著者
江本 賢太郎 佐藤 春夫
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

短周期地震波は,地球内部の短波長不均質構造による散乱により複雑な波形を示す.例えば,エンベロープ拡大現象や,最大振幅の散乱減衰,コーダ波の励起などが挙げられる.これらを説明するには,ランダムな不均質媒質中での波動伝播を統計的に記述し,波形エンベロープを直接導出する方法が有効であり,ボルン近似を用いた輻射伝達理論や放物近似に基づくマルコフ近似理論が用いられてきた.手法の妥当性の検証には波動方程式の差分法計算との比較が必要であるが,3次元では計算コストの問題からこれまでほとんど行われていない.本研究では,地球シミュレータを用いた3次元差分法計算によりランダム媒質中のスカラー波伝播を再現し,その特徴を調べ統計的手法と比較する.ランダムな速度ゆらぎは指数関数型自己相関関数で特徴づけられるとし,ゆらぎの強さは5%,相関距離 a は1kmと5kmとした.差分法での解析対象周波数は1.5Hzとし,空間刻み0.08km,平均伝播速度4km/sとすると,1波長あたり33グリッドとなり数値分散の影響は無視できる.差分計算は空間4次・時間2次精度とする.計算領域は1辺307kmの立方体とし,中心からRicker波を等方に輻射する.観測点は伝播距離25, 50, 75, 100kmに各距離に20個配置する.この大きさのランダム不均質媒質を一度に作成するのは困難であるため,異なるシードで作成した小さなランダム媒質をなめらかにつなげて全体を構成する.同様に作成した計6個のランダム不均質媒質における計算結果をアンサンブルとして用いる.まず,差分トレースをスタックした平均2乗エンベロープを統計的手法と比較する.相関距離1kmの場合,ボルン近似を用いた輻射伝達理論は,立ち上がりからコーダまで差分エンベロープをよく再現することができた(計算にはモンテカルロ法を用いた).一方,相関距離5kmの場合,ピーク付近のエンベロープは改良マルコフ近似(Sato, 2016)でよく再現でき,コーダ部分はボルン近似を用いた輻射伝達理論で再現できることを確認した.中心波数をkcとすると,前者はakc=2.3,後者はakc=12であり,後者はボルン近似よりもマルコフ近似が適している領域である.次に,エンベロープを構成する差分トレースの2乗振幅分布を調べる.直達波到達直後は対数正規分布を示すのに対し,コーダ部分は指数分布に従うことが分かった.これは,エンベロープを構成する散乱波が,前方散乱波からランダムな分布へと変化していくことを示している.また,相関距離が小さいほど,指数分布へと変化するまでの時間が早くなり,相関距離1km,伝播距離100kmではエンベロープのピーク付近も指数分布となった.また,各観測点の周りに小さな3つの正12面体の頂点となるようにアレイを設置し,各時刻においてFK解析から散乱波の到来方向を調べた.震源方向を基準とした散乱波の入射角は,初動到達後から単調増加した.差分計算は経過時間50秒まで行ったが,この範囲内では,入射角のピーク値の平均は60°程度まで増加したが,等方的にはならなかった.つまり,エネルギーフラックスが等方的になる前から,2乗振幅は指数分布に従うことがわかった.相関距離が1kmの方が5kmと比べてコーダ振幅の励起量が多いが,入射角分布は両者に顕著な違いは見られなかった.

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