著者
小泉 公乃
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.63, pp.41-59, 2010

原著論文【目的】本研究の目的は, 第一に, これまで定性的に述べられてきた大学図書館における図書館員と教員の選書が, 利用者の貸出や蔵書構築にどのような影響を与えているのかを定量的に明らかにすることである。第二は, 蔵書の状況や利用者の貸出の状況を定量的に分析することで, 図書館員と教員の選書の特徴を明らかにすることである。第三は, 複数の蔵書評価法を選書研究に適用することで, その有効性を探ることである。【方法】定量的な蔵書評価法である利用統計分析法とチェックリスト法を採用し, 慶應義塾大学三田メディアセンターの経済学分野の図書を対象に, 図書館員と教員の選書を比較した。利用統計分析法では, 1)蔵書受入冊数, 2)蔵書回転率, 3)非貸出図書の所蔵率, 4)年5回以上貸出のある図書の割合, 5)利用者別の貸出率, 6)利用者別の蔵書回転率, 7)オブソレッセンスという七つの観点から分析を行なった。また, チェックリスト法では, 1)他大学図書館の目録, 2)経済学分野で書評された図書, 3)『選定図書総目録』, 4)修士・博士論文の引用文献という四つの観点からチェックリストを作成し, 分析を行なった。【結果】図書館員と教員の選書には, 明らかな特徴の違いがあった。利用統計分析法から, 図書館員は和図書を多く選書し, 教員は図書館員に比べると洋図書を多く選書していた。図書館員が選書した和図書は多く貸し出され, 教員が選書した図書はその多くが貸し出されていなかった。図書館員が選書した図書は, 利用者の種類を問わず, 繰り返し貸し出されていた。また, 図書館員が選書した図書は, 長期にわたり貸し出される傾向にあった。チェックリスト法からは, 図書館員の選書は教員に比べて, チェックリストとの重複率が格段に高いことがわかった。複数の蔵書評価法を適用することで, 選書者の特徴を実証的に提示できたことから, 蔵書評価法は選書研究に有効な手法であることが明らかになった。

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