著者
鈴木 涼太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.141-154, 2019 (Released:2021-09-30)

本稿では、新潟県佐渡島の伝統芸能・鬼太鼓を事例に、民俗芸能を介した体験・交流プログラムにおける観光経験について考察する。佐渡島は全国的な知名度を誇る民謡・佐渡おけさや能、世界的太鼓集団「鼓童」の存在によって「芸能の島」とも称されている。そのなかで鬼太鼓は、全島の集落で広く伝承されている芸能であり、佐渡の観光宣伝の文脈では戦前から島を代表する伝統文化として位置づけられてきた。佐渡市高千地区では、毎年8月13日に「夏の彩典たかち芸能祭」というイベントが行われている。このイベントでは2009年より神奈川県の大学生が参加する芸能体験プログラムが行われており、学生たちは約1週間高千地区に滞在し、集落に伝わる鬼太鼓を学び芸能祭本番では伝承者とともに観衆に向けて披露する。このプログラムを対象に筆者が2009年以来行ってきたアクション・リサーチから明らかになったのは、民俗芸能という身体技法の習得をともなう交流プログラムにおいては、束の間の「師匠と弟子」の関係が構築されるということである。さらに参加学生が伝承者とともに鬼太鼓を披露して地域の人々や観光客に「観られる」側となる状況では、「地域文化観光」論で指摘されているような真摯な交流がもたらされ、観光者としての参加者が実存的真正性を経験することが可能になる。だが同時に重要なのは、そのような真正な経験が、このプログラムが管理された団体旅行であり、受け入れる地域と参加する学生にとって「一時的な楽しみ」であることによって支えられているという点である。
著者
鈴木 涼太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.153-168, 2018

本稿は、ロシアを代表する民芸品として観光客に人気のおみやげマトリョーシカを事例に、観光みやげにかかわる人やモノの移動の連関について考察するものである。これまでの観光研究では、おみやげは当該の観光地で生産されていることが前提とされ、訪れた観光客が自らのホームへとそれを持ち帰る過程や、おみやげになることによって生じる意味や形態の変化に主たる焦点が当てられてきた。しかし実際に観光地で販売されているおみやげの多くは、必ずしも地域固有のものであるとは限らず、生産のプロセスにおいて時間的にも空間的にも様々な越境を経てその場所へとたどり着いた商品であることも少なくない。またおみやげをその「本来の姿」との対比で論じることで、観光という移動のために生産されたモノを規定する論理については十分な検討が行われてこなかった。その結果既存の研究では、おみやげをめぐる複数の移動の経路や、異なる社会的文脈においておみやげが経験する意味や価値の変化の在り方をとらえきれていなかったと考えられる。<br>それに対して本研究では、マトリョーシカというおみやげを観光客が持ち帰る前の「本来の姿」、いわばそのルーツとの対比で論じるのではなく、マトリョーシカが過去100年余りの時間の中で経験してきた、幕末の日本から20世紀初頭のロシアやフランス、さらに現代の中国やベトナム、マレーシア、そして再び日本へと至る世界規模での一連の移動のルートを素描することを試みた。そこから明らかになったのは、おみやげは観光客の移動のみに付随する現象ではなく、より広範な人やモノ、イメージの移動のネットワークにおける移動の途上で、絶えずその形態や意味を再構成させながら存在するモノだということである。そしておみやげが経験する一連の移動をめぐる考察は、真正なモノ/ニセモノ、ローカルなモノ/グローバルなモノ、商品/非商品といった区分がゆらぐ過程の分析となるのである。
著者
鈴木 涼太郎
出版者
観光学術学会
雑誌
観光学評論 (ISSN:21876649)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.153-168, 2018 (Released:2020-09-30)

本稿は、ロシアを代表する民芸品として観光客に人気のおみやげマトリョーシカを事例に、観光みやげにかかわる人やモノの移動の連関について考察するものである。これまでの観光研究では、おみやげは当該の観光地で生産されていることが前提とされ、訪れた観光客が自らのホームへとそれを持ち帰る過程や、おみやげになることによって生じる意味や形態の変化に主たる焦点が当てられてきた。しかし実際に観光地で販売されているおみやげの多くは、必ずしも地域固有のものであるとは限らず、生産のプロセスにおいて時間的にも空間的にも様々な越境を経てその場所へとたどり着いた商品であることも少なくない。またおみやげをその「本来の姿」との対比で論じることで、観光という移動のために生産されたモノを規定する論理については十分な検討が行われてこなかった。その結果既存の研究では、おみやげをめぐる複数の移動の経路や、異なる社会的文脈においておみやげが経験する意味や価値の変化の在り方をとらえきれていなかったと考えられる。 それに対して本研究では、マトリョーシカというおみやげを観光客が持ち帰る前の「本来の姿」、いわばそのルーツとの対比で論じるのではなく、マトリョーシカが過去100年余りの時間の中で経験してきた、幕末の日本から20世紀初頭のロシアやフランス、さらに現代の中国やベトナム、マレーシア、そして再び日本へと至る世界規模での一連の移動のルートを素描することを試みた。そこから明らかになったのは、おみやげは観光客の移動のみに付随する現象ではなく、より広範な人やモノ、イメージの移動のネットワークにおける移動の途上で、絶えずその形態や意味を再構成させながら存在するモノだということである。そしておみやげが経験する一連の移動をめぐる考察は、真正なモノ/ニセモノ、ローカルなモノ/グローバルなモノ、商品/非商品といった区分がゆらぐ過程の分析となるのである。
著者
神田 孝治 遠藤 英樹 須藤 廣 松本 健太郎 吉田 道代 高岡 文章 藤巻 正己 藤木 庸介 濱田 琢司 鈴木 涼太郎 山口 誠 橋本 和也
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,近年におけるツーリズム・モビリティの新展開に注目し,それを特定の地域に焦点をあてるなかで検討するものである。その際に,「科学技術の進展とツーリズム」,「ダークツーリズム」,「サブカルチャーとツーリズム」,「女性とツーリズム」,「アートとツーリズム」,「文化/歴史遺産とツーリズム」という6つのテーマを設定している。本年度は初年度であったが,各テーマに関連するいくつもの成果が生み出された。特に,「科学技術の進展とツーリズム」に関わるものは,神田孝治・遠藤英樹・松本健太郎編『ポケモンGOからの問い─拡張される世界のリアリティ』(新曜社, 2018)を筆頭に,多数発表されている。本研究課題の成果が,モバイルメディアがもたらす新しいツーリズムに関する研究を牽引するものとなっていると考える。また,研究会も積極的かつ有益な形で実施された。第1回研究会は,観光学術学会や人文地理学会地理思想研究部会と共催するなかで,Durham UniversityのMike Crang氏による“Traveling people, things and data: borders and global flows”と題した講演とそれを受けたシンポジウム「ツーリズム,モビリティ,セキュリティ」を実現した。第2回研究会は,観光学術学会との共催によるシンポジウム「おみやげは越えていく―オーセンティシティ・ローカリティ・コモディティ」と,和歌山大学・国際観光学研究センターのAdam Doering 氏による“Mobilities for Tourism Studies and “beyond”: A Polemic”と題した講演会を実現した。こうした取り組みが,モビリティに注目した先端的な観光研究の知を,広く関連する研究者に提供する役割を果たしたと考える。