- 著者
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熊本 雄一郎
青山 道夫
浜島 靖典
村田 昌彦
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2019年大会
- 巻号頁・発行日
- 2019-03-14
2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故によって、20-40 PBqの放射性セシウムが環境中に放出されたと推定されている。そのうちの78割は北太平洋に沈着・流出したと見積もられているが、それらのほとんどは海水に溶けた状態で存在する。そのため福島事故由来の放射性セシウムは、海水混合によって希釈されながら表層水の流れに沿って北太平洋全域に広がりつつある。これまでの研究によって、日本近海に沈着・流出した放射性セシウムは北太平洋の中緯度を表面海流に乗って東に運ばれ、事故から約4年が経過した2015年には北米大陸の西海岸に到達したことが分かっている。演者らは2017年夏季に北太平洋亜寒帯域において実施された海洋研究開発機構「白鳳丸」航海において海水試料を採取し、その中の放射性セシウム濃度を測定した。福島事故起源134Csの濃度は、希釈と放射壊変(半減期は約2年)によって現在1 Bq m-3以下まで低下しているため、濃縮しなければ測定することができない。濃縮には、仏国Triskem社製のCsレジン(potassium nickel ferrocyanate on polyacrylnitrile, KNiFC-PAN)を用いた。海水試料約40 Lを50 ml min-1の流速で5 ml(約1 g)のCsレジンに通水することで、レジンに放射性セシウムを濃縮した。海水試料にはキャリアとして塩化セシウム(133Cs)を加え(濃度約100 ppb)、その通水前と通水後の濃度差から放射性セシウムの回収率を約95%と見積もった。陸上実験室に持ち帰ったCsレジンは洗浄後、海洋研究開発機構むつ研究所、または金沢大学環日本海域環境研究センター低レベル放射能実験施設の低バックグランドGe半導体検出器を用いてγ線分析に供され、134Csの放射能濃度が求められた。東部北太平洋のアラスカ湾を横断する東西(北緯47度線)と南北(西経145度線)の2本の観測線に沿った鉛直断面図によると、深度300mまでの表層において東側及び北側の観測点、すなわち北米大陸沿岸により近い観測点で事故起源134Csの濃度が高くなっていた(放射壊変を補正した濃度で最高6 Bq m-3)。これは北米大陸に到達した福島事故起源134Csが北米大陸に沿って北上し、さらに北太平洋の高緯度(北緯50-60度)を西向きに運ばれていることを示唆している。本研究によって得られた結果から、今後数年以内に福島事故起源134Csが北太平洋亜寒帯の反時計周りの循環流、すなわち北太平洋亜寒帯循環流に沿って日本近海に回帰してくることが予測された。