- 著者
-
河村 裕樹
- 出版者
- 日本保健医療社会学会
- 雑誌
- 保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.1, pp.43-53, 2019
<p>本稿では、精神科診療場面において、治療の方針と治療の実施の決定権を有する医師と、そうした権利を持たない患者双方が、非対称性をどのように達成しているのかを、会話分析の観点から考察する。身体を対象とする医療においては、患者を説得するために検査結果といった生物医学的事実を用いることができるが、精神科の場合は、それだけでは患者を説得する資源として十分ではない場合が多い。そこで医師は説得の技法を駆使して、患者の同意を得なければならない。本稿では、段階的な説得を試みる際の医師の発話デザインや、患者が医師との非対称性を利用して自らの要望を伝える際に、正当ではない位置で訴えを開始するといった方法を明らかにした。これらは非対称性から生じる権力によって患者の要望を医師が聞き入れなかったり、漫然と同じ処方を続けるといった単純な医療批判を超える論点である。</p>