著者
荒又 美陽
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.139-159, 2020 (Released:2022-10-29)
被引用文献数
2

本論は、東京とパリで予定されているオリンピックを事例に、メガイベントが時間を区切り、そこに向かう多様な人々の活 動を引き出すことによって、脱工業化時代の都市計画事業の大きな推進力となり、弱者の排除を生み出していることを明らか にする。東京では、国立競技場の建て替えが大きな議論を呼び起こした。論争はそこが天皇の空間であることを再認識させ、 それをもとに新たな計画はイチョウ並木と明治天皇絵画館で構成される景観を最大限邪魔しないものであることが求められた。 他方で、隣接する公営住宅で立ち退きが求められ、野宿者の排除が強行されるなど、周囲のジェントリフィケーションが急速 に進んでいる。パリにおいては、メインスタジアム周辺の都市開発事業として、選手村の予定地にある移民労働者の寮が解体 されることになり、住民には狭く、騒音のひどい建物への移転が求められる事態となった。付近の高速道路では、ランプウェ イの新設によって小学校付近の大気汚染が引き起こされようとしている。いずれの事例でも見られるのは、来訪者を中心とし た都市計画が住民生活を圧迫している状況であり、観光を主要産業と位置付ける政治のひずみが表れている。
著者
曽山 毅
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.185-202, 2013 (Released:2020-01-13)

日本統治期台湾の教育機関が実施した修学旅行について、民族属性や多様な参観地選択などに注目して検討した。とくに、総督府国語学校に導入された修学旅行には統治者/日本人と被統治者/台湾人という図式が顕著に表れたが、これは日本統治期の修学旅行の基底に存在し続けた。1920年代には中等教育機関の中に南支旅行を実施する学校があらわれ、修学旅行における内地と台湾の関係性は相対化され、台湾人と日本人との間に存在する修学旅行における意味づけの相違が判別しにくくなった。1920年代以降、内地修学旅行を再認識する動きが見られたが、これには、内地が修学旅行の絶対的な選択肢ではもはやないという側面と、内地旅行を植民地統治という文脈において復権しようとする側面があった。修学旅行は初等教育機関にまで普及していくが、1930年代には、日本人児童にも内地旅行が要請されるようになり、台北市などが小・公学校児童を対象にした内地修学旅行を実施するようになった。この旅行では日本人児童と台湾人児童の統治・被統治の関係に由来する優劣性にはある種のねじれが生じることになった。
著者
遠藤 英樹
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.129-144, 2013 (Released:2020-01-13)

人文・社会科学は観光研究も含め、1960年代から1980年代にかけて「言語論的転回」を、1980年代から2000年代にかけて「文化論的転回」を経ながら、みずからのレゾンデートル(存在意義)を刷新してきた。特に人類学、社会学、地理学の領域では、国内外ともに、その傾向は顕著であった。だが現在、これら「言語論的転回」や「文化論的転回」の議論をさらにすすめて、「モビリティー」や「再帰的近代」等に対する問いかけがなされるようになっている。これら人文・社会科学におけるいくつかの転回は、既存の学的な視点によっては「社会的なもの(the social)」の位相を充分にとらえることができなくなってきたがゆえのものだと言える。本稿では、これらをふまえて、現在「社会的なもの」は「観光(tourism)」に明白に現れるようになっており、人文・社会科学は観光論的な視点を積極的に内在化させていく必要があることを主張する。結論として、観光学を、静的・定常的なディシプリンとしてではなく、動的・生成的なディシプリンとして確立していくべきことを呼びかける。
著者
アンドレア デ・アントーニ
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.81-93, 2013 (Released:2019-07-08)

本論文は相互作用に着目しながら、「ダークツーリズム」を検討する。フィールドワークによって収集したデータに基づき、供給と需要間の相互作用を検討し、現代京都でダークツーリズムが構築されていく過程を支えるさまざまな関係性を明らかにする。このとき、幽霊が出現するとされる場所(心霊スポット)を訪れる「京都怪談夜バス」ツアー、および「花山洞」という心霊スポットを検証する。まず事例をダークツーリズムの分野の中で位置づけ、アクターネットワーク論を参照しながら、ツアーとそこに関わる人間やモノ(=アクター)の間で相互的に構築されるネットワークを分析する。このネットワークによって、歴史における人間の死についての記憶も、観光客の体験を方向付けるアクターとして構築されると論じる。特に、その記憶と、ツアーで訪れる場所との関係が戦略的であり、語りをつうじて構築されていることに着目する。これはツアーの成功の理由になるが、同じメカニズムがツアーを中止させてしまったことを明確にする。このとき、死についての記憶と場所との間の「距離」(Latour, 2005)という概念を参照することによって、ダークツーリズムの再考をめざす。
著者
須永 和博
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.57-69, 2016 (Released:2020-01-13)

2011年に出版されたThe Tourist Gaze 3.0は、従来の観光のまなざし論に対して投げかけられた様々な批判への応答という性格をもっている。その1つが、観光のまなざしの変容可能性に関する議論である。従来の観光のまなざし論では、観光者のまなざしはマスメディア等を通じて形成され、観光者はこうした事前に作られた枠組みで対象を見るとされてきた。その結果、観光者は制度的に構築されたまなざしを無批判に受容する受動的な存在として位置づけられてきた。こうしたアーリの観光のまなざし論の決定論的な側面については、しばしば批判的検討が加えられてきたが、The Tourist Gaze 3.0では、アーリ自身も実際の観光現場で生起する様々なパフォーマンスや偶発的経験等によって、固定的なまなざしが変容していく可能性について指摘している。 以上の視点を踏まえ、本論文では、大阪・釜ヶ崎で行われている「釜ヶ崎のまちスタディ・ツアー」(以下、スタディ・ツアー)の考察を行う。具体的には、スタディ・ツアーへの参加によって、釜ヶ崎の人々を異質な存在として他者化するようなまなざしが融解し、<地続き>の存在として釜ヶ崎を見る新たなまなざしが立ち現れてくる過程を明らかにする。
著者
片山 明久
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.203-226, 2013 (Released:2020-01-13)

本研究の目的は、第1にアニメ聖地巡礼者と地域住民との間に生まれる関係性の段階的発展を明らかにすることであり、第2に制作者を交えた3者の関係の中で、彼らが共有する中心的価値にアプローチすることである。その考察のために、「次世代ツーリズム」という概念を分析枠組として取り入れ、考察を行った。その結果、「次世代ツーリズム」のひとつであるアニメ聖地巡礼において、ファンと地域住民の間に「趣味充足段階」「理解交流段階」「参画協働段階」という3つの発展段階が存在していることを発見した。次に事例として富山県南砺市城端を取り上げ、アニメ『true tears』に動機付けられたファンが地域において行いつつある活動と特性を、上記の3つの発展段階に沿って示した。またファンと地域の関係がどのようなコンテンツに向かって求心されているのかについても考察し、その結果、各アクターが作品と共に地域の歴史と伝統に基づいた地域文化に敬愛とも呼べる共感を示し、それを尊重した形でアクター間の関係性を発展させているということを明らかにした。そしてその関係性を、城端における「次世代ツーリズム」の関係性モデルとして図式化し提示した。
著者
鈴木 謙介
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.3-12, 2019 (Released:2021-03-31)
被引用文献数
1

本稿では、「インスタ映え」という新しい現象を対象に、ソーシャルメディア時代における観光がどのような特徴を持つのかについて、主として社会学の立場から検討した。 インスタ映えは、メディアを経由して流入する情報が空間の意味を上書きするという〈多孔化〉の議論によって一部説明できる。しかしながらそこではインスタ映えについては検討されていない。そこで本稿ではインスタ映えについて(1)消費者研究における「関与」の程度の違いがもたらす効果、(2)経営学における「ほんもの」に関する議論を参照しながら理論的分析を行った。 その結果、以下のような知見を得た。すなわち、(1)インスタ映えは、低関与な消費者が自らの需要を満たすために、シンボリック属性に関する情報探を行う際に適合的である。(2)インスタ映えする観光地のオーセンティシティは、ソーシャルメディア上のコミュニケーションが生み出すコードと、観光地のマテリアリティの相互作用が生み出している、というものである。
著者
渡部 瑞希
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-35, 2017 (Released:2020-01-13)

これまでの観光研究では、観光客がまなざしの対象とする真正性(オーセンティシティ)について議論を重ねてきた。それは、 客観的・本質的な真正性を想定し、観光の場における商品や出し物を虚偽だとする本質主義的な議論から、観光対象物の真正 性を構築するのは誰かというポストコロニアルな批判を含んだ構築主義的な議論、観光客個人の観光経験に焦点を当てる実存 主義的議論や、ホストとゲストのコンタクト・ゾーンで生じる観光経験の真正さに着目する議論まで多岐に渡る。 本稿では、これらの議論を再考察し真正性の否定と探求を継続させるテキストであったことを読み解くことで、観光対象物 というモノが、その虚偽性を暴かれたとしても真/偽の判断のつかない「公然の秘密」によって成り立っていること、この真 /偽の決定不可能性ゆえに、真正なるものが、永遠に探求される魅惑的な消費対象となることを明らかにする。本稿ではこれを、 真正性のリアリティとして提示する。また、その具体的事例として、カトマンズの観光市場、タメルで売られている「ヒマラ ヤ産の宝石」を取り上げながら、真正性のリアリティについて説得的に提示する。
著者
山口 誠
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.111-125, 2017 (Released:2020-01-13)

本論文は、J. アーリとJ. ラースンが著した『観光のまなざし』第3版(Urry & Larsen, 2011 加太訳 2014)のうち、第1版(Urry, 1990 加太訳 1995)および第2版(Urry, 2002)と比較してみえてくる、新しく加筆された議論と変更された論点の2点に照準し、その意図と可能性を検討することで、観光研究の新たな論点を構想する。第一に、同書の第3版では「観光と写真」をめぐる議論が加筆され、その第7章では写真術のアフォーダンスが、第8章ではパフォーマンスが中心的に論じられることで、アフォーダンスとパフォーマンスの相関において具体的に現象する観光のモビリティを分析するための新たな方法論が提起されている。第二に、第3版では集合的まなざしをめぐる議論が大幅に増加し、その派生型とされるメディア化されたまなざしが注目されることで、観光のまなざしの解釈学的循環が重要なテーマとして浮上したといえる。そして、これらの加筆された論点の可能性を尽くさずに後期近代におけるリスク社会論(U. ベック)へ水準を変調させていった第3版の最終章を批判的に検証し、改めて後期近代論と観光研究を接続することで、後期観光と集合的自己という論点を提示し、観光研究の新たなテーマを模索した。そうして今日の再帰的な後期観光では、個人の外部にひろがる世界ではなく、その内部に潜む自己こそが目的地であり、集合的まなざしの共有によって集合的自己を追体験することがアトラクションの一つになっている状況を指摘した。
著者
薬師寺 浩之
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.197-213, 2017

本稿では、カンボジア・シェムリアップ市における孤児院で行われている日本人が参加するボランティアツアーを事例として、孤児院ボランティアツアーにおける演出とパフォーマンスについて考察を試みる。孤児院ボランティアツアーとは、ツアー参加者がボランティアという行為を通して孤児の貧困や不幸という「ダークネス」にまなざしを向け、さらに自身のリアリティを充足する、という一連の行為である。本来なら福祉施設の一形態である孤児院は観光資源の対極に位置付けられるべきものであるが、市場化・観光資源化されて観光者に開放されている孤児院も見られる。ボランティアツアーを受け入れている孤児院では、ツアー参加者がリアリティを充足したり自分の存在意義を再確認したりできるように、様々な演出がツアー催行業者や孤児院運営者によって行われ、さらにツアー催行業者や孤児院運営者の指示のもと孤児はパフォーマンスをしている。さらにツアー参加者自身も孤児院でのボランティア活動中、利他的・博愛的なボランティア活動実践者として相応しい振る舞いをするように自らを演出している。
著者
吉田 道代
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.35-48, 2015

近年、多くの企業は同性愛者を優良な顧客・望ましい消費者として優遇し、行政や政治家もまた同性愛者を歓迎する姿勢を打ち出すようになっている。本稿は、異性愛者中心の主流社会における、こうした同性愛者の扱いをホスピタリティ(歓待)ととらえ、商業・政治分野に焦点を当てて、その特徴を分析する。企業や行政、政治家が同性愛者を歓待するようになったのは、彼ら彼女らが高い経済力を持ち、文化的エリートとしての地位を確立したこと、さらに同性愛の容認が人権への配慮の度合いをはかる指標という認識が広まったことによると考えられる。このような主流社会による同性愛者の経済的・文化的・政治的位置づけは、彼ら彼女らの市民的権利の獲得に有利に働くが、以下のような問題もある。一つは、こうした歓待の対象が主に先進国の富裕な白人男性に限定されるという点である。そのため、このグループ以外の性的少数者とされる人々のアイデンティティや文化的多様性がないがしろにされる危険性がある。もう一つは、国家による同性愛者への歓待が政治的問題の隠蔽に利用される可能性である。イスラエルの事例では、同性愛者への歓迎を通じて創出される自由で開かれたイメージを国家が利用して、パレスチナ人に対する暴力や抑圧などから国際社会の目をそらそうとしているという批判がある。
著者
深見 聡
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.185-196, 2017 (Released:2020-01-13)

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は、世界遺産登録を目指す過程の2016年に、イコモスから「日本国におけるキリスト教の歩みは、禁教(潜伏)期にこそ顕著な普遍的価値」が認められ、現状での登録は困難と指摘された。日本政府は、構成資産候補の変更や遺産全体の名称の変更といった対応を迫られ、すなわち、信徒への迫害や弾圧、反乱や鎮圧、改宗をめぐる軋轢といった、いわゆる負の歴史を中心とした物語性の確立が、登録への大きな関門に浮上した。 よって、構成資産を訪れる観光も必然的に本視点からの展開がみられるだろう。その際、ダークツーリズムの手法は、前面に負の歴史を悼み祈る旅との認識が中心に据えられるため、観光客にはそれらの物語性を扱うことへの事前了解が得られる有用性がある。一方、復活期の教会建築中心の遺産登録に理解を示してきた地域コミュニティに、その手法の受容は細心の配慮が求められる。とりわけ、観光教育がホストとゲストを媒介する存在として重要となろう。その上で、科学コミュニケーションとしてのダークツーリズムの言辞の浸透と、敢えて「ダークツーリズム」を掲げなくともその実質化が図られることとの両者における相互啓発が不可欠である。
著者
四本 幸夫
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.67-82, 2014 (Released:2020-01-13)

観光まちづくり研究の成果が近年数多く発表されている。主流の観光まちづくり研究では、地域活性化という国と地方の要請に応えようとして、観光まちづくりの成功例の紹介や、成功の為の実践マニュアル化に研究が集中している。その過程で、地域が所与で静的なものとして描かれ、権力及びその表出としてのコンフリクトに関する考察がほとんどなされてこなかった。しかし、現実には地域は多様であり動態的なものであるし、観光まちづくりにおいて権力は様々な形で現われている。 本稿では、観光社会学や観光人類学などで議論されてきた権力概念をまとめ、それらが観光まちづくり研究に活かされていないことを明らかする。そして、観光まちづくり研究で権力概念の導入が必要と思われる5つの分野(文化情報消費産業としての観光の持つ権力性、地域の観光資源をめぐる権力性、ジェンダーによる権力性、国家権力、地域の権力構造)を提案する。さらに、地域における権力を分析するのに有効な地域権力構造論と批判的権力論を用いてどのように観光まちづくりの理解を深めていくことができるのかを考察する。
著者
松本 健太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.13-20, 2019 (Released:2021-03-31)

本論文では、旅行情報コンテンツとして世界一の閲覧数を誇るトリップアドバイザーをとりあげ、そこで旅行者が投稿した写真データの位置づけを分析の俎上に載せる。そのうえで、そのアプリに搭載された機能が旅をめぐるイマジネーションを喚起するのか、そして旅をめぐる体験をシミュレートするのかを考察することになる。 より具体的にいえば、トリップアドバイザーのサイト、およびそのスマートフォン版アプリによって、私たちは都市や地域ごとのホテル、レストラン、観光情報などに関する口コミや価格比較を利用しうるわけだが、本論文ではそこに含まれるデジタル写真のメディア論的な位置づけに着眼したうえで、それに関連した二つの機能――「トラベルタイムライン」と「360度パノラマ写真」――を分析していく。そしてそのうえで、単なる「旅の表象」ではなく、むしろ「旅のシミュレーション」という観点から、それらが可能にする「旅の想像」のメカニズムについて考察を展開することになる。ようするに本研究では、写真の画像データにもとづいて、旅という行為をよりリアルなものとしてシミュレートする上記の機能を考察することで、今日的な旅のイマジネーションの実相に目を向けようと試みるわけである。
著者
薬師寺 浩之
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.197-213, 2017 (Released:2020-01-13)

本稿では、カンボジア・シェムリアップ市における孤児院で行われている日本人が参加するボランティアツアーを事例として、孤児院ボランティアツアーにおける演出とパフォーマンスについて考察を試みる。孤児院ボランティアツアーとは、ツアー参加者がボランティアという行為を通して孤児の貧困や不幸という「ダークネス」にまなざしを向け、さらに自身のリアリティを充足する、という一連の行為である。本来なら福祉施設の一形態である孤児院は観光資源の対極に位置付けられるべきものであるが、市場化・観光資源化されて観光者に開放されている孤児院も見られる。ボランティアツアーを受け入れている孤児院では、ツアー参加者がリアリティを充足したり自分の存在意義を再確認したりできるように、様々な演出がツアー催行業者や孤児院運営者によって行われ、さらにツアー催行業者や孤児院運営者の指示のもと孤児はパフォーマンスをしている。さらにツアー参加者自身も孤児院でのボランティア活動中、利他的・博愛的なボランティア活動実践者として相応しい振る舞いをするように自らを演出している。
著者
浜本 篤史
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.95-110, 2019 (Released:2021-09-30)

本研究では、日本において生じている中国人観光客のマナー問題について、宿泊予約サイトのクチコミ・データを用いて、問題認識や不満等を分析した。具体的には、「楽天トラベル」における18宿泊施設に対するクチコミデータ914件(2007年1月~2016年12月)を分析対象とし、テキストマイニングツールであるKH Coderを用いて、頻出語のピックアップや共起ネットワーク分析、対応分析等をおこなった。その結果、日本人宿泊客にとってマナー問題が生起するシーンと具体的状況は、部屋(騒音)、大浴場(入浴方法)、朝食会場(混雑・騒音・食べ漁り・席取り)、フロント前(混雑)にほぼ集約されることが確認された。また時系列的には、この十年間で中国人旅行客のマナー問題に対するクチコミは大きく変化していない。対応策としては、騒音や入浴マナーについて宿泊施設が注意喚起すべきという意見がまず多く、フロアや朝食会場を分ける提案も一定程度みられた。ほかに、宿泊施設スタッフの疲弊がしばしば観察されていることも把握されたが、マナー問題の責任主体が中国人旅行者自身なのか宿泊施設にあるとみなされているのかは、認識変化の有無も含めて慎重に見極める必要性があることも示唆された。
著者
山中 弘
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.149-159, 2016 (Released:2020-01-13)

聖地を訪れることが流行している。この流行は宗教の復興と見るよりも、宗教ツーリズムの流行と理解すべきだろう。なぜ、今日、宗教がツーリズムの資源として積極的に評価されるようになったのだろうか。この問題を考える手がかりは、ツーリズムそのものよりも、後期近代における宗教の変化の中にあるように思われる。本稿の目的は、「長崎の教会群」の世界遺産化に伴う巡礼の商品化の展開の事例を通じて、マクロな宗教社会学的視点から聖地や巡礼の観光資源化、商品化が意味しているものを、後期近代における現代宗教の特質との関連で検討することにある。以下、本稿ではまず、日本における宗教の観光資源化の動向に触れながら、「長崎の教会群」の世界遺産化に伴う巡礼の観光商品化の展開について具体的に紹介する。次いで、こうした事態の意味を理解するために、従来の聖地研究や宗教社会学の理論の若干の検討を行い、「マーケット・モデル」の重要性を指摘する。さらに、S. バウマンを参照して私が「軽い宗教」と呼んでいる現代宗教のいくつかの特質を論じ、最後に、これらの宗教の特質が宗教ツーリズムの流行と深く関わっていることを示唆したいと考えている。
著者
遠藤 英樹
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.51-65, 2019 (Released:2021-03-31)
被引用文献数
1

私たちが他者と生をいとなむ「社会空間」はすべて、必ず何らかの時代状況との関わりにおいて形成されている。とくに現代にあっては、人、モノ、資本、情報、イメージ、観念等がグローバルに国境を越えて移動する状況のもとで「社会空間」が存在していることにより注意を向けるべきだろう。現代の「社会空間」はグローバルなモビリティの状況によって大きな影響を受けながら形成されているのである。社会のモビリティを現出させていくうえで、「デジタル革命」を経たメディアが果たしている役割は大きい。「デジタル革命」を経たメディアは「モビリティの時代」の中で形成され、社会のモバイル化をうながしているのである。同時にそれは、「モビリティの時代」において、「社会空間」のひとつとして、多様な振舞い(パフォーマンス)がなされる舞台(settings)となっている。社会がモバイル化することによって、デジタル・メディアにおける「プラットフォーム」を「社会空間」として表現される振舞い(パフォーマンス)や情報・イメージ・観念はこれまでと異なる位相のものへ生成変化を遂げていく。同時に、そのことによって「プラットフォーム」は「社会空間」として、モビリティの諸現象を新たなものへと誘い出しうながしもするのである。このことは特に観光現象において、明瞭に見てとることができるだろう。本稿では観光の「インスタ映え」を議論の俎上にあげつつ、観光をめぐる「社会空間」もまた、デジタル・メディアと密接に結びつき、そのことで観光のあり方を変容させるようになっていることを、ぬいぐるみの旅などの事例を通じて検討する。
著者
松本 健太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.109-116, 2018 (Released:2020-03-25)

ポケモンGOはそのリリース直後、都市の意味空間を規定するレイヤーを多層化させ、われわれが認知するリアリティをより錯綜したものへと変質させた。実際それは物理空間と仮想空間の領域区分を越境しながら多くの社会問題を引き起こし、われわれが生きる意味世界に「分断」(それをプレイする人とそうでない人のあいだのそれ)をもたらす存在として報道されるに至った。本論考ではプレイヤー/非プレイヤーのあいだの「軋轢」、あるいは、そこから派生した社会的な「分断」を視野にいれつつ、複数の領域にまたがる理論的言説を参照しながら、また、それを前提に「ゲーミフィケーション」概念を再考するなどしながら、デジタル・テクノロジーが現代の記号世界にもたらしつつあるものを考察の俎上に載せてみたい。