著者
笠谷 貴史
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.1-2, 2020

<p>2008年に始まった文部科学省による「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」(2011年度に「海洋資源利用促進技術開発プログラム」へと名称を変更,以下,基盤ツール)を契機に,日本国内における探査技術の開発が始まった。物理探査誌でも2011年の64巻4号において,基盤ツール等で開発中であった探査手法に関する特集「海底熱水鉱床探査の未来」が組まれ,会員の皆さまに当時の最新の開発動向を紹介した。2014年度からは内閣府戦略的イノベーションプログラムによる次世代海洋資源調査技術「海のジパング計画」(以下,「海のジパング計画」)が始まり,熱水鉱床のみならず,コバルトリッチクラストやレアアース泥など,様々な海洋金属資源に関する成因研究が始まると共に,様々な探査技術の開発も並行して行われた。「海のジパング計画」における探査技術開発では,大学や研究機関による研究開発のみならず,それらの技術移転あるいは民間企業が主導する技術開発が行われると共に,実海域において民間企業による調査航海が行われたことが大きな特徴であり,それらの技術的な成果は「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」としてまとめられた。また,環境を持続的に利用するため,近年では海底資源開発に関する海底環境への影響を評価することが非常に重要になってきたため,環境影響評価に関する調査手法・評価技術の構築も課題の一つとなった。この「海のジパング計画」は2018年度で終了し,探査技術の開発の一つの大きな区切りを迎えた。</p><p>物理探査学会会誌編集委員会では,「海のジパング計画」で大きく進展した熱水鉱床に関する物理探査技術を用いた探査事例や,海洋資源開発を取り巻く状況を会員の皆さまにいち早くお届けするため,特集「海底熱水鉱床探査に向けて」を企画した。本特集は,熱水鉱床探査に関わる広い範囲をカバーする7編からなり,そのうち2編はこれからの物理探査・資源開発と切り離して考えることが出来ない環境影響評価に関するものとなっている。</p><p>簡単に本特集の紹介をしたい。中核となる探査技術に関しては,民間企業が中心となって進められた音波探査(多良ほか),電気・自然電位探査(久保田ほか),重力探査(押田ほか)の3編で,熱水域で実施された最新の興味深い観測・解析事例が紹介されている。北田ほかでは,地球深部探査船「ちきゅう」の掘削航海時に実施された高温高圧下での孔内検層技術にチャレンジングな事例について述べている。環境影響評価については,海底での資源開発と環境影響評価に関する論説(山本ほか)と,実際の調査業務に関しての技術動向についてまとめた技術報告(後藤ほか)の2編があり,これらにまとめられた環境影響評価の必要性や技術動向は,本学会の会員に大いに参考になると思われる。そのほか,「海のジパング計画」で作成された「海底熱水鉱床調査技術プロトコル」に則って概査から準精査に至る技術検証とAUVの活用に関するケーススタディ(笠谷ほか),探査技術の進展による科学的成果を中心とした解説(石橋・浦辺)も掲載されている。</p><p>本特集の著者の皆さまからは,スケジュールの厳しい中,技術開発・研究の最新の成果についてご寄稿いただき,会誌編集委員会からお礼申し上げたい。今回の特集は,気軽に読んでいただけるよう,技術報告やケーススタディ,解説を中心とした構成となっている。本特集が,海洋における物理探査技術の活躍する場を大きく広げ,今後のさらなる技術開発の方向性を考える契機となれば幸いである。</p>

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こんな論文どうですか? 特集「海底熱水鉱床探査に向けて」によせて(笠谷 貴史),2020 https://t.co/HcNhpFK5IC <p>2008年に始まった文部科学省による「海洋資源の利用促進に向けた基盤ツール開発プログラム」(2011年度…

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