- 著者
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山口 誠
- 出版者
- 観光学術学会
- 雑誌
- 観光学評論 (ISSN:21876649)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.1, pp.111-125, 2017 (Released:2020-01-13)
本論文は、J. アーリとJ. ラースンが著した『観光のまなざし』第3版(Urry & Larsen, 2011 加太訳 2014)のうち、第1版(Urry, 1990 加太訳 1995)および第2版(Urry, 2002)と比較してみえてくる、新しく加筆された議論と変更された論点の2点に照準し、その意図と可能性を検討することで、観光研究の新たな論点を構想する。第一に、同書の第3版では「観光と写真」をめぐる議論が加筆され、その第7章では写真術のアフォーダンスが、第8章ではパフォーマンスが中心的に論じられることで、アフォーダンスとパフォーマンスの相関において具体的に現象する観光のモビリティを分析するための新たな方法論が提起されている。第二に、第3版では集合的まなざしをめぐる議論が大幅に増加し、その派生型とされるメディア化されたまなざしが注目されることで、観光のまなざしの解釈学的循環が重要なテーマとして浮上したといえる。そして、これらの加筆された論点の可能性を尽くさずに後期近代におけるリスク社会論(U. ベック)へ水準を変調させていった第3版の最終章を批判的に検証し、改めて後期近代論と観光研究を接続することで、後期観光と集合的自己という論点を提示し、観光研究の新たなテーマを模索した。そうして今日の再帰的な後期観光では、個人の外部にひろがる世界ではなく、その内部に潜む自己こそが目的地であり、集合的まなざしの共有によって集合的自己を追体験することがアトラクションの一つになっている状況を指摘した。