著者
櫛引 素夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b>1.</b><b>はじめに</b></p><p></p><p> 郊外に立地する整備新幹線の駅は、アクセス面や都市計画上の課題を抱える例が少なくない(あおもり新幹線研究連絡会・2020、櫛引・2020)。このような状況を克服し、新幹線駅を新たな協働の拠り所とする営みを目指して、発表者は2019年度、東北新幹線・新青森駅と周辺を対象にニュースレター「はっしん! 新青森」を創刊、10カ月に10回発行した。経過は2019年の日本地理学会・秋季学術大会で報告した。事業は2020年度も継続したが、コロナ禍が世界と国内を覆うに伴い、年度初めから事業の中断や活動の変更を余儀なくされた。本研究では、地元のネットワークづくりに及んだ影響と、その克服へ向けた取り組み、およびこれらの過程に対する考察について報告する。</p><p></p><p><b>2.2019年度から2020年度への経緯</b></p><p></p><p> 2019年の秋から冬、ニュースレター発行は順調に推移した。2020年12月に東北新幹線全線開通・新青森開業10周年を控え、節目を祝いながら開業以来の足跡と地域課題を見直す機運が生まれる一方、多様な市民がイベントに参加し始めていた。</p><p></p><p> 2019年11月には、地域連携DMO法人・信州いいやま観光局から講師を招き、青森西高校で「おもてなしフォーラム」を開催。青森西高校生や青森大学生、新青森駅長はじめJR東日本社員、青森県や国土交通省青森運輸支局の職員、住民など約70人が参加した。</p><p></p><p> しかし、2020年2月には外国人観光客が減り始め、青森西高校の生徒たちが「おもてなし活動」の舞台としてきたクルーズ船の寄港中止が報じられるようになった。2月下旬から3月にかけて、ニュースレターに毎回、記事を掲載してきた三内丸山遺跡センターや青森県立美術館のイベントが中止になり、印刷が終わった紙面の修正と再印刷を余儀なくされたりもした。</p><p></p><p> 3月下旬には県内初の感染者が確認され、ニュースレター配布に協力を得ていた施設が相次いで閉鎖されたため、完成していた4月号の配布を断念せざるを得なくなった。続く5月号は当初から制作を諦めた。</p><p></p><p> 既報の通り、北陸新幹線の上越妙高駅(新潟県上越市)周辺でも、姉妹紙となるニュースレターの刊行構想が生まれ、現地セミナーや試作を経て刊行を目指していたが、コロナ禍が一因となり実現していない。</p><p></p><p><b>3.</b><b>発信の継続と活動の再起動</b></p><p></p><p> ニュースレターはFacebookとInstagramで関連アカウントを運用してきた。また、青森西高校生は「おもてなし活動」の機会がなくなったことから、ねぶた衣装を二次利用したマスクや感染拡大防止を呼びかけるポスターを制作していた。そこで、紙面作りは諦めたものの、これらの活動をネットの独自コンテンツとして、主にFacebookで報じ続けた。この間、記事の閲覧回数が前年の1.5〜2倍に増加する現象もみられた。</p><p></p><p> やがて、緊急事態宣言が解除されたことから、青森西高校と新青森駅のコラボによる「開業10周年カウントダウン企画」がスタート、活動が徐々に再起動した。並行して、ニュースレターを6月に復活させた。</p><p></p><p><b>4.</b><b>考察と展望</b></p><p></p><p> 地元では「ウィズ・コロナ」時代に向けた模索が始まっている。例えば、青森県立美術館の「コレクション展2020-2:この世界と私のあいだ」は「ソーシャル・ディスタンシング」が意識され、「物事の境界・空間」「これからの距離」をキーワードに構成されたという。さらに、インターネット上でギャラリートークを公開するなど、豊富なコレクションを今までとは異なる形で「社会にひらいていく」ことを志向しているという。</p><p></p><p> 社会全般において あらためて「ウィズ・コロナ」におけるDX(デジタル・トランフォーメーション)の必要性が浮上している。上記の取り組みは、その一例と言えよう、とはいえ、人間社会のさまざまな動きや連携は、やはり「ネット」「デジタル」だけでは完結させようがない。空間的にも、社会的にも、さまざまな関係性を再構築していく上で、リアルとネットをつなぎ直す「起点」やアイテムが不可欠であろう。一方では、新たな観光や旅行、移動の在り方を根本的につくり直す営みが不可避である。</p><p></p><p> これらの状況を俯瞰すれば、新幹線駅やその周辺を対象とするニュースレターは、広域的なネットワークと地域、そしてリアルとネットを結ぶ「二重の結節点」として、今まで以上の価値を持ち得ると考えられる。</p><p></p><p><b>◇</b><b>参考文献:</b>あおもり新幹線研究連絡会(2019)「九州、北陸新幹線沿線の変化の検証に基づく、北海道新幹線の経済的、社会的活用法への提言」(青森学術文化振興財団・2018年度助成事業報告書)、▽櫛引素夫(2020)「新幹線は地域をどう変えるのか」(古今書院)▽櫛引素夫(2019)「郊外の『ポツンと新幹線駅』、集客をどう図るか」(東洋経済オンライン記事、2019年10月19日)</p>

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こんな論文どうですか? 新幹線駅エリアの「メディア化」が持つ地理学的な可能性と課題(続報)(櫛引 素夫),2020 https://t.co/QwLomJjKB5 <p><b>1.</b><b>はじめに</b></p><p></p><p> 郊外に立…
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