- 著者
-
山中 浩明
- 出版者
- 社団法人 物理探査学会
- 雑誌
- 物理探査 (ISSN:09127984)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.2, pp.97-110, 2013 (Released:2016-04-15)
- 参考文献数
- 16
- 被引用文献数
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微動探査における位相速度の逆解析では,最小2乗法だけでなく,遺伝的アルゴリズムなどのヒューリスティック探索法も使われている。しかし,ヒューリスティック探索法は,最小2乗法などに比べてパラメータの感度が直接的にはわかりにくいという短所もある。本研究では,マルコフ連鎖モンテカルロ法を位相速度の逆解析に適用することを試み,その適用性を検討した。まず,大規模な平野の深部地盤を模擬した地盤モデルを仮定して数値実験を行った。周波数0.1~2Hzの基本モードのレイリー波の位相速度を計算し,擬似観測データを作成した。逆解析では,Metropolis-Hastings法を用いて,モデルのサンプリングを行い,それらのモデルのS波速度と厚さの平均値と標準偏差を求めことにより逆解析結果を得ると。尤度関数で与えた位相速度の観測誤差によらず,得られた解は正解値に近いものであった。一方,モデルパラメータの推定精度は観測値の標準偏差に依存し,観測値の標準偏差が大きいほど,モデルパラメータの推定誤差も大きくなった。さらに,位相速度の周波数範囲を限定して逆解析を行った。低周波数の位相速度の欠如によって深い部分の地層のパラメータの標準偏差が大きくなり,分解能が低下することを定量的に示した。また,高周波数の位相速度の欠如の影響が浅部のパラメータの不確かさに影響を及ぼすことを示した。つぎに,サンプルされたモデル群に対するS波の1次元増幅特性を計算し,位相速度の観測誤差が増幅特性の変動に与える影響を検討した。その結果,卓越周期やその倍率ではばらつきが少なかったが,短周期になるほど増幅特性のばらつきが大きくなることがわかった。最後に,関東平野での既往の微動探査による位相速度にも適用し,他の手法と同程度の地盤モデルを推定した。さらに,モデルの精度および増幅特性のばらつきも評価することができた。以上の検討から,マルコフ連鎖モンテカルロ法による位相速度の逆解析では,パラメータの推定精度を定量的に評価することが可能であり,微動探査で有効な方法であると考えられる。