著者
鈴木 涼太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.153-168, 2018

本稿は、ロシアを代表する民芸品として観光客に人気のおみやげマトリョーシカを事例に、観光みやげにかかわる人やモノの移動の連関について考察するものである。これまでの観光研究では、おみやげは当該の観光地で生産されていることが前提とされ、訪れた観光客が自らのホームへとそれを持ち帰る過程や、おみやげになることによって生じる意味や形態の変化に主たる焦点が当てられてきた。しかし実際に観光地で販売されているおみやげの多くは、必ずしも地域固有のものであるとは限らず、生産のプロセスにおいて時間的にも空間的にも様々な越境を経てその場所へとたどり着いた商品であることも少なくない。またおみやげをその「本来の姿」との対比で論じることで、観光という移動のために生産されたモノを規定する論理については十分な検討が行われてこなかった。その結果既存の研究では、おみやげをめぐる複数の移動の経路や、異なる社会的文脈においておみやげが経験する意味や価値の変化の在り方をとらえきれていなかったと考えられる。<br>それに対して本研究では、マトリョーシカというおみやげを観光客が持ち帰る前の「本来の姿」、いわばそのルーツとの対比で論じるのではなく、マトリョーシカが過去100年余りの時間の中で経験してきた、幕末の日本から20世紀初頭のロシアやフランス、さらに現代の中国やベトナム、マレーシア、そして再び日本へと至る世界規模での一連の移動のルートを素描することを試みた。そこから明らかになったのは、おみやげは観光客の移動のみに付随する現象ではなく、より広範な人やモノ、イメージの移動のネットワークにおける移動の途上で、絶えずその形態や意味を再構成させながら存在するモノだということである。そしておみやげが経験する一連の移動をめぐる考察は、真正なモノ/ニセモノ、ローカルなモノ/グローバルなモノ、商品/非商品といった区分がゆらぐ過程の分析となるのである。

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