著者
松谷 実のり
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.95-113, 2015

<p>国内の雇用再編の中で周縁化された若者の一部には、リスクを取ってチャンスにかける志向が見られる。その一例が、現地採用者として上海で働く若者である。彼らは日本企業の本社が派遣する駐在員とは異なり、人材紹介会社を利用して上海の日系企業と直接雇用契約を結ぶ。本稿ではメゾレベルの移住のメカニズムとミクロな個人の動機の交錯に注目し、現地採用という特殊な雇用制度の仕組みとそれが拡大してきた経緯を明らかにする。その上で、当該雇用制度の特徴と若者がそれを選択する理由との関係に言及する。移住システム論に依拠しながら、制度を整備した人材紹介会社、移住労働者を必要とする日系企業、制度を戦略的に利用しようとする若者の三者の関係に注目する。 人材紹介会社は、日本から若者を送り出す労働力の供給システムを整備した。日系企業は制度の整備を受け、企業内での従業員の再配置(=駐在員の派遣)から外部労働市場を利用した柔軟な労働力の取り込み(=現地採用)へと、雇用を流動化させつつある。この結果、日系企業の需要に合わせた特殊な労働市場が海外に形成された。日系企業の進出と撤退に伴い、この労働市場も短期間で拡大・縮小するが、移住システムの枠組は新たな資本投下先に移植されることで再生産されている。 他方で、若者は予測不可能な環境へ飛び出すことで、日本の労働市場における閉塞感を打破しようとする。彼らは自らの持つ資本と移住のコストやリスクを照らし合わせ、現実的かつ暫定的な戦略として現地採用を選択する。このとき、日系企業への労働力供給システムを貫く資本の論理と、潜在的な可能性に投機しようとする若者の積極性は、一時的に合致する。</p>

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#日本社会学会 学会奨励賞 【論文の部】 ・松谷 実のり「若者はなぜ『現地採用者』になるのか:上海への移住労働者を作り出すメカニズムの視点から」『ソシオロジ』60(2):95-113 https://t.co/LtaxdFRuRa

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