問題に着目し,編集権を持つ編集幹部が,ニュース生産過程において記者にどのような影響を及ぼすのかを考察した。研究の結果,記者が編集権を持つ幹部の介入を危惧して,情報管理を徹底し,取材対象者を慎重に選択したり,社内でも情報共有を行わなかったりするような行動が見られた。また,編集幹部が報道リスクを考え,記者に対して条件を提示,報道の先送り,代替案の提示といった介入を行ったことが明らかになった。それに対し,記者は報道することを強く促す上申,条件に対応,組織外の影響力の活用といった対応策を講じていた。本研究では,地方紙の単一事例の検証かつ記者のみのインタビュー調査にとどまるものの,石川 (2003) や花田 (2013) が指摘するように,編集権が,記者の行うニュース生産過程に影響を及ぼしうる可能性があることが示唆された。代表性に課題があり,編集権の影響が事例固有のものであるかどうかは検証の余地が残されている。しかし,本研究により調査報道の質的・量的向上をもたらす上で,調査報道のニュース生産過程における記者の取材行為だけでなく,組織内における記者と編集者の相互行為にも着目する重要性が示された。
著者
河島 茂生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.53-69, 2016 (Released:2017-02-03)
参考文献数
42

本論文では, ネオ・サイバネティクスの理論のなかでも特にオートポイエーシス論に依拠しながら, 第3次ブームの人工知能を定位し倫理的問題の基礎づけを目指した。オートポイエティック・システムは自分で自分を作るシステムであり, 生物の十分かつ必要な条件を満たす。一方, アロポイエティック・マシンは, 外部によって作られるシステムであり, 外部からの指示通りに動くように調整されている。この区分に照らせば, 第3次ブームの人工知能は, 人間が設定した目的に応じたアウトプットが求められるアロポイエティック・マシンであり, 自己制作する生物ではない。それゆえ, 責任を帰属する必要条件を満たさず, それ自体に責任を課すことは難しい。人工知能に関する倫理は, あくまでも人間側の倫理に帰着する。とはいえ人間は, しばしば生物ではない事物を擬人化する。特に生物を模した事物に対しては愛情を感じる。少なからぬ人々が人工知能に度を越した愛情を注ぐようになると社会制度上の対応が要される。そうした場合であっても, 自然人や法人とは違い, 人工知能はあくまでもアロポイエティック・マシンであることには留意しなければならない。
著者
崔 銀姫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.93-108, 2012

本稿では,1950年代の日本における「観光アイヌ」の誕生をめぐって全国的な流行と社会的なブームに至るまでの歴史を,近代後半からおよそ60年間(1899年の「北海道旧土人保護法の制定」〜1959年の『コタンの人たち』)の時代における「観光アイヌとは何か」の問題を中心に,単なる「差別」と「同化」の問題に帰結させるのではなく,20世紀初期から半ばのメディアの空間の成立と変容をメディア文化論の視点から鳥瞰的に検討することで,「覧(み)せる/観(み)られる」といった身体を媒体にした経験のなかに隠れていた歴史社会的意味とその変容を考える。考察の結果,第1期の時代(1899年〜1926年)において,アイヌにとってはそうした博覧会の主催者たちの欲望への理解には至らず,「観られる」アイヌの身体の方向性は異なったものであった。その後,第2期の時代(1927年〜1945年)になるとアイヌの大きな変化としては,「民族意識の高揚」とアイヌ自らが各種の著作物を出版したことであった。その後の第3期(1946年〜1959年)の戦争が終わってから1959年までの特徴は,「観光の介入」による変化があった。「観光アイヌ」とは,さまざまなファクターが相まった60年間のなかで「観られる」アイヌとして風景化されていたといえる。
著者
後藤 晶
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-16, 2015-10-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
29

東日本大震災に見られるように, 人間は常にいつ生じるかわからない「変動」に直面しながら生きている。本研究においては突然起こる外生的な変動を「カタストロフ」と定義する。その上で, 発生時期においてあいまい性を有するカタストロフの「予告」及び「発生」が協力行動に与える影響を検討する。そのために, 繰り返し公共財ゲームをベースとした新たなゲームである「カタストロフゲーム」を提案し, 実験的な検証を行った。実験時には損失の「発生の確実性」「発生する期間」, そして「発生する損失の規模」を伝えて実施した。その結果, ①カタストロフの予告による貢献額の変化は認められなかった。一方, 予告されたカタストロフの発生によって, ②全てのプレイヤーにカタストロフが発生する条件における貢献額の増加, 一部のプレイヤーにカタストロフが発生する条件において③カタストロフ発生群における貢献額の増加, ④カタストロフ非発生群における貢献額の増加が認められた。本研究では実験ゲームの枠組みによって災害時に観察されてきた人間行動と類似した結果が観察された。損失発生の単純な予告や予測は人間行動に影響を与えないことが示唆され, どのような情報が予告や予測として効果的なものになるのか, そしてなぜ損失発生時に協力行動が促進されるのか, その動機に対する検討が今後の課題としてあげられる。
著者
是永 論
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.1-9, 2013

本稿では,「人々の経験」について考察することを社会情報学の課題とした上で,その課題へのアプローチとしてのエスノグラフィーの位置づけを,特にエスノメソドロジーにより特徴付けられた(informed)ものとして論述する。とりわけ,人々が「情報」という表現をともなう知識を用いる際に,そこで参照されている規範を明らかにすることに対して,エスノグラフィーがどのように貢献する可能性を持ち,さらにそのことが情報に関する経験に根ざして社会現象をとらえる視点にどのように作用するのか,について論述する。
著者
藤代 裕之 松下 光範 小笠原 盛浩
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.49-63, 2018 (Released:2018-05-19)
参考文献数
10

東日本大震災以降,ソーシャルメディアは大規模災害時の情報伝達ツールとして重要度を増しているが,情報爆発やデマといった課題により活用が困難になっている。本研究では,課題解決を目的に,限られた時間的制約のもとで優先度の高い情報を整理する情報トリアージのソーシャルメディアへの適用可能性を検討する。調査手法は,熊本地震に関するソーシャルメディア情報を収集・分析するとともに,報道機関や消防機関に対してソーシャルメディア情報の影響についてインタビューを行った。その結果,ソーシャルメディアから救助情報を探すことは困難であること,消防機関では通常時には情報トリアージが機能しているが,大規模災害時にはソーシャルメディアの情報を含む膨大な通報が寄せられたことにより,機能不全に陥っていたことが明らかになった。ソーシャルメディア情報の整理を消防機関の活動と連携して行うことで,情報トリアージが機能し,情報爆発やデマといった課題を解決出来る可能性があることが明らかになった。本研究は,大規模災害時の情報伝達ツールとしてソーシャルメディアを活用するためには,ソーシャルメディア情報のみを対象に研究するだけではなく,被災地での活動を調査し,連携する方法を検討することが重要であることを示している。この知見は,救助活動のみならずソーシャルメディアを通した被害状況の伝達や物資支援などにも応用が可能であろう。
著者
棚田 梓 岡田 勇
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.33-47, 2013

インターネットメディアの発展により,いわゆる放送と通信の境界があいまいになるにつれ,地上デジタルテレビ放送の地位が急速に低下してきている。しかし,多メディア化が進むにつれ,テレビ局の持っているノウハウや高度な編集能力に基づく高品質な番組を提供しうるポテンシャルは,引き続きメディアとしての差別化された価値を維持する可能性を持っている。視聴者がメディアを選択する時代に,地上デジタルテレビ放送が番組の品質を維持することは,重要な政策課題となるはずである。本稿では,地上デジタルテレビ放送のこのような差別的価値を強化するための方策として,放送倫理・番組向上機構(BPO)に着目し,事例分析を行いBPOの機能と役割について考察した。はじめにBPOは3つの事件を契機として,公権力の介入を阻止することを主目的として役割強化が図られてきたことを明らかにした。次に,BPOは視聴者の苦情処理という側面に加え,番組の品質向上への期待や業界への提言といった積極的役割を行っている一方,BPOの決定を放送局が遵守するというのは申し合わせに過ぎず,BPOが有効に機能しない事例もあることを示した。BPOで討議された事例を分析した結果,BPOは地上デジタルテレビ放送の差別化要因になりうることを指摘した。また,そのために放送業界がBPOの決定を遵守したり,社員教育の徹底を行ったりする必要があることを示した。現在のBPOには客観性についていくつかの批判が存在しているが,その是正には時間がかかることであり現在のBPOの自由度に配慮しつつ活動を見守るべきであることを主張した。
著者
河島 茂生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-14, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
18

本論文は,AIやロボットが社会に普及している状況下において,また複数のAIが通信ネットワークにおいて接続していく状況下において,いかに倫理的責任の帰属を位置づけるかを検討している。ネオ・サイバネティクスの理論に依拠しつつ,EU議会における電子人間の提言への懸念を示し,AIネットワーク環境下の集合的責任ともいうべき考え方を支持した。電子人間確立の提案は,オートポイエティック・システムでないものに人格という位置を与えることであり,それは,実情に合わないのに加えて倫理的問題を引き起こしかねない。電子人間を制度的に確立しなくとも,集合的責任の制度構築により補償は可能である。近年のコンピュータ技術の動向を鑑みるに,特定の人や組織に責任を帰属できない場合が想定される。その場合は,被害者を救済し,開発者・利用者の萎縮を引き起こさないために集合的責任の導入が求められる。ただしAIネットワーク状況下における責任のありようは,集合的責任のみだけは不足である。特定の人や組織の瑕疵が明確である場合は,そこに責任を帰属させることが望まれる。これは近代以降の慣習になっており容易に変えることが難しいうえ,開発者・利用者の故意の過失もしくは怠慢,責任感の減退を防ぐためには,また技術を改善する動機の維持のためには必要であると考えられる。
著者
佐々木 加奈子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-14, 2018

<p>東日本大震災後に開始された地域情報のアーカイブ活動には,以前から複数の問題が指摘されてきた。これに加えて,近年,多くの震災アーカイブが「あの時,どう避難したのか」という被災上の教訓の伝達に焦点を当てすぎており,その土地に生きた人々の多元的なライフストーリーが省略されているとする指摘が現れた。先行研究の分析は,しかしながら,多元的なライフストーリーの生成プロセスの理論化がまだ十分ではない。佐々木(2016)では,福島県双葉郡浪江町民に焦点をあてて多元的なライフストーリーの生成を実際に試みており,「協働」の場を設定することで,その中での相互行為の中から多元的なライフストーリーが語られうることを実証的に示している。しかし,なぜその結果が得られるのか等は明らかにされていない。本論文では,行為を演技として捉えるゴフマンの演劇論的アプローチの役割概念を用いて,その仕組みを明らかにした。協働の場では,多層的なオーディエンス構造とオーディエンス・パフォーマー間の親密な関係性によって,チームパフォーマンスが促された。その際,参加者たちは自由に自身の役割を見出すことができ,メディアが設定する避難者像から距離を取ることができ,これにより新たな語りの発現に至った。</p>
著者
根村 直美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.73-88, 2016

<p>本稿では,まず,押井守監督の映画『イノセンス』と欧米発の「サイボーグ映画」との比較考察を行った。そして,『イノセンス』には,「ポスト・モダン」状況の中で呼び起こされつつある理論的・思想的な懐疑がヒューマニズムへと回収されてしまうのを回避しようとする思考が認められることを明らかにし,そのような思考をポスト・ヒューマニズムと呼んだ。</p><p> 続いて,そうしたポスト・ヒューマニズムがどのような身体図式・イメージをうみだしているのかを分析することを試みた。『イノセンス』においては,人形の身体は人工的に構築されたものとして捉えられている。その身体図式・イメージは,映画全体の基調となっているのであるが,人形の身体は,実は人間の身体の表現に他ならない。すなわち,『イノセンス』は,その<社会的に構築されたもの>という身体理解を通じて,<有機体>としての<人間の身体>に付与された<神秘性>から我々を解き放ったのである。</p><p> また,『イノセンス』の身体図式・イメージにおいては,構築される身体とは,<他者>と関わることにより立ち現れる具体的な状況において,画定された境界線をもつ。すなわち,その身体は,自分ではないが自分の一部であるような<他者>とのネットワークと相互作用がうみだす「偶発性」に基づくものである。しかも,そうした身体図式・イメージは,ヒューマニズムの枠組みには回収されえない<他者>への<敬意>とも結びついているのである。</p>