著者
川北 稔
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.426-442, 2014

ひきこもり支援活動は, 社会参加から撤退した多様な若者に対し, 新たな参加を支援する活動や拠点を提供してきた. だが従来の研究は居場所内部でのアイデンティティの共有や体験の蓄積に焦点化する一方で, 支援が一定の場所や空間において行われること自体の意義は十分に議論されていない. 若者による活動空間の喪失から新たな空間獲得への中継地として, 支援空間はどのように展開され, 体験されているのか.<br>支援団体におけるフィールドワークから, 支援者による空間の展開の経緯を追うとともに支援に参加する若者の語りを検討することで, 以下の点が明らかになった. 支援団体は, 多様な支援拠点を家族支援, 居場所提供, 就労支援等の目的で準備してきた. それらの支援空間は若者の段階的移行を支えるため, 空間の間の分離や統合などの配慮を伴いながら配置されている. 空間内部の体験活動や人間関係の多様性は, 必ずしも支援の意図と対応しない選択的な関与を可能とし, 若者の側の価値観の変容や役割獲得のチャンスに結びついている. また複数の支援拠点の存在は, 長期化する支援においてトラブルを経た再度の参加をも保証する. こうした複数の空間での体験を対比することで, 若者は自己理解や, 将来展望のための基準を獲得することが可能となる. 支援空間の多様性・対比性を通じた社会参加の過程は, 既存の生活の文脈を喪失した生活困窮者の社会的包摂に応用可能な視点といえよう.

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