著者
埴淵 知哉 川口 慎介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.137-155, 2020 (Released:2020-04-04)
参考文献数
14
被引用文献数
5 3

近年,学術研究団体(学会)における会員数の減少が懸念されている.本稿では,日本学術会議が指定する協力学術研究団体を対象として,日本の学会組織の現状および変化を定量的に俯瞰することを試みた.集計の結果,学会のおよそ3分の2は会員数1,000人未満であり,人文社会系を中心に小規模な学会が多数を占める現状が示された.過去10年余りの間に個人会員数が減少した学会は3分の2にのぼるものの,それは理工系,中小規模,歴史の長い学会で顕著であり,医学系や大規模学会ではむしろ会員数を増加させていた.また,学会の新設に対して,解散は少数にとどまっていた.結果として,既存学会の維持および会員数の選択的な増減,そして新設学会の増加が交錯している状況が示された.そして,地理学関連学会は学術界全体の平均以上に会員減少が進んでおり,連合体や地方学会を含めてそのあり方を検討する必要性が指摘された.
著者
埴淵 知哉 村中 亮夫 安藤 雅登
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.81-98, 2015-01-01 (Released:2015-10-08)
参考文献数
35
被引用文献数
7 17

社会調査環境の変化を受けて,廉価で迅速にデータを収集できるインターネット調査に注目が集まっている.本論文では,標本の代表性と測定の精度という二つの側面からインターネット調査の課題を整理するとともに,実際に行われた調査データを用いて,回答行動,回答内容,そして地理的特性について分析した.その結果,インターネット調査における標本の偏りや,「不良回答」が回答時間と関連していることを確認し,地理的特性がそれらと一定の関連をもつことを指摘した.さらに,地理学における今後のインターネット調査利用の課題と将来の利用可能性について考察した.
著者
埴淵 知哉 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.14-29, 2019 (Released:2019-01-29)
参考文献数
28
被引用文献数
4 1

近年,国勢調査の「不詳」増加が懸念されている.本研究は,国勢調査の調査票未提出に関連する諸要因を明らかにし,データの補正や解釈,あるいは将来の調査改善に役立つ情報の獲得を目的とした.インターネット調査により収集された,国勢調査の回答状況を含む個票データの分析から,若年層や未婚者,単身世帯,短期居住者などが未提出になりやすく,特に年齢が未提出発生の基本的な関連要因であることが示された.また,大都市圏居住者において未提出が生じやすいこと,プライバシー意識は予想に反して未提出に結び付いていないこと,国勢調査の理解度が年齢とは独立して未提出に関連していることなども明らかになった.国勢調査データを地域分析に利用する際には,これらの偏りがもたらす疑似的な地域差・地域相関の可能性に留意するとともに,将来の国勢調査では,年齢層を問わず調査結果の利用・公開方法を広く周知していくことの重要性が指摘された.
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.87-112, 2005-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
42
被引用文献数
2 1

本稿は,国際的非政府組織(INGO)における空間組織の編成を,グローバル化との関連から明らかにするものである. INGOの空間組織は,調整機関としての国際拠点と自律的な地域拠点,そしてネットワーク組織の諸特性を伴う拠点間の関係から構成されており,それは多様な空間スケールにおける戦略の結果としてみられる.このような空間組織を編成する要因は,相互に依存する「ローカルな実行性」・「グローバルな実行性」・「ローカルな正当性」・「グローバルな正当性」というカテゴリーから説明することができる.すなわち, INGOはグローバル化の複雑な空間再編成に同時対応する戦略を通じて,これらの実行性と正当性を獲得しその影響力を行使していると考えられる.また, INGOの空間組織は国家の領域を基盤として編成されており,このことから世界都市システムをとらえ直す必要性が指摘された.
著者
埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.66-77, 2013 (Released:2013-04-19)
参考文献数
68
被引用文献数
2 3

健康上の危険因子を探る伝統的な研究において,健康や病気は個人の問題としてとらえられてきた.しかし,個人を取り巻く環境,特に近隣の物的・社会的環境が,人々の健康にさまざまな影響を与えることも明らかにされつつある.本稿では,この近隣と健康をめぐる近年の研究動向を整理し,現状と課題について解説することを目的とする.特に,食と身体活動に焦点を当てて近隣の健康影響に関する研究を概観するとともに,近隣環境の測定に関する諸問題について議論する.その上で,近隣環境の多様性を考慮して,日本を対象とした実証研究の展開が必要であることを指摘する.
著者
足立 浩基 埴淵 知哉 永田 彰平 天笠 志保 井上 茂 中谷 友樹
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
pp.2018, (Released:2021-02-03)

目的:本研究では,iPhoneのヘルスケアアプリのスクリーンショット画像から日常生活上の歩数を得る遡及的調査方法を開発した。インターネット調査を利用し,COVID-19の緊急事態宣言下での歩数変化を例として本調査方法の実用性の検討を本研究の目的とした。 方法:調査会社の登録モニター集団から日本全国に居住する20~69歳のiPhoneの日常的利用者1,200名を抽出し,過去3カ月間のスクリーンショット画像を回収した。画像解析により歩数を読み取るツールを開発し,2020年2月中旬から5月中旬までの平均歩数の推移のデータを取得した。固定効果モデルを用いて緊急事態宣言前後の歩数変化を地域別・性・年齢階級別に推定した。 結果:約79.9%の画像が歩数データの計測に利用可能であった。エラーの要因は操作ミスや画像の低解像度化であり,調査事前に対策し得るものであった。分析の結果,1日あたりの平均歩数が緊急事態宣言後に減少していると推定され,首都圏における先行研究と整合する結果を得た。さらに地域および性・年齢階級による違いを観察し,三大都市圏20代の男性は約2,712歩減,女性は約2,663歩減と最も顕著な減少を確認した。 結論:インターネット調査でスクリーンショット画像を回収し,画像から歩数を読み取る方法は,歩数から推測される身体活動の変化を遡及的かつ客観的に把握する有用な方法として期待される。
著者
埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.127-135, 2016 (Released:2016-03-15)
参考文献数
5

本論文の目的は,『地理学評論』の掲載論文および著者にみられる特徴とその変遷について,基礎的なデータを提示することである.1980年から2013年までの掲載論文を対象として,年齢・性別・所属・身分という四つの著者属性と,分野・種類・著者数・原作という四つの論文属性を取り上げ,論文数の分布とその時系列変化を集計・分析した.その結果,多くの論文と著者属性およびそれらの組み合わせに時系列変化がみられ,「女性」「大学院生」の著者の割合の変化や,「人文」「短報」「共著」「学位」論文の割合の増加傾向,また,投稿–受理期間の長期化といった特徴的な変化が示された.これらの変化をもたらした制度的・環境的要因を検討することが,今後の課題として指摘された.
著者
中谷 友樹 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本不動産学会
雑誌
日本不動産学会誌 (ISSN:09113576)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.73-78, 2019-12-26 (Released:2020-12-26)
参考文献数
29
被引用文献数
3 1

The concept of walkability has been emerged in interdisciplinary areas of public health, urban planning, geography, and other related disciplines as environmental characteristics of residential neighborhoods that promote daily walking and physical activity. As studies using perceived and objective environmental indices have been accumulated, it has become clear that walkable residential environments contribute to regional population health through enhancing physical activity of residents in various societies including Japan. Given the relationship between walkability and health, bridging between health policies and urban planning in various geographical contexts becomes increasingly important to design healthy neighbourhoods.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.97-113, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

近年の国勢調査においては,未回収や未回答に起因する「不詳」の増加が問題になっている.本研究は,小地域レベルの「不詳」発生における地理的特徴を探り,地域分析への影響と対処法について検討することを目的とした.2010年国勢調査を用いて「年齢」,「配偶関係」,「労働力状態」,「最終卒業学校の種類」,「5年前の常住地」に関する不詳率を算出し,都市化度別の集計,地図による視覚化,マルチレベル分析をおこなった.分析の結果,「不詳」発生は都市化度と明瞭に関連していると同時に,市区町村を単位としたまとまりを有していることが示された.このことから,国勢調査を用いた小地域分析において「不詳」の存在が結果に与える影響に留意するとともに,今後,「不詳」発生の傾向を探るための社会調査の実施や,データの補完方法についての基礎研究を進める必要性が指摘された.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 村中 亮夫 花岡 和聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.447-467, 2012-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
33
被引用文献数
1 4

社会調査の回収率は,標本から母集団の傾向や地域差を適切に推定するための重要な指標である.本研究では,回収率の地域差とその規定要因を明らかにすることを目的として,全国規模の訪問面接・留置調査を実施しているJGSS(日本版総合的社会調査)の回収状況個票データを分析した.接触成功および協力獲得という二段階のプロセスを区分した分析の結果,接触成功率・協力獲得率には都市化度や地区類型によって大きな地域差がみられた.この地域差は,個人属性や住宅の種類などの交絡因子,さらに調査地点内におけるサンプルの相関を考慮した多変量解析(マルチレベル分析)によっても確認された.したがって,回収状況は個人だけでなく地域特性によっても規定されていることが示された.しかし,接触成功率・協力獲得率には説明されない調査地点間のばらつきが残されており,その理由の一つとして,ローカルな調査環境とでも呼びうる地域固有の文脈的要因の存在も示唆された.
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.49-69, 2007-02-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
41
被引用文献数
1 3

本稿の目的は, 地方圏に所在するNGOによる「地域かちの国際協力」の可能性と問題点を検討し, NGO活動における「地域」の役割を明らかにすることである. また, それを通じて地方圏におけるNGO活動の可能性を探ることも意図している. 12団体のNGOに対するインタビュー調査の結果, NGOは, 遍在する資源あるいは固有の資源を活用し, 地域内および地域間の諸関係を通じて信頼やネットワークを構築することで, 国際協力活動を有効に機能させていることが示された. またこのような積極的な役割の一方で, 地方圏では支援者の規模の制約があることや,「地域からの国際協力」を実践することで生じる利害関係や正当性をめぐる問題点も指摘された. 本稿の分析を通じて, 国内の「地域」との有効な関係構築が, 特に地方圏でのNGO活動にとって重要な問題であることが明らかになった.
著者
中谷 友樹 矢野 桂司 井上 茂 花岡 和聖 伊藤 ゆり 田淵 貴大 埴淵 知哉
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究の目的は(1)日本社会を対象としたADI指標(地理的剥奪指標)の提案と、(2)小地域(近隣地区レベル≒町丁字スケール)におけるADIと健康指標との関連性を近隣環境要因の媒介に着目した評価、の2点である。ADIについては、貧困・剥奪に関連した国勢調査の小地域統計資料を利用して算出し、各種の健康指標との関連性を分析した。結果として、主観的健康感やがんの生存率など、各種の健康指標の悪化と地理的剥奪の高さとの関連性を報告し、その背景となる近隣環境との関係を考察した。これらを通して、健康の地理学における学際的研究の推進とともに、日本における小地域統計を利用した統計の高度利用について検討した。
著者
埴淵 知哉 川口 慎介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.137-155, 2020
被引用文献数
3

<p>近年,学術研究団体(学会)における会員数の減少が懸念されている.本稿では,日本学術会議が指定する協力学術研究団体を対象として,日本の学会組織の現状および変化を定量的に俯瞰することを試みた.集計の結果,学会のおよそ3分の2は会員数1,000人未満であり,人文社会系を中心に小規模な学会が多数を占める現状が示された.過去10年余りの間に個人会員数が減少した学会は3分の2にのぼるものの,それは理工系,中小規模,歴史の長い学会で顕著であり,医学系や大規模学会ではむしろ会員数を増加させていた.また,学会の新設に対して,解散は少数にとどまっていた.結果として,既存学会の維持および会員数の選択的な増減,そして新設学会の増加が交錯している状況が示された.そして,地理学関連学会は学術界全体の平均以上に会員減少が進んでおり,連合体や地方学会を含めてそのあり方を検討する必要性が指摘された.</p>
著者
埴淵 知哉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.571-590, 2008-09-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
93
被引用文献数
4

本稿の目的は, 世界都市システムをめぐる近年の研究動向を整理し, 今後の研究の課題と方向性を示すことである. 近年の世界都市システム研究は, GaWCという研究グループを中心に進められてきた. 多様な理論背景を持っ世界都市システム研究の問題意識には, 世界都市―世界都市関係と, 世界都市―領域国家関係という二つの側面があり, 世界都市システムをメタ地理学的イメージとして提示することが意図されている. グローバル・サービス企業を中心とした分析から, GaWCは世界都市システムの姿を具体的に描き出してきた. しかし, そこで想定する組織形態が不明瞭な点や, グローバル・サービス企業中心のモデル化といった点に, 大きな課題がある. 本稿ではこれに対して, 組織論的視点の明示的な導入と, NGOを対象としたオルタナティブな研究を提案し, 企業組織中心の世界都市システム概念を相対化することの必要性を指摘した.
著者
村田 陽平 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.154-170, 2011 (Released:2011-02-12)
参考文献数
50
被引用文献数
2 1

本稿は,保健師による地域診断活動の実態を明らかにしながら,健康の地理学の可能性を検討するものである.具体的には,中部地方A地域管内の保健所(2カ所)・市町保健センター(10カ所)の保健師を対象に,2006年10月から2007年2月にかけて地域診断実施に関する半構造化インタビュー調査を実施した.その結果,現状では,多くの保健師が地域診断活動に対して苦手意識を持っており,体系的・理論的レベルにおいて地域診断を十分に実施していないことが明らかになった.一方,暗黙的・経験的なレベルでは,保健師は,地域における人間関係や情報をつなぐ能力を持っていることも導出された.その上で,今後の保健師の地域診断への提言を示し,人間の主観性を射程に入れる健康の地理学の視点が,地域の多様な関係性を結ぶ役割を果たす保健師という専門職の再構築につながることを指摘する.
著者
足立 浩基 埴淵 知哉 永田 彰平 天笠 志保 井上 茂 中谷 友樹
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.172-182, 2021-09-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
19

目的:本研究では,iPhoneのヘルスケアアプリのスクリーンショット画像から日常生活上の歩数を得る遡及的調査方法を開発した。インターネット調査を利用し,COVID-19の緊急事態宣言下での歩数変化を例として本調査方法の実用性の検討を本研究の目的とした。方法:調査会社の登録モニター集団から日本全国に居住する20~69歳のiPhoneの日常的利用者1,200人を抽出し,過去3か月間のスクリーンショット画像を回収した。画像解析により歩数を読み取るツールを開発し,2020年2月中旬から5月中旬までの平均歩数の推移のデータを取得した。固定効果モデルを用いて緊急事態宣言前後の歩数変化を地域別・性別・年齢階級別に推定した。結果:約79.9%の画像が歩数データの計測に利用可能であった。エラーの要因は操作ミスや画像の低解像度化であり,調査事前に対策し得るものであった。分析の結果,1日当たりの平均歩数が緊急事態宣言後に減少していると推定され,首都圏における先行研究と整合する結果を得た。更に地域および性・年齢階級による違いを観察し,三大都市圏20代の男性は約2,712歩減,女性は約2,663歩減と最も顕著な減少を確認した。結論:インターネット調査でスクリーンショット画像を回収し,画像から歩数を読み取る方法は,歩数から推測される身体活動の変化を遡及的かつ客観的に把握する有用な方法として期待される。
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 上杉 昌也 井上 茂
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.173-192, 2020-05-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
49

本研究は,個人の意識・行動・属性と人々が居住する地域環境の情報を併せもつ統計データ(地理的マルチレベルデータ)を,新たな調査法の組合せによって構築する試みである.東京都文京区の住民を対象に,回収数の最大化を意図したインターネット調査を実施した結果,すべての郵便番号界から一定数の回答が得られた.次に,Google Street Viewを用いて効率化した系統的社会観察を実施し,街路景観評価に基づく近隣特性の面的把握を行った.そして,これらを結合した地理的マルチレベルデータを分析し,近隣のミクロスケール・ウォーカビリティと住民の余暇歩行の間に有意な正の関連性がみられることを確認した.従来型の社会調査や国勢調査を利用したデータ構築が困難さを増す中,本研究が提案した方法は,地理的マルチレベル分析を近隣単位かつ広域的に実現しうる一つの有用な選択肢となる.
著者
村田 陽平 埴淵 知哉
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨 2007年 人文地理学会大会
巻号頁・発行日
pp.601, 2007 (Released:2007-12-12)

回想法(reminiscence, life review)とは,1963年にアメリカの精神科医ロバート・バトラー(Butler,R.N)が提唱した,高齢者を対象とする心理療法の一つである。回想法の目的は,高齢者が専門家とともに,過去の記憶を辿り,今までの人生を振り返りながら,これからの自己の「生」に対する肯定感の獲得を目指すものである。回想法の実施により,自尊感情の高まりなど個人の内面への効果や,生活の活性化や対人関係の進展など社会面への効果等が指摘されており,バトラーの提唱以降,アメリカ,カナダ,イギリスなど欧米を中心に取り組まれてきた。日本でも少なからず研究や実践が進められてきたが,近年では,認知症や閉じこもり等,介護予防の一環として高齢者のQOL(生活の質)の向上に期待できるものとして注目を集めている。この動きの中で,従来は病院や介護施設(特別養護老人ホーム,老人保健施設)など限定された場所で行われてきた回想法を,「地域」の活動としてまちづくりの核に位置づける自治体がみられるようになってきている。そこで,本発表では,回想法を取り入れた2つの地域事例(北名古屋市「回想法センター」・恵那市「明智回想法センター・想い出学校」)の紹介を通じて,回想法と今後の地域づくりとの関係性を考える契機としたい。
著者
谷本 涼 埴淵 知哉
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.249-264, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
34

個人の全体的な生活の質を考察するには,生活におけるさまざまな目的地の利便性を総体的にとらえられる認知的アクセシビリティの指標を用いた議論が必要である.都市政策における自動車依存からの脱却の方向性も踏まえ,本稿の目的は,もし自動車が使えなくても,日常生活で必要あるいは望む活動が十分にできるか否かというアクセシビリティの総体的感覚(Sense of Accessibility: SA)の指標と,客観的なウォーカビリティ指標(WI),および近隣環境・個人の属性との関係を考察することとした.順序ロジスティック回帰分析の結果,WIはほぼ一貫してSAと有意な正の相関を示した.WIの構成要素の中では,人口密度がSAと強い相関を示した.回答者の性別,年齢,世帯類型は,自動車利用頻度の高低でSAとの相関の正負や強さが大きく異なっていた.この結果は,昨今の都市政策の方向性をある程度支持する一方,自動車に依存しない生活への支援を要する個人の存在も示唆している.