著者
岩船 昌起
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>【はじめに】</b>本研究では,球磨郡球磨村を対象地域として,平成 24(2012)年熊本広域大水害を顧みた上で,令和2年7月豪雨災害時の緊急避難の逃げ道に注目し,予測し難い局地的大雨による水害時の住民避難行動を考察する。</p><p></p><p><b>【平成</b><b>24</b><b>年熊本広域大水害を顧みて】</b>2012年7月12日には,球磨村一勝地で日降水量238㎜,時間降水量11〜12時 39.5㎜,20〜21時 46.5㎜が記録された(気象庁)。7月12日7時〜13日7時の積算降水量は240.5㎜に及ぶ。この時,球磨川水系中園川沿いの高沢地区では,数軒が床下浸水し,内1軒では在宅住民が「床上浸水になったら庇をつたって山側に逃げる」つもりで2階に避難していた(岩船,2015)。</p><p></p><p>熊本県では,平成24年熊本広域大水害を顧みて,平成 25 年度から住民避難モデル実証事業等にて「予防的避難」の導入に取り組んだ。これは,「避難準備・高齢者等避難開始」発令以前で一般住民にも「日没前の明るいうちに」事前に避難を促すものである。台風のように数日前から豪雨を明確に予測できる場合には有効な対策であり,全国的にも広がりをみせた。しかし集中豪雨や局地的大雨の強度・頻度が増している昨今,現在の観測技術では突発的な局地的大雨を高い精度で予測し難しく,予防的避難が実現し難い場合での避難計画も事前に準備しておく必要がある。</p><p></p><p>筆者は,国土交通省九州地方整備局「九州地方の大規模土砂災害における警戒避難対策検討委員会(平成 25〜26 年度)」を通じて,モデル地区の球磨村高沢地区で高齢者中心の住民の体力や熊本広域大水害時の避難行動を調べ,予防的避難がなされなかった場合での浸水段階に応じた緊急避難計画を考案した(岩船,2015)。中園川が溢流すると左岸と右岸で行き来できなくなり,両岸それぞれでも地形的行動障害があることから,集落を5区分して,浸水段階と微地形に応じて,避難経路が浸水する前に斜面上方の親類・知人宅等へ移動し,大規模土砂災害が想定される最も危機的な状況下でもヘリコプター救助場所への"逃げ道"が絶たれないようにした。これは,ヘリコプター救助段階を除いて,昭和40年7月豪雨災害時の避難行動の空間的展開に類似しており,「雨が降れば自宅に戻る」日常行動に端を発した緊急避難計画である。</p><p></p><p><b>【令和</b><b>2</b><b>年</b><b>7</b><b>月</b><b>3</b><b>〜</b><b>4</b><b>日球磨村高沢地区での避難行動】</b>一勝地での降水量は,2020年7月3日日降水量 119 ㎜,4日日降水量357㎜が記録され,時間降水量が4日4〜5 時に76 ㎜の最大値であった。3日10時〜4日10時の24時間積算降水量455.5㎜であった。また,気象庁等は,球磨村に,3日21時39分大雨警報(土砂災害),22時20分土砂災害警戒情報,22時52分洪水警報,4日1時34分に大雨警報(浸水害・土砂災害),4時50分大雨特別警報を発表した。</p><p></p><p>7月31日時点で高沢地区を現地調査できていないが,被災後の現地撮影資料(例えば,ピースワンコ・ジャパン,7月11日救助活動動画)から,中園川に直面する家屋では床上・床下浸水程度の被害と認識できた。一方,令和2年7月豪雨による熊本県での死者・行方不明者67名中25名が球磨村住民であり,全てが球磨川本流地区住民{渡(自宅)2名,渡(千寿園)14名,一勝地6名,神瀬3名}であり(熊本県資料),高沢地区を含む山間地域の球磨川支流地区住民の報告はない。</p><p></p><p>従って,床上・床下浸水の被害が及んだ中園川沿いの高沢地区住民は,7月3日から在宅し,大雨による増水で自宅等の浸水の恐れが高まった4日未明から早朝に緊急避難したと思われる。</p><p></p><p><b>【考察】</b>熊本県では「予防的避難」の延長として「熊本県版タイムライン」を2015年4月に策定し,事前予測が可能な大雨への対応策を予め準備してきた(熊本県HP)。しかし,気象庁が予測できない想定外の大雨の発生を否定できないことから,緊急避難的な対応を保険的に準備しておくべきであった。死者・行方不明者が生じた球磨川本流沿いの地区は,元々浸水しやすい地形上にあり,かさ上げで居住地の比高を増したものの,浸水を想定しての緊急避難での逃げ道を確保していない場合が多かった。一方,死者・行方不明者が生じなかった山間地域の球磨川支流地区では,浸水が小規模であったことと,緩斜面上に集落が立地しており,津波立ち退き避難で山麓緩斜面が逃げやすい地形であったことと同様に(岩船,2018),緊急避難しやすかった。</p><p></p><p><b><文献></b></p><p>・岩船昌起2015.水害・土砂災害における高齢者の体力と避難行動−2012年熊本広域大水害時の球磨村での検証.『第14回都市水害に関するシンポジウム講演論文集』,11-18.</p><p>・岩船昌起2018.個人の「避難行動」を記録する意義−パーソナル・スケールでの時空間情報の収集と整理.地理,63(4),22-31.</p>

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