著者
澤田 みつ子 小幡 和男 上条 隆志
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.834-838, 2010-03
被引用文献数
1

タチスミレはスミレ科スミレ属の多回繁殖型多年生草本種である。現在、本種は関東の利根川水系(菅生沼・小貝川・渡良瀬遊水地)と九州(宮崎県・大分県・鹿児島県)の限られた地域において、主にオギやヨシの優先する低湿地の草原内に生育し、絶滅危惧II類(VU)に指定されている。本種の生育環境であるいわゆるオギ原やヨシ原は資源採集の場として人の営みの場に維持され農業生態系の中に残されてきたが、明治期以降の水田等への土地利用転換によって自然の湿地は大規模に喪失した。そして今日では湿地に依存する生物の多くで減少や絶滅の危機の高まりが見られている。環境庁レッドデータブックによると、本種の生育地メッシュ数は11メッシュ(うち絶滅2メッシュ、現状不明2メッシュ)と少なく、減少の要因として植生の自然遷移、河川開発、管理放棄があげられている。そのため本種は残存する数少ない生育地をどのように保全・維持していくかが課題といえる。本研究の調査対象地である茨城県菅生沼の自生地では、管理放棄されていた生育地において、冬期に火入れを行うことによって、個体密度が増加したことが報告されている。菅生沼のオギ二次草原を含めて、日本のヨシ、オギなどの湿地草原へ継続的に実施されている火入れのうちいくつかでは、毎年1回冬期から初春において行われているが、特定の絶滅危惧種の保全を目的とした場合に、火入れの有無と対象種の応答について把握する必要があると思われる。本研究では、火入れ管理が毎年継続して行われているタチスミレ自生地において、2年間にわたり火入れの中断実験を行うことで、タチスミレの個体数とサイズ構成に変化が生じるのかを明らかにすることを目的とした。

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