- 著者
-
五十嵐 隆幸
- 出版者
- 日本貿易振興機構アジア経済研究所
- 雑誌
- アジア経済 (ISSN:00022942)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.1, pp.2-33, 2021
<p>1979年1月の米華断交後,米国が台湾関係法を制定したことで,国府は台湾の防衛に関して米国から一応の保障を得ることができた。だが同法は米華相互防衛条約と異なり,米国に台湾防衛の義務がなかった。そのため蔣経国は単独で台湾を防衛することを想定し,「大陸反攻」の態勢を保持していた国軍を「台湾防衛」型の軍隊に改編させた。また,同法に依って提供される「防御性」兵器も米国の判断で選択されるため,国府のニーズに合った兵器とは限らなかった。それゆえ国府は,「大陸反攻」のイデオロギーが色濃く残る大規模な陸軍兵力の削減によって経費を捻出し,兵器の自主開発・生産体制の構築と米国以外からの調達で軍近代化を進めた。米華相互防衛条約の失効という安全保障上最大の危機への対応を迫られた蔣経国は,実質的に「大陸反攻」の構想を「放棄」した。そして国軍は「攻守一体」の軍事戦略に基づく「大陸反攻」任務とのジレンマを抱えつつ,「台湾防衛」のための軍隊へと変貌していくのであった。</p>