著者
伊原 賢
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.243-251, 2013 (Released:2016-04-15)
参考文献数
2
被引用文献数
1

地下で100の炭化水素ができた場合,シェールと呼ぶ石油根源岩の中にとどまっているものは80 %程度だといわれる。20世紀まで資源にはならないといわれていた石油根源岩を割ったり,溶かしたりして,北米では膨大な原油や天然ガスを取り出せるようになった。世界のエネルギー政策,産業,安全保障問題に劇的な変化が生じている。その変化をもたらしたとされる「シェールガス革命」について解説する。
著者
筒井 智樹 及川 純 鍵山 恒臣 富士火山人工地震構造探査グループ
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.131-144, 2007 (Released:2010-06-25)
参考文献数
38
被引用文献数
3 1

2003年に富士火山を対象とする人工地震探査が行われた。人工地震探査は富士山を中心として89kmの測線上に5点の発破点と468点の観測点が設定された。本報文では2003年人工地震実験の波形記録に対して山体内部の地震波反射構造の解析には擬似反射記録法を用い,深部地震波反射構造の解析にはシングルフォールド反射断面を用いた結果について報告する。 富士火山の山体内部の擬似反射断面では,南あるいは南西に傾斜する明瞭な境界面が比較的高い標高に検出され,その下位には上下で反射位相のならびのパターンが異なる境界面も検出された。前者は古富士火山上面に対比される可能性が指摘され,後者は富士山の基盤面に対応する可能性が指摘される。基盤面は富士山東斜面の下では丹沢山地の西の延長部が山頂直下まで起伏をともなって連続する一方,南西麓では急速に海面下まで深くなる。それにともなって富士山の南西麓には堆積層が発達しており,堆積層の南西縁は富士川断層系で区切られる。 富士火山とその周辺の深部地震波反射構造は,富士山南西側地域,富士山山体直下地域,富士山北東側地域の3つに大別される。富士山北東側地域では数十キロにわたるほぼ水平で連続性の良い深部反射面が複数認められるが,富士山南西側地域では南西落ちに急傾斜する深部反射面が複数認められる。これらの深部反射面のいくつかはフィリピン海プレート上面もしくは内部の速度/密度境界に対比される可能性があり,富士火山はフィリピン海プレートの傾斜が変化する場所に立地している。また,富士山山体直下では狭い領域にさしわたし数キロメートルの反射面が複数出現し,その周囲とは明確に異なる地震波反射構造をしている点が注目される。特に山頂の北東3~6kmの深さ13kmおよび16km付近にみとめられる明瞭な反射面はこれまでの研究で指摘された低周波地震の震源域と一致し,火山性流体と関係している可能性が高いと考えられる。さらに,これより上位の反射面群は深さ16kmの反射面と富士山頂を結ぶ線上に並んでいる。 以上のように富士火山は深部から地表にいたるまで南西側に傾斜した構造をもち,深さ16km付近まで明瞭で特徴的な地震反射面が複数存在することが明らかになった。
著者
白石 和也 松岡 俊文
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.261-274, 2006 (Released:2008-08-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本稿では,特性曲線法による音響波動伝播シミュレーションについて論じる。特性曲線法では,物質の移動や流れを表現する一階の偏微分方程式である移流方程式(伝達方程式)を基に物理量の移流または伝播を計算する。移流方程式の計算において CIP(Cubic Interpolated Profile)法と呼ばれる手法が知られている。この手法は,物理量とその空間微分値が共通の特性曲線に沿って伝播するという点に着目し,物理量とその空間微分値を制約条件として格子点間の物理量を 3 次多項式により近似することで,数値分散の少ない高精度で安定した数値計算を実現する差分スキームである。本研究では,まず,移流方程式の解法における CIP 法の原理と特徴について,他の差分スキームとの比較を行う。次に,本手法を波動現象へ適用するにあたり,音響体における運動方程式と連続の式から音響波動伝播を記述する特性方程式を導出する。さらに,CIP 法による数値解法と他の有限差分法による音響波動シミュレーションの比較を行う。安定解析および位相誤差解析と数値シミュレーションの結果から,特性曲線法において CIP 法を利用することで,急峻なエッジを持つ波や,高周波数の波を含む場合について他の差分スキームに比べて精度よい計算ができ,格子数を減らした場合にも安定した解が得られることが解った。これらの特長から,スタッガード格子のような特別な格子を用いなくとも,圧力と粒子速度を同一格子点に配置する単純な直交格子を用いて,数値分散の少ない波動シミュレーションを行うことができた。
著者
尾西 恭亮
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.85-94, 2014 (Released:2017-03-02)
参考文献数
67

本稿では,非在来型天然ガスに特有な吸着ガスについて解説し,物理探査による探査の可能性について言及する。コールベッドメタンの主たる賦存形態は吸着ガスであり,シェールガスの約半分も吸着ガスの形態で貯留していると考えられている。試料分析の結果,女川層の珪質頁岩は北米のシェールガス賦存層と同等のガス吸着能力を有し,南関東天然ガス田の泥岩も十分なガス吸着能力を有している可能性を示した。世界全体における吸着ガスの資源量は大きく,有望な天然ガス資源である。吸着ガスの回収には,遊離ガスに比べより長期間に及ぶ継続した生産が必要なため,初期段階において開発リスクを低減させるガス生産量推移の推定技術が重要である。そのため,物理探査による埋蔵量や生産性の評価手法は天然ガス資源量の増大に貢献する。吸着ガスを生産対象ガスとするためには,ガス吸着量分布の情報が重要である。現在,ガス吸着可能量を直接推定する探査技術は提示されていない。一方,物理検層による間接的なガス吸着量の推定手法は様々な手法が提案されている。
著者
井上 雄介 今井 幹浩 松原 由和 平出 亜
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.sp50-sp59, 2022 (Released:2022-12-09)
参考文献数
11

2019年4月より再エネ海域利用法が施行されたことにより,洋上風力発電施設に係る地盤調査市場は大幅に拡大している。洋上における地盤の支持層分布あるいは工学的基盤深度の把握に必要なS波速度の測定は,ボーリング孔を利用したサスペンションPS検層が一般的に行われてきた。しかしながら,洋上風力発電事業(着床式)は年間平均風速7 m/s以上,水深10~40 m程度の海域を対象としており,厳しい環境下でのボーリング作業は容易ではない。著者らはこのような厳しい環境下でもボーリング調査を必要とせず,短期間でS波速度構造を把握することができる海底微動アレイ探査システムを開発した。本稿では,当手法の開発について概説した後,適用事例及び海底微動の特徴について示した。これらの結果より,得られたS波速度構造はPS検層および音波探査と整合的な結果が得られたことから海底微動アレイ探査の有用性が示された。
著者
吉田 邦一 上林 宏敏
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.15-23, 2018
被引用文献数
2

<p>従来からSPAC法において用いられている二重正三角形アレイの水平成分から回転成分波形を求め,それを用いてラブ波の位相速度を推定する手法を考案した。水平面内の回転成分はラブ波のみに依存し,レイリー波の影響を受けないので,回転成分を適切に求められれば,その位相速度はラブ波の位相速度となる。ここでは回転成分を計算するために必要な空間微分を,正三角形アレイの記録を用いてテイラー展開により求めた。検証のため,全波動場を計算したものと,SH波動場のみを計算したものの2種類の理論微動アレイ記録を作成し,それらに対しこの手法を適用した。全波動場とSH波動場のアレイ記録それぞれから得られた回転成分波形は,ほぼ一致し,P-SV波動場を含む全波動場からSH波動場(ラブ波)のみによる成分を良好に取り出すことができることが確認できた。この方法をもとに,二重正三角形の中心点を除く6観測点の内の3点の組み合わせから,中心1点と円周上3点の計4点からなる正三角形アレイの回転成分波形を求めた。得られた回転成分アレイ波形に対しSPAC法あるいは<i>f</i>-<i>k</i>法などを適用することで位相速度を推定できる。ここでは回転成分アレイ波形にSPAC法を適用し,ラブ波の位相速度を推定できることを確認した。また,想定しているサイズのアレイで観測されるべき回転成分は,通常用いられる観測システムで十分求められるべき振幅を持つことを示した。</p>
著者
田中 宏幸
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1_2, pp.93-102, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1

宇宙から地球に飛来する一次宇宙線と大気の相互作用で作られる大気ミュオンを用いて巨大物体の内部構造を調べようとする実験は今から50年以上前に考案された。その後,ピラミッドや資源探査などをモチベーションとして数多くの科学者がミュオンを用いたイメージング技術 (ミュオグラフィー) の開発を試みてきた。しかし,既知の物質の発見など原理検証実験に留まる実験が多かった。2006年ミュオグラフィーを火山内部のイメージングに適用して始めて視覚的に確認できない部分の構造を描き出すことに成功した。その結果, これまで見ることができなかった,巨大産業プラント内部の可視化への応用も進んだ。本論文ではミュオグラフィーの歴史を振り返りながら, 当時の問題点を明らかにしつつ,その打開策を技術論的観点から論ずる。また,技術論文や解説記事として既に数多く出版されている2006-2008年のミュオグラフィー観測結果には触れずに出来るだけ最新の技術や観測結果を盛り込むことで, 現状と未来に焦点を当てた形とする。
著者
László Oláh Gergő Hamar Shinichi Miyamoto Hiroyuki K. M. Tanaka Dezső Varga
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.161-168, 2018 (Released:2018-12-28)
参考文献数
42
被引用文献数
3 4

Muography is an emerging visualization technique for inspection of large-sized objects with the measurement of the absorption rate of cosmic-ray muons. Present paper introduces the first prototype of a Multi-Wire-Proportional-Camber (MWPC)-based borehole detector. The designed tracking system is based on the so-called Close Cathode Chamber (CCC) concept, which provides easily handling and robust detectors. The 18-cm-length detector is covering a sensitive area of 20 cm × 32 cm and an angular acceptance up to 60 deg with close to full tracking efficiency (99 %), reasonable position resolution of 1.8 mm and angular resolution of 10 mrad. The detector has been tested inside a shallow shaft and an underground iron pillar with concrete basement has successfully been imaged with the resolution of 15 cm within 15 days, which indicates the future industrial usage of MWPC detectors and encourages the application oriented development of this technology for borehole-based muography.
著者
山中 浩明 内山 知道
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.469-482, 2008
被引用文献数
2

&emsp;糸魚川─静岡構造線(以下,糸静線)は,わが国で最も活発な断層帯の一つとされ,M8クラスの地震が発生する可能性があり,その周辺地域では強震動予測が行われている。より精度の高い予測には信頼性の高い地下構造の情報が必要となる。本研究では,糸静線近傍に位置する長野県松本盆地内の8地点において,微動のアレイ観測を実施し,レイリー波の位相速度を求めた。さらに,それらの逆解析から表層から地震基盤までの1次元S波速度構造を明らかにした。また,同盆地内の2地点において70日間微動観測を行い,その上下成分に地震波干渉法を適用し2点間のグリーン関数を求め,そのレイリー波の群速度を求めた。さらに,その逆解析から地震基盤までの1次元S波速度構造を明らかにした。この結果は,微動探査による結果とよく一致しており,松本盆地において地震波干渉法の適用が可能であることが分かった。さらに,微動観測記録の水平成分に対しても地震波干渉法への適用も試み,ラブ波の群速度やレイリー波の楕円率も推定することができた。これらの表面波の特徴も微動探査の結果で説明することができた。<br>
著者
山中 浩明
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.97-110, 2013 (Released:2016-04-15)
参考文献数
16
被引用文献数
1 3

微動探査における位相速度の逆解析では,最小2乗法だけでなく,遺伝的アルゴリズムなどのヒューリスティック探索法も使われている。しかし,ヒューリスティック探索法は,最小2乗法などに比べてパラメータの感度が直接的にはわかりにくいという短所もある。本研究では,マルコフ連鎖モンテカルロ法を位相速度の逆解析に適用することを試み,その適用性を検討した。まず,大規模な平野の深部地盤を模擬した地盤モデルを仮定して数値実験を行った。周波数0.1~2Hzの基本モードのレイリー波の位相速度を計算し,擬似観測データを作成した。逆解析では,Metropolis-Hastings法を用いて,モデルのサンプリングを行い,それらのモデルのS波速度と厚さの平均値と標準偏差を求めことにより逆解析結果を得ると。尤度関数で与えた位相速度の観測誤差によらず,得られた解は正解値に近いものであった。一方,モデルパラメータの推定精度は観測値の標準偏差に依存し,観測値の標準偏差が大きいほど,モデルパラメータの推定誤差も大きくなった。さらに,位相速度の周波数範囲を限定して逆解析を行った。低周波数の位相速度の欠如によって深い部分の地層のパラメータの標準偏差が大きくなり,分解能が低下することを定量的に示した。また,高周波数の位相速度の欠如の影響が浅部のパラメータの不確かさに影響を及ぼすことを示した。つぎに,サンプルされたモデル群に対するS波の1次元増幅特性を計算し,位相速度の観測誤差が増幅特性の変動に与える影響を検討した。その結果,卓越周期やその倍率ではばらつきが少なかったが,短周期になるほど増幅特性のばらつきが大きくなることがわかった。最後に,関東平野での既往の微動探査による位相速度にも適用し,他の手法と同程度の地盤モデルを推定した。さらに,モデルの精度および増幅特性のばらつきも評価することができた。以上の検討から,マルコフ連鎖モンテカルロ法による位相速度の逆解析では,パラメータの推定精度を定量的に評価することが可能であり,微動探査で有効な方法であると考えられる。
著者
西尾 伸也 Oleg Khlystov 杉山 博一 Andrey Khabuyev Oleg Belousov
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.55-64, 2014 (Released:2017-03-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

バイカル湖は淡水湖として唯一,メタンハイドレートの存在が確認されている湖である。最近,国際共同プロジェクトによりバイカル湖のメタンハイドレートに関する研究が進められている。バイカル湖の中央湖盆,南湖盆で確認されたBSR分布に基づき,多くの泥火山・ガス湧出サイトの湖底表層からメタンハイドレート試料が採取され,地質情報,物理探査情報も収集された。ここでは,今までの研究成果を概観すると共に,表層型メタンハイドレートの集積状況を把握するために実施したコーン貫入試験結果について述べる。
著者
相澤 隆生 内田 利弘
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.161-171, 2016

福島県いわき市では,2011年3月の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)に関連して,炭鉱跡地で地鳴り,地下水の噴出,地面の陥没などの異常現象が発生した。それらに関する専門的な知見について,いわき市から物理探査学会に相談が寄せられた。学会では,理事会での議論を経て,緊急現地調査を実施することとなった。当初,調査は炭鉱跡地の災害を対象としていたが,2011年4月11日に福島県浜通りを震源とするマグニチュード (Mj) 7.0の地震(余震)が発生したため,調査対象は余震を発生させた活断層および被災箇所の状況調査へと拡大した。<br> 本稿では,物理探査学会が,今後,大規模自然災害の際に緊急災害対応を行うことを念頭に,2011年東日本大震災の際に,学会が被災地での緊急調査実施を決定したプロセス,現地の状況変化に伴って変更した実施内容とその経過等を整理し,レビューすることとした。また,調査の様々な成果が地元自治体および住民のニーズにどの程度応えることができたか等を評価するため,経済協力開発機構の開発援助委員会が定めた評価5項目に基づく事業評価を行い,成果および課題について明らかにした。さらに,今後,学会が行うことが考えられる緊急災害調査では,その都度,事業評価を行うことの重要性を指摘した。<br>
著者
長 郁夫 多田 卓 篠崎 祐三
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.457-468, 2008 (Released:2014-05-09)
参考文献数
22
被引用文献数
14 15

上下動地震計を半径0.3mの円周上に配置した極小アレイで常時微動の波形データを取得し,我々が近年開発したCCA法という解析手法をこれに適用したところ,数10mあるいは100m以上の波長領域に至るまで,レーリー波の位相速度を良好な精度で同定することができた。この方法を,レーリー波位相速度を地下浅部の平均S波速度と関連づける紺野・片岡 (2000) の提案と組みわせれば,極小円形アレイを用いた簡便な微動測定により,表層地盤の特性を手早く評価することが可能になると期待される。以上の手順は,一人の観測者の手の届く程度のわずかなスペースさえあれば,微動観測により地下数10mまでの平均S波速度が推定できるという意味で,既存のアレイ探査法と比べ画期的な利点を有する。実際,茨城県つくば市内の3サイトで取得した微動アレイ記録に上記の新しい探査法を適用し,地下10, 20, 30mまでの平均S波速度を推定したところ,PS検層結果や地質構造と調和的な推定結果を得ることができた。
著者
鈴木 敬一
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.251-259, 2012-10-01
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

社会インフラ施設の老朽化などにより,地盤内部に空洞が発生し,陥没事故などが発生している。場合によっては死傷者が出るなどの惨事になる場合もある。そのため陥没が生じる前に地盤の空洞化を検出することが求められている。一方,空洞を調べるには地中レーダや反射法地震探査,電気探査などが適用されるが,探査深度や分解能が不足する場合がある。地盤の密度に関係する物理探査手法は,重力探査や密度検層などの方法しかない。宇宙線ミュー粒子を利用した探査技術は地盤の密度分布を求めることが可能である。従来の物理探査手法を補う方法として宇宙線ミュー粒子を利用した地盤探査技術を実用化することを目標として,ミュー粒子計測器と三次元トモグラフィ技術を開発してきた。本稿では,宇宙線ミュー粒子探査技術の原理と基礎的な実験および土木物理探査への可能性について示す。
著者
芦谷 公稔 佐藤 新二 岩田 直泰 是永 将宏 中村 洋光
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.387-397, 2007 (Released:2010-06-25)
参考文献数
11
被引用文献数
15 13

鉄道における地震災害を軽減するには事前に施設の耐震性を向上させることが基本であるが,一方で,地震発生時は迅速かつ適切に列車運行を制御することにより事故を未然に防ぐことが重要となる。そこで,鉄道総研では新幹線を中心に早期地震検知・警報システム(ユレダス)を開発,実用化してきた。しかし,近年では,リアルタイム地震学の分野の研究開発が進展し,早期地震警報に関する貴重な知見が蓄積されてきた。また,気象庁など公的機関の全国ネットの地震観測網が整備され,その即時情報(緊急地震速報という)を配信する計画が進められている。こうした状況を踏まえ,鉄道総研は気象庁と共同して,緊急地震速報の処理手法やこの情報を活用した鉄道の早期地震警報システムの開発を行ってきた。 本論では,まず,P波初動検知後数秒で震源の位置やマグニチュードを推定するために新たに開発した,B-Δ法やテリトリー法,グリッドサーチ法について紹介する。次に,緊急地震速報を活用した地震警報システムの概要を紹介する。このシステムは緊急地震速報を受信すると,線区沿線での地震の影響度合いをM-Δ法により推定し,影響があると判断した場合は,列車無線により自動的に走行中の列車に緊急停止の警報を発信するものである。また,最後に,鉄道におけるリアルタイム地震防災の今後の展望について述べる。
著者
川本 朓万
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.589-597, 2005 (Released:2007-11-02)
参考文献数
21
被引用文献数
3 4

There are many abandoned coal and lignite mines, underground shelters excavated during the Second World War, hastily filled underground rooms and pipes during the re-construction following the Second World War all over Japan. Due to degradation of these cavities, sinkholes or ground subsidence resulting in casualties and damages to residential areas properties have been increasing in recent years. In addition, torrential rains and/or earthquakes make necessary to investigate the instability of such abandoned underground cavities.The behavior of rock mass between the ground surface and shallow underground openings is very complex and it is affected by the mechanical behavior (deformation, local failures, loosening), weathering, and deterioration, following the excavation, underground water seepage. In this article, the author describes damages caused by ground subsidence, sinkholes and their mechanism associated with environmental factors, the collapse risk of abandoned mines. Furthermore, the importance of the development of exploration and surveying techniques to detect the location and geometry of abandoned underground cavities is disccused.
著者
吉村 辰朗 大野 正夫
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.151-160, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

断層破砕帯において帯磁率測定を行なった結果,高帯磁率を呈する場合があり,その時に断層破砕帯では低γ線量を呈する場合もある。帯磁率を増加させる要因がγ線遮蔽効果の指標として用いることができるかどうか確かめるためにγ線減衰実験を行なった結果,帯磁率を高めるFeOの含有量が多い場合や細粒化が進んでいるほどγ線吸収量が多くなる現象が認められた。断層破砕帯におけるγ線量の減少の中には,断層破砕帯での帯磁率を増加させる要因によってγ線の遮蔽効果が顕著になった場合があると考えられる。帯磁率は,磁性鉱物の細粒化,磁性鉱物の増加,磁性鉱物の風化・変質によって変化する。断層破砕帯におけるγ線は,断層物質の磁性特性によって異常値の出現状況が変化すると考えられる。
著者
白石 和也 藤江 剛 小平 秀一 田中 聡 川真田 桂 内山 敬介
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.105-118, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
30

沿岸域の海底火山の活動性を評価するために,海底火山下の構造や物性を効果的に調査する地震探査法の確立を目的に,数値シミュレーションによる合成地震探査データを用いたフィージビリティスタディを行った。本研究では,海域と陸域を横断する測線長30 kmの調査を想定し,沿岸域にある海底火山の過去の活動痕跡あるいは現在の活動可能性を示唆する仮想的な構造を持つ深度10 kmまでの地質モデルを対象とした。このモデルでは,地殻内にマグマ溜りを模した3つの低速度体を異なる深度に設定し,その他には側方に連続的な明瞭な反射面が存在せず,一般的な反射法速度解析で地殻内の速度分布を決定するのは難しい構造とした。まず,作成した地質モデルに対して走時および弾性波伝播の数値モデリングを行い,地震探査で得られる初動走時と波形記録を合成した。そして,これらの合成地震探査データを用いて,初動走時トモグラフィと波形インバージョンによる段階的な解析により,低速度体を含む速度構造を推定した。その後,推定された速度モデルを用いてリバースタイムマイグレーションを適用し,反射波による構造イメージングを行った。また,発振点と受振点のレイアウトおよび低速度体の形状の違いについて比較実験を行った。数値データを用いた解析の結果,段階的なインバージョン解析により深度約6 kmまでの2つの低速度体を示唆する変化を含む全体的な速度構造を適切に捉え,深度領域の反射波イメージングによって3つの低速度体の形状を良好に描像することができた。速度構造の推定には探査深度と分解能について今後に改善の余地があるものの,一般的な反射法速度解析が難しい地質構造の場合には,波形インバージョンによる速度推定とリバースタイムマイグレーションによる反射波イメージングを組み合わせることで,地下構造を可視化するアプローチが効果的であることを示した。併せて,効果的な調査を計画するために,想定される地質モデルにおける最適な観測レイアウトや解析手法の適用性などについて,数値シミュレーションを用いたフィージビリティスタディにより事前検討する事の重要性も示された。
著者
堀内 茂木 上村 彩 中村 洋光 山本 俊六 呉 長江
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.399-406, 2007 (Released:2010-06-25)
参考文献数
20

緊急地震速報は,大きな揺れが到着する前に,震源とマグニチュードを配信し,地震災害の軽減を目指すものである。我々は,緊急地震速報を実用化させることを目的として,防災科学技術研究所のHi-net他約800点のリアルタイム地震観測データを利用して,P波が観測されてから数秒間で信頼性の高い震源を決定するシステムの開発を行った。このシステムは,P波到着時刻の他に,P波が到着してないという情報を不等式で表すことにより震源決定を行っている。この手法の利点は,到着時刻データの中にノイズや別の地震のデータが混入した場合,残差の小さい解が存在しなくなり,ノイズ等の混入を自動的に検出できる点である。本研究では,ノイズ等のデータが混入した場合,それを自動的に除去するアルゴリズムを開発した。また,2個の地震が同時に発生する場合の解析手法を開発した。その結果,99%の地震について,ほぼ正確な情報が即時的に決定できるようになった。このシステムは,気象庁にインストールされ,緊急地震速報配信の一部に利用されている。現在の緊急地震速報には,約30km以内の直下型地震に対応できない,震度推定の精度が低いという課題があるが,地震計を組み込んだ緊急地震速報受信装置(ホームサイスモメータ)が普及すると,これらの課題が一挙に解決されると思われる。
著者
鈴木 恭平 佐藤 浩章
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.49-67, 2019 (Released:2019-06-07)
参考文献数
24

本研究では、地震波干渉法による共通仮想震源によるグリーン関数を用いた位相速度推定法の適用性を検討するために,若狭湾地域の16 地点で連続観測を実施し,相互相関関数のシグナルが大きい正側およびシグナルが小さい負側のそれぞれを用いた場合について,位相速度を推定しその結果を比較した。共通仮想震源から観測点への伝播に対応する側の相互相関関数のシグナルが明瞭な場合,共通仮想震源によるグリーン関数から安定して位相速度を推定することが可能であり,自然地震を用いた場合の位相速度とも調和的であった。一方,共通仮想震源からの伝播に対応する側の相互相関関数のシグナルが不明瞭な場合,位相速度の推定ができなかった。そこで,遅れ時間の正負を反転させた相互相関関数を共通仮想震源によるグリーン関数として用いた結果,良好に位相速度を推定できることがわかった。さらに,本研究のように相互相関関数が正負非対称となる場合には,シグナルが強くなる方向に観測点を配置することでも,位相速度推定が可能となることを示した。