著者
長 広美 柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.191-206, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
37

本研究は,先行研究から見えた調査上の課題点を踏まえ精度の高いSNS利用状況を把握すること,各SNS利用の代替・補完性について明らかにすること,そして,SNS利用が学業成績に及ぼす影響について体系的に解明することを目的とした。SNS利用時間の測定では,調査票調査や日記式調査にみられる自己申告によるものでなく,調査対象者の大学生(N=153)が所持しているスマートフォンのバッテリー使用状況を用いて収集した。学業成績の測定についても,先行研究の多くが採用している自己申告GPAではなく,専門科目の学期末試験の得点を用いた。分析の結果,LINEとInstagram,TwitterとYouTubeとの間にそれぞれ補完的な利用関係があることが明らかになった。学業成績には,LINE,Twitter,YouTubeの利用が負の影響を与えていた。つまり,これらのSNSの利用時間が増えるほど学業成績が悪くなることが示唆された。本研究結果は,SNS利用によって注意力が散漫になったり,SNSに費やす時間が学習の時間を減少させ,結果として学業成績の低下につながるという先行研究結果と整合性があるものであった。本研究では,SNS利用と学業成績との関連性の議論に実証的根拠を示すことができたとともに,当研究領域における現代社会のSNS利用行動の複雑さを解明する一つの可能性を見出した。
著者
高田 佳輔
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.89-105, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
1

これまでMassively Multiplayer Online Role-Playing Game(MMORPG)に関する先行研究において,仮想世界内での活動は,問題解決および対人関係能力を高めるという結果が量的な検討によって示唆されているが,MMORPGにはさまざまな集団および難易度の活動があり,それらの区別が十分に行われていない。その一因としては,仮想世界内の活動について,質的な検討が未だ十分に行われていないことが挙げられる。したがって,本稿は,我が国で流行するMMORPGの1つであるFinal Fantasy XIVを対象に,成員が流動的な集団における高難度クエストに焦点を当て,活動の内実およびプレイヤーに求められる能力について参与観察およびインタビュー調査による質的検討を行った。 その結果,第1に,高難度クエストは,仕掛けられた罠に対処するための問題解決能力と,非言語的情報の多くが遮断された環境下での,対人関係能力が必要とされる環境であることが示された。第2に,高難度クエストにおけるプレイヤーの思考や行動を抽出し,コーディングを行うことで,高難度クエストでは「問題の明確化」,「根拠・事実の確認」,「原因の分析および解決策の案出」,および,「実行と評価」といったサブカテゴリーによって構成される合理的問題解決能力と,「同調行動」,および,「調和行動」によって構成されるチームワーク能力が重要であることが示された。さらに,以上の能力は,現実世界の集団作業で重要な2つのリーダーシップの機能として提示される「目標達成」と「集団維持」を包含し,それぞれがリーダーシップを介在せずに機能していることが示された。
著者
柳 文珠
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-29, 2013-06-30 (Released:2017-02-04)

本稿は,韓国においてインターネット文化の改善を目的とするインターネット実名制の導入過程について概観し,さらに,デッグル数という量的要素の変化に注目しながら,インターネット実名制の影響に関する考察を行う。まず,選挙掲示板の実名制の導入は,新たな政治参加手段として成長したインターネットの威力に対して警戒を強めた政界の積極的な主導によるものであった。それに対し,一般掲示板の実名制(制限的本人確認制)は,インターネット上で発生した一連の出来事が世間を騒がせるなど社会問題化したことをきっかけに,法的規制の必要性を訴える声が高まったため,比較的世論の支持を受けて導入に至るようになる。次に,インターネット実名制の施行後,韓国におけるインターネット空間にどのような変化が生じているのかを検討するため,ポータルサイトDAUMが提供するニュースに付けられたデッグル数の推移を分析した。その結果,デッグル数は,制限的本人確認制の施行直後と長期的な期間において減少していることが明らかになり,デッグルを用いた意見表明の活発さが萎縮している可能性が示唆された。
著者
趙 慶喜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.35-47, 2018

<p>本稿はここ数年韓国で熾烈な論争を引き起こしている女性嫌悪言説を追跡したものである。「嫌悪(혐오)」という語には,憎悪(hate)と嫌悪(disgust),そして恐怖(phobia)が混在している。嫌悪は新自由主義時代のグローバルな現象であると同時に,韓国社会を強力に規定してきた分断イデオロギーや敵対性の記憶によって増幅される情動である。本稿では,2015年以後に起きたいくつかの出来事を通して,「女嫌」という情動の増幅と転換の過程を考察した。</p><p>江南駅女性殺害事件とともに触発された韓国の「女嫌」論争は,メガリアンという新たなフェミニスト集団を誕生させた。メガリアンは女性嫌悪に反対するという消極的な立場にとどまらず,「女嫌嫌」を目指すミラーリング戦略をとった。ミラーリングは単に原本のコピーに止まらず,原本がいかに差別と嫌悪にまみれたものであるのかを反射を通して知らしめる戦略であった。彼女たちは,男性たちの女性への快楽的な嫌悪表現や日常的なポルノグラフィをそっくりそのまま転覆することで男女の規範を撹乱した。メガリアが爆発的な波及力を持ちえたのは,女性たちの共感と解放感という同時代的な情動が共振した結果であった。</p><p>しかし,女嫌をめぐる葛藤は単なる男女の利害関係をこえたより複雑な分断にさらされた。とりわけLGBTへの反応は,右派/左派あるいは世代や宗教のあいだの様々な対立構図を生み出した。たとえばキリスト教保守陣営による「従北ゲイ」という言葉は,反共と反同性愛を結合させることで韓国社会の内なる敵への憎悪と嫌悪を凝縮させ,フェミニストやLGBTなど既存の境界を撹乱する存在に対する過剰な情動の政治を作動させた。本稿は「女嫌」言説の増幅過程を通して,それが韓国社会に蓄積された様々なイデオロギー的葛藤のひとつの兆候であることを明らかにした。</p>
著者
趙 慶喜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.35-47, 2018 (Released:2018-10-12)
参考文献数
14

本稿はここ数年韓国で熾烈な論争を引き起こしている女性嫌悪言説を追跡したものである。「嫌悪(혐오)」という語には,憎悪(hate)と嫌悪(disgust),そして恐怖(phobia)が混在している。嫌悪は新自由主義時代のグローバルな現象であると同時に,韓国社会を強力に規定してきた分断イデオロギーや敵対性の記憶によって増幅される情動である。本稿では,2015年以後に起きたいくつかの出来事を通して,「女嫌」という情動の増幅と転換の過程を考察した。江南駅女性殺害事件とともに触発された韓国の「女嫌」論争は,メガリアンという新たなフェミニスト集団を誕生させた。メガリアンは女性嫌悪に反対するという消極的な立場にとどまらず,「女嫌嫌」を目指すミラーリング戦略をとった。ミラーリングは単に原本のコピーに止まらず,原本がいかに差別と嫌悪にまみれたものであるのかを反射を通して知らしめる戦略であった。彼女たちは,男性たちの女性への快楽的な嫌悪表現や日常的なポルノグラフィをそっくりそのまま転覆することで男女の規範を撹乱した。メガリアが爆発的な波及力を持ちえたのは,女性たちの共感と解放感という同時代的な情動が共振した結果であった。しかし,女嫌をめぐる葛藤は単なる男女の利害関係をこえたより複雑な分断にさらされた。とりわけLGBTへの反応は,右派/左派あるいは世代や宗教のあいだの様々な対立構図を生み出した。たとえばキリスト教保守陣営による「従北ゲイ」という言葉は,反共と反同性愛を結合させることで韓国社会の内なる敵への憎悪と嫌悪を凝縮させ,フェミニストやLGBTなど既存の境界を撹乱する存在に対する過剰な情動の政治を作動させた。本稿は「女嫌」言説の増幅過程を通して,それが韓国社会に蓄積された様々なイデオロギー的葛藤のひとつの兆候であることを明らかにした。
著者
根村 直美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.73-88, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
22

本稿では,まず,押井守監督の映画『イノセンス』と欧米発の「サイボーグ映画」との比較考察を行った。そして,『イノセンス』には,「ポスト・モダン」状況の中で呼び起こされつつある理論的・思想的な懐疑がヒューマニズムへと回収されてしまうのを回避しようとする思考が認められることを明らかにし,そのような思考をポスト・ヒューマニズムと呼んだ。 続いて,そうしたポスト・ヒューマニズムがどのような身体図式・イメージをうみだしているのかを分析することを試みた。『イノセンス』においては,人形の身体は人工的に構築されたものとして捉えられている。その身体図式・イメージは,映画全体の基調となっているのであるが,人形の身体は,実は人間の身体の表現に他ならない。すなわち,『イノセンス』は,その<社会的に構築されたもの>という身体理解を通じて,<有機体>としての<人間の身体>に付与された<神秘性>から我々を解き放ったのである。 また,『イノセンス』の身体図式・イメージにおいては,構築される身体とは,<他者>と関わることにより立ち現れる具体的な状況において,画定された境界線をもつ。すなわち,その身体は,自分ではないが自分の一部であるような<他者>とのネットワークと相互作用がうみだす「偶発性」に基づくものである。しかも,そうした身体図式・イメージは,ヒューマニズムの枠組みには回収されえない<他者>への<敬意>とも結びついているのである。
著者
崔 銀姫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.93-108, 2012-12-31 (Released:2017-02-04)

本稿では,1950年代の日本における「観光アイヌ」の誕生をめぐって全国的な流行と社会的なブームに至るまでの歴史を,近代後半からおよそ60年間(1899年の「北海道旧土人保護法の制定」〜1959年の『コタンの人たち』)の時代における「観光アイヌとは何か」の問題を中心に,単なる「差別」と「同化」の問題に帰結させるのではなく,20世紀初期から半ばのメディアの空間の成立と変容をメディア文化論の視点から鳥瞰的に検討することで,「覧(み)せる/観(み)られる」といった身体を媒体にした経験のなかに隠れていた歴史社会的意味とその変容を考える。考察の結果,第1期の時代(1899年〜1926年)において,アイヌにとってはそうした博覧会の主催者たちの欲望への理解には至らず,「観られる」アイヌの身体の方向性は異なったものであった。その後,第2期の時代(1927年〜1945年)になるとアイヌの大きな変化としては,「民族意識の高揚」とアイヌ自らが各種の著作物を出版したことであった。その後の第3期(1946年〜1959年)の戦争が終わってから1959年までの特徴は,「観光の介入」による変化があった。「観光アイヌ」とは,さまざまなファクターが相まった60年間のなかで「観られる」アイヌとして風景化されていたといえる。
著者
西田 亮介
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.39-52, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
19

本稿は,2010年代の自民党の情報発信手法と戦略,ガバナンスの変容について論じている。自民党は2000年代以後,広報戦略と手法を革新し続けてきた。本稿では,(1)2000年代の自民党の広報戦略の変容(2)2013年の第23回参議院議員通常選挙における自民党のネット選挙対策部門トゥルースチームの取り組み(3)2016年の投票年齢引き下げにあたっての自民党の取り組み,という3つの事例を取り上げた。事例の分析を通じて,「標準化」と「オープン化」という特質を持つ「選挙プラットフォーム」と化した自民党の現在の姿を明らかにした。これらは,2000年代における自民党の試行錯誤と創意工夫が結実したものである。そして間接的に2010年代における野党の劣勢と混乱,情報発信手法の革新の停滞が影響し,日本の政党の情報化の取り組みのなかでは,自民党の存在感は確固としたものになっている。本稿は,情報化に適応し,変化する自民党の姿を明らかにするとともに,日本政治の情報化に伴う現状と課題を展望する。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-43, 2013

本研究では「SNS疲れ」に繋がるネガティブ経験について明らかにし,「SNS疲れ」という抽象的な言葉で捉えられてきた現象を具体化することが目的である。高校生15名に対して半構造化面接を行った結果,36のエピソードを得た。36のエピソードをコード化し,それが「受信者」または「発信者」としてのエピソードであるのか,「現実世界で交流のある者」または「現実世界で交流のない者」とのエピソードであるのか,上記2つの軸に基づき分類することが妥当であると思われた。その結果,「受信者」としてのネガティブ経験が複数語られ,特に「誹謗中傷発信」「見知らぬ者からの接近」が挙げられた。つまり,SNSでほとんど発信を行っていない者であっても,「SNS疲れ」に至る可能性が明らかになったと言える。また,「現実世界で交流のある者」に関するネガティブ経験も複数語られ,その理由として,SNSが既存の関係の中で主に利用されており,SNSを退会することによる既存の関係への悪影響を高校生が懸念している為だと思われる。
著者
叶 少瑜
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.111-124, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
28

人は誰もが自分を他人と比べる(社会的比較)心理があり,これは現実世界のみならず,オンラインコンミュニティにおいてもよく行われる。本研究は大学生のTwitter使用,それにおける社会的比較と友人関係満足度との間にどのような関係が存在するのか,またユーザの個人特性(自尊心と自己効力感)とどう関係するのかを明らかにすることを目的としたものである。そのために,関東地域の国立大学に在籍する学部生を対象に質問紙調査を実施し,177名の有効回答者を対象に分析した結果,以下のことを明らかにした。(1)自尊心と自己効力感の高い人は自分の友人関係により満足していたが,個人特性からTwitter使用への効果は見られなかった。(2)Twitter上で他人の投稿をよく閲覧したり,リツイートしたり,「いいね」を押したりする人が他者と多くの社会的比較を行い,その結果友人関係満足度が下がった。(3)フォローしている相手が「大学入学後の友人・知人」の場合のみ社会的比較をする傾向は見られたが,同様の結果は相手が「大学入学前の友人・知人」,「実際に会う大学の友人・知人」と「大学の中の親友」の場合には見られなかった。本研究の結果から,Twitterを頻用する大学生にとっては,Twitter上の投稿者特に大学入学後に知り合った友人・知人のうちそれほど親しくない人との社会的比較を控えることが円滑な友人関係を保つには有効である可能性が示された。
著者
木方 真理子 向江 亮 行実 洋一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.65-80, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
28

東日本大震災により,関東地方に主に電力供給をしていた東京電力は,社会に多大な迷惑をかけたことにより,社員の働きがいが大幅に低下し,その後,改善はあまりみられていない。福島復興への責任を担い,電力の安定供給を果たすべき社員の離職も震災後数年は多かった。本論文では,「働きがい」や「離職」と関連の高い「会社の誇り」に着目し,2002年からの社員意識調査の経年データをもとに過去のメディア報道が,対象組織に属する社員に与えた心理的影響を明らかにする。東日本大震災後7年たった現在も,東京電力に関する報道は,東日本大震災前の数倍あり,そうした報道は6年以上の長期に蓄積して,社員の意識に影響することが分かった。特に過去1年と6~8年の新聞報道蓄積量から高い精度でその影響は予測され,予測値とのずれから,会社の誇りの回復には,ビジョンの提示,顧客サービス向上などが有効であることが示唆された。こうした視点からインフラ事業など公共性が高い企業や社会貢献を理念としている会社においても,同様の施策が有効と考えられる。
著者
耳塚 佳代
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.29-45, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
60

2016年のアメリカ大統領選を機に,「フェイクニュース」の拡散が社会問題化した。オンラインの有害な情報に対する懸念が高まり,メディアリテラシー教育にも変化が求められている。本稿は,「フェイクニュース」問題をめぐる国際的議論の方向性と海外におけるメディアリテラシーの新たな取り組みを精査し,日本の現状と課題を考察する。グローバルな議論においては,「フェイクニュース」現象が政治利用されていることから,前提として,この用語を使わずに情報区分を整理した上での偽情報・誤情報対策が主流となっている。一方,日本では依然として「フェイクニュース」がさまざまな情報を含む形で使用されている現状がある。また日本のメディアリテラシー教育は,新聞やテレビなど主にマスメディアが発信するメッセージを批判的に読み解くというアプローチが長く主流であった。しかし,党派的分断が進み,メディアに対する信頼が低下する社会においては,従来のアプローチが過度なメディア・既存体制不信と結びつき,自分の信念に合致する偏った情報のみを信じる素地にもなりかねない。こうした点を踏まえた上で,一定の効果が証明されている海外の取り組みを参考にしながら,日本のメディア環境・社会背景を考慮した「フェイクニュース」時代のメディアリテラシー教育について考えていくことが重要である。
著者
山口 達男
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.17-32, 2019-03-31 (Released:2019-05-01)
参考文献数
25

本稿は,現代社会において危惧されている「監視社会化」の進展によって,どのような〈主体〉としてわれわれが形成されているかを明らかにする試みである。その際,Foucaultが監視を,「権力(生権力)」がわれわれを「主体化=従属化」するための戦略・技術として措定したことを分析の手がかりとして用いた。その上でまず,現在の監視は「一望監視」から「データ監視」,そして誰もが監視し,監視される〈衆人監視〉へと移行していることを指摘した。そして,その移行に伴い,われわれの〈主体〉もまた変容していることを述べた。つまり,〈規律訓練型主体〉から“リスク予防型主体”,さらには〈自己配慮型主体〉への変容である。すなわち,〈衆人監視〉という現在の監視状況において,われわれは〈自己配慮型主体〉として形成されているのである。ここでいう「自己配慮」とは,ビッグデータから自生した「規準」に沿って,自らの〈人物像〉を「制御」することを意味している。しかもそれは,Foucault謂うところの「自己への配慮」とは異なり,データ的な“自己”との関係において営まれるものである。この営為が,「誰でもない誰か」との〈衆人監視〉から要請されている点は,現代社会特有の問題と言い得る。したがって,こうした視点から現在の監視社会化を考察しなければならない。
著者
笹原 和俊 杜 宝発
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.65-77, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
10

道徳は人々を結びつけ,集団を形成する原動力になる一方で,集団を敵と味方に分断し,対立を生む要因にもなる。ソーシャルメディアはこのプロセスに関与し,場合によってはそれを加速させる危険性もある。本論文では,Twitterから収集した大規模なLGBT(性的少数者)関連の投稿(ツイート)を分析し,ソーシャルメディアにおける道徳的分断の実態を調査した。LGBTをめぐる社会の動向には,多様性を目指す社会にとって重要な道徳的問題が含まれる。LGBTツイートの拡散をネットワーク分析によって調べたところ,高い道徳的類似性(ホモフィリー)を持つ少数のコミュニティが形成されていることがわかった。さらに,英語と日本語の道徳基盤辞書(MFD及びJ-MFD)を使ってLGBTツイートの投稿内容を分析したところ,英語でも日本語でも共通して,LGBTは忠誠基盤の問題,つまり,集団に関わる道徳的問題として語られていることがわかった。また,忠誠基盤に加え,あるコミュニティは擁護基盤,別のコミュティでは権威基盤という具合に,コミュニティによって異なる道徳基盤を重視する傾向があることも示された。このことが道徳的分断と関係している可能性がある。これらの結果は,ソーシャルメディア上の道徳的分断を計算社会科学のアプローチで理解し,道徳的分断を緩和するための方略を考える上で重要な示唆を与える。
著者
柳 文珠
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.17-29, 2013

本稿は,韓国においてインターネット文化の改善を目的とするインターネット実名制の導入過程について概観し,さらに,デッグル数という量的要素の変化に注目しながら,インターネット実名制の影響に関する考察を行う。まず,選挙掲示板の実名制の導入は,新たな政治参加手段として成長したインターネットの威力に対して警戒を強めた政界の積極的な主導によるものであった。それに対し,一般掲示板の実名制(制限的本人確認制)は,インターネット上で発生した一連の出来事が世間を騒がせるなど社会問題化したことをきっかけに,法的規制の必要性を訴える声が高まったため,比較的世論の支持を受けて導入に至るようになる。次に,インターネット実名制の施行後,韓国におけるインターネット空間にどのような変化が生じているのかを検討するため,ポータルサイトDAUMが提供するニュースに付けられたデッグル数の推移を分析した。その結果,デッグル数は,制限的本人確認制の施行直後と長期的な期間において減少していることが明らかになり,デッグルを用いた意見表明の活発さが萎縮している可能性が示唆された。
著者
河井 大介
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.31-46, 2014-09-30 (Released:2017-02-04)
被引用文献数
3

Krautら(1998)が最初のインターネット・パラドクスに関する論文を発表した当時と比べ,インターネット利用環境は大きく変化した。特に近年の社会的な関係に基づくソーシャルメディアの普及は,実社会での社会的な関係に大きな影響を及ぼす可能性がある。その一方で,ソーシャルメディア上での人間関係に負担を感じるいわゆる「ソーシャルメディア疲れ」などの議論もある。すなわちソーシャルメディアの利用によって友人関係や精神的健康にネガティブな影響を及ぼすソーシャルメディア・パラドクスの可能性が考えられる。そこで本稿では,2011〜2012年にかけて実施したインターネットを用いたパネル調査のデータを用いて,このソーシャルメディア・パラドクスの可能性について分析を行った。ソーシャルメディアの新規利用者では,よく投稿をする人が一時的に友人関係満足度にポジティブな影響を及ぼしているが,全体でみるとソーシャルメディアをよく投稿するほど友人関係満足度や孤独感に対してネガティブな影響を及ぼす傾向が示された。つまり社会的な関係を基礎とするソーシャルメディアの利用において,友人関係や精神的健康にネガティブな影響を及ぼすというソーシャルメディア・パラドクスの存在の可能性を示した。
著者
中村 英人 石野 洋子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.79-94, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
19

わが国のオープンデータへの取組みは,2012年のIT総合戦略本部による「電子行政オープンデータ戦略」の決定などを通じて政府主導で始まり,地方自治体にも広まりつつある。当該自治体の規模の大きさがオープンデータ化の進展に影響していることは公表されているデータから容易に推定されるが,規模に内在する要因を定量的に解明した先行研究は,これまでにない。この解明が本研究の第一の目的である。次に,従来から存在するホームページと新たなオープンデータの間の,データ重複の問題を考える。それらのサイトに類似した紛らわしいデータが存在すると,様々な問題を生じさせる可能性がある。そこで,地方自治体のデータ公開の実態を調査し,そこに潜む課題を明確にすることが第二の目的である。その際,人口統計データに焦点を当てた。我々は,先進自治体へのインタビュー調査,オープンデータ実態調査(総務省)の人口規模による差異解析,そして,人口統計データの公開状況調査という3段階の調査を経て,以下のことを発見した:(1)地方自治体のオープンデータ化の推進には,自治体の規模に加え,担当部署とプロセスが大きく関係していること,(2)ほとんどの自治体が既存のホームページをそのまま維持した状態で,新たにオープンデータのサイトを追加する形を取っていること,(3)両方のサイトでデータが内容的に重複しているにもかかわらず,それらのデータの同一・差異について明記していないところが多いこと。
著者
河島 茂生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.53-69, 2016 (Released:2017-02-03)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本論文では, ネオ・サイバネティクスの理論のなかでも特にオートポイエーシス論に依拠しながら, 第3次ブームの人工知能を定位し倫理的問題の基礎づけを目指した。オートポイエティック・システムは自分で自分を作るシステムであり, 生物の十分かつ必要な条件を満たす。一方, アロポイエティック・マシンは, 外部によって作られるシステムであり, 外部からの指示通りに動くように調整されている。この区分に照らせば, 第3次ブームの人工知能は, 人間が設定した目的に応じたアウトプットが求められるアロポイエティック・マシンであり, 自己制作する生物ではない。それゆえ, 責任を帰属する必要条件を満たさず, それ自体に責任を課すことは難しい。人工知能に関する倫理は, あくまでも人間側の倫理に帰着する。とはいえ人間は, しばしば生物ではない事物を擬人化する。特に生物を模した事物に対しては愛情を感じる。少なからぬ人々が人工知能に度を越した愛情を注ぐようになると社会制度上の対応が要される。そうした場合であっても, 自然人や法人とは違い, 人工知能はあくまでもアロポイエティック・マシンであることには留意しなければならない。
著者
辻 和洋 中原 淳
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.37-54, 2018-12-12 (Released:2019-02-02)
参考文献数
37

本研究は2001年に新聞協会賞を受賞した高知新聞社「高知県庁闇融資問題報道」を事例に,調査報道のニュース生産過程を明らかにした事例研究である。取材のきっかけとなる情報をつかむ基礎的調査の段階から,発展的調査の段階を経て,第一報の記事化の準備の段階までを,記者のインタビュー調査によって明らかにした。とりわけ,日本のマスメディアが持つ構造的な問題の一つとして指摘されている編集権の問題に着目し,編集権を持つ編集幹部が,ニュース生産過程において記者にどのような影響を及ぼすのかを考察した。研究の結果,記者が編集権を持つ幹部の介入を危惧して,情報管理を徹底し,取材対象者を慎重に選択したり,社内でも情報共有を行わなかったりするような行動が見られた。また,編集幹部が報道リスクを考え,記者に対して条件を提示,報道の先送り,代替案の提示といった介入を行ったことが明らかになった。それに対し,記者は報道することを強く促す上申,条件に対応,組織外の影響力の活用といった対応策を講じていた。本研究では,地方紙の単一事例の検証かつ記者のみのインタビュー調査にとどまるものの,石川 (2003) や花田 (2013) が指摘するように,編集権が,記者の行うニュース生産過程に影響を及ぼしうる可能性があることが示唆された。代表性に課題があり,編集権の影響が事例固有のものであるかどうかは検証の余地が残されている。しかし,本研究により調査報道の質的・量的向上をもたらす上で,調査報道のニュース生産過程における記者の取材行為だけでなく,組織内における記者と編集者の相互行為にも着目する重要性が示された。