- 著者
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加藤 輝之
- 出版者
- 公益社団法人 日本気象学会
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, no.3, pp.485-509, 2020
- 被引用文献数
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49
日本では3時間積算降水量200mmを超える集中豪雨がしばしば観測され、過酷な地滑りや洪水をもたらす。そのような事例は主に、日本語で「線状降水帯」と名付けられた準停滞線状降水システムによってもたらされる。線状降水帯は次々と発生する発達した対流セルが列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域として定義される。線状降水帯の形成過程としては主に、暖湿流がほぼ停滞している局地前線に流入することで、対流セルが前線上で同時に発生する破線型と、下層風の風上側に新しい対流セルが繰り返し発生し、既存のセルと線状に組織化するバックビルディング型の2つに分類される。<br> 本研究では、線状の降水システムについての過去研究のレビューに加えて、線状降水帯の数値モデルによる再現性および線状降水帯の発生しやすい条件について調査した。2014年8月20日の広島豪雨の事例の再現では、対流セルの形成・発達過程をおおよそ再現できる少なくとも水平解像度2kmが必要であったが、その内部構造を正確に再現するには水平解像度250~500mが必要であった。2㎞のモデルは10時間前の初期値を用いることで広島の事例を量的に再現したが、予想された最大積算降水量は初期時刻が線状降水帯の発生時刻に近づくにつれてかなり減少した。この減少は過度の下層乾燥空気の流入が新たな積乱雲群が発生する領域を移動させたためであった。<br> 線状降水帯を診断的に予測するために、線状降水帯の発生しやすい条件を過去の集中豪雨事例における大気環境場から統計的に構築した。500m高度データをベースに判断する下層水蒸気場を代表して、(1)大量の水蒸気フラックス量(>150g m<sup>-2</sup> s<sup>-1</sup>)と(2)自由対流高度までの距離が短いこと(<1000 m)の2つの条件を選択した。ほかの4つとして、(3)中層(500hPa と 700hPa)の相対湿度が高い(>60%)、(4)ストームに相対的なヘリシティで判断する大きな鉛直シア(>100m<sup>2</sup> s<sup>-2</sup>)、(5)総観スケール(700hPa で空間 400km平均)の上昇流場で判断する上昇流域と(6)700~850hPaに度々みられる暖気移流を除外するための平衡高度が3000m以上の条件を選択した。