著者
埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の流行下では、人混みを避けて人との距離を保つこと(Social distancing)が必要とされ、移動や外出の自粛も求められる。この状況が長期化する中で、人との対面接触を基本とする従来型の社会調査あるいは地域調査は、事実上、実施不可能な状態が続いている。国が実施する統計調査にも影響は及んでおり、2020年国民生活基礎調査は中止となった。その一方、Covid-19をめぐる人々の外出状況や予防行動の把握に対しては、スマートフォンの位置情報やLINEアプリを利用したサーベイ(「新型コロナ対策のための全国調査」)など、新たな技術・方法も活用されている。</p><p></p><p>このようなCovid-19の社会/地域調査に対する影響は、良くも悪くも、インターネット調査の学術利用に関する議論を活発化させる方向に働く。これが距離を保ちながら人々から情報を得ることができる、数少ない有用な調査法だからである。インターネット調査の強みはその迅速性と廉価性にあり、紙の調査票では不可能であった画像データなどの収集も可能である。標本の代表性や測定の精度に課題を抱えつつも、総調査誤差の観点から従来型調査を補完することが期待されている(埴淵・村中 2018)。</p><p></p><p>本発表では、Covid-19流行下で実施されたインターネット調査の事例を紹介するとともに、量的調査だけでなく、フィールドワークやインタビュー調査のオンラインでの実施可能性についても若干の考察を行うこととしたい。</p><p></p><p>一つ目の事例は、緊急事態宣言下における外出行動の把握を目的としたインターネット調査である(2020年5月実施、n=1,200、東北大学)。同調査では、過去三カ月の外出状況について、レトロスペクティブな自己申告データと、iPhoneに自動記録されている歩数の画像データが同時に収集された。注目すべきイベント(この場合は緊急事態宣言)の発生後、短期間のうちにイベント前に遡及したデータ収集を行うこの方法は、従来型調査では不可能なインターネット調査の迅速性を生かしたものといえる。</p><p></p><p>二つ目の事例は、Covid-19流行下における地域住民の予防行動に関するインターネット調査である(Machida et al. 2020、ベースライン調査:n=2,400、東京医科大学)。ここでは2020年2月から7月の間に4回のインターネット調査が実施されており、短期間で繰り返し追跡調査(同一の参加者による回答)を行っている点に特徴がある。刻々と変化する流行状況とそれに対する人々の行動変化(例えば手洗い実施率の推移など)を詳細に把握しうるこの方法も、インターネット調査の迅速性を有効に活用したものといえる。</p><p></p><p>とはいえ、すべての社会/地域調査がオンライン化できるわけではなく、調査手法間には差がみられるであろう。インタビュー調査に代表される質的調査や、現地を訪問して行うフィールドワークがどの程度オンライン環境で実施可能なのか、また翻って考えると、従来型の調査にはどういった方法上の価値があったのかなど、議論すべき課題は多い。「現場の雰囲気」を掴みにくいオンライン調査では、思いがけない偶発的な発見が生じにくいことなどは当然予想される。これらを実証的に探ることが、今後の社会/地域調査法において重要な検討課題になると考えられる。</p><p></p><p> </p><p></p><p>埴淵知哉・村中亮夫 2018. 地域と統計—「調査困難時代」のインターネット調査. ナカニシヤ出版.</p><p></p><p>Machida M, Nakamura I, Saito R, et al. 2020. Adoption of personal protective measures by ordinary citizens during the COVID-19 outbreak in Japan. <i>Int J Infect Dis</i>. 94: 139-144.</p><p></p><p>*本研究はJSPS科研費(17H00947)の助成を受けたものです。</p>

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