著者
細馬 宏通
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.102-119, 2012-09-30

高齢者用グループホームで行われるカンファレンスでは,介護者が報告中に過去の介護行為や入居者の行為をジェスチャーを用いて説明する場面が多発する.こうした場面では,成員どうしは単に言語だけではなく,身体動作も含む活動をお互いにやりとりすることで現実を構成していると予測される.かつてGarfinkelは,社会成員が言語的資料を手がかりに現実を構成する方法(「ドキュメント的解釈法」)を分析した.では,介護者は他の介護者の身体動作を手がかりに,いかに現実を構成し,身体的資料によるドキュメント的解釈法(「身体的解釈法」)を実践しているのだろうか.この問題を考えるために,介護者どうしが発話とジェスチャーを用いて議論する行為連鎖を選び,マイクロ分析を行った.その結果,ジェスチャーの構造の一部が介護者間で繰り返される「相互行為的キャッチメント」が観察された.また,相互行為的キャッチメントには,入居者の身体に対する観察結果や具体的な介護方法に関する,発語には含まれない知識が埋め込まれていた.さらに,個人間でジェスチャーが繰り返される過程で,先行するジェスチャーにはない新たな要素が付け加わり,知識が次々と更新されていく過程があることも明らかになった.ジェスチャーの微細な構造は個人間に開かれており,介護者は先行する別の介護者のジェスチャーを発語とともに関連づけ,身体的解釈法を実践していることがわかった.

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