- 著者
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加藤 輝之
- 出版者
- 社団法人日本気象学会
- 雑誌
- Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, no.1, pp.97-128, 1998-02-25
- 被引用文献数
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15
1993年8月1日南九州で発生し, 豪雨をもたらしたライン状のレインバンドを雲水・雨水を直接予報する降水過程を持った3次元非庄縮非静水圧モデルを用いて再現することができた。この日, 日本域スペクトルモデル(JSM)は停滞性のレインバンドを再現することができずに降水域を東側へと次第に移動させた。先ず, JSMが停滞を再現できなかった原因について調べた。降水過程を取り替えて調べてみた結果, 湿潤対流調節に原因があって, 粗い分解能やwater loadingの未導入の問題ではなかった。湿潤対流調節スキームは不安定層を安定化させることによって下層を冷やし乾燥化させるので, 地表面付近の比湿が下がってしまった。その結果, 高比湿気塊が風上で存在しなくなり, レインバンドそのものが維持できなくなった。次に, このレインバンドの発生・維持機構について2 kmまたは5 kmの分解能を持つモデルで詳しく調べてみた。南西風によって下層の高比湿気塊が梅雨前線に対応する南北温度傾度が大きい領域に運ばれ, 凝結が起こった。最初, 下層の西風に平行な背の低いロール状の対流が形成され, 発達するにともない個々のセルは活発な対流システムへと組織化された。その結果, 凝結後2時間で下層に(100 km)^2の領域で1.5 hPaを越える著しい気圧低下が生じた。その気圧低下が風の収束・南北温度傾度の増大を引き起こし, 強い収束ラインが形成され, レインバンドが出来上がった。このレインバンドの維持過程としてはバックビルディング型の特徴を示し, レインバンド風上での対流セルの繰り返し発生には風速の鉛直シアが重要であった。今回の降水システムの強化・維持には, 雨滴の蒸発の効果は重要ではなく, 梅雨前線域に存在する相対的に強い南北温度傾度が重要な役割を果たしていた。さらに, 今回のケースについて平均水平運動量収支を計算し, 気塊を追跡することにより下層ジェットの維持・強化過程を調べた。対流活動が引き起こした低圧部によって作られた気圧傾度力による加速が水平移流による減速を打ち消すことにより下層ジェットが維持され, 九州南部に停滞していた。また, 高度1 km以下の層では収束ラインに吹き込む南西風が気圧傾度力によって積分開始後150分で6 ms^<-1>程度加速されていた。その加速された水平風が対流によって上方に輸送され, その一部がレインバンド北側の下層ジェットを強めていた。