- 著者
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小山 真人
早川 由紀夫
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- JpGU-AGU Joint Meeting 2017
- 巻号頁・発行日
- 2017-03-10
1986年噴火は、地層として残る降下スコリアをカルデラ外に降らせたこと、カルデラ外で側噴火を起こしたこと、の2点で過去の伊豆大島の「大噴火」(Nakamura,1964,地震研彙報)と類似し、1986年と同程度の噴出量であった1912〜14年噴火や1950〜51年噴火とは異なっている。しかしながら、数年間にわたって継続的に火山灰を降らせる時期(火山灰期)がないこと、総噴出量が大噴火にしては小さいこと、の2点で過去の大噴火と異なっていたため、これらの欠損条件を満たすためにやがて火山灰期が始まると当初は予想された。ところが1987年11月18日の噴火をきっかけに火口直下のマグマはマグマ溜りに戻り(井田ほか,1988,地震研彙報)、 火山灰期は訪れなかった。1986年噴火は、カルデラ形成以降の過去1500年間に一度も起きたことのない特殊な噴火だったのか、それとも前提となる大噴火の概念に問題があるのか、の疑問が残された。その後、伊豆大島のカルデラ外に地層として確認できるテフラとそれを挟む噴火休止期堆積物の層序と分布を注意深く検討した小山・早川(1996,地学雑誌)は、明瞭な噴火休止期間に隔てられた24回の中〜大規模噴火を識別した上で、降下スコリアと降下火山灰の両方をともなう12噴火(Type 1)、降下スコリアのみをともなう7噴火(Type 2)、降下火山灰のみをともなう5噴火(Type 3)、の3類型に分類した。Type 1には噴出量1億トン以上の大規模な噴火が多く、1986年噴火はType 2のひとつである。また、Nakamura (1964)の提唱した降下スコリア→溶岩流出→火山灰期の噴火サイクルを厳密に満たす噴火は、Type 1の12噴火中の7つにすぎないこともわかった。こうして1986年噴火が伊豆大島の噴火史上とりたてて特殊な噴火でないことが明らかとなったが、肝心の噴火類型の成因は未解明のままであった。また、先述した1912〜14年噴火や1950〜51年噴火などの非爆発的な小〜中規模噴火の位置づけも十分できていなかった。中村 (1978,岩波新書)は、1)噴火末期に主火道内のマグマ頭位が低下すると、火道壁の崩落などでマグマ頭部のガス抜けが阻害されるために爆発的噴火が繰り返して火山灰を放出する火山灰期となり、2)さらにマグマ頭位が低下する場合には、火道内に地下水が浸入して水蒸気マグマ噴火が起きると考えた。噴火末期にマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞する場合には火山灰期が訪れるだろうが、すみやかに地下深部へ低下してしまえば火山灰期がないまま噴火が終了するだろう。主火道のマグマ頭位をすみやかに低下させる原因としては、側方へのマグマ貫入が考えやすい。貫入から約1年のタイムラグはあったが、実際にそれが起きたのが1986-87年噴火と考えることができる。三宅島2000年噴火でも、マグマの側方貫入によって主火道のマグマ頭位が約2ヶ月間かけて低下し、その後8月18日や29日の爆発的噴火が生じたが、火山灰期に相当する噴火は起きずに噴火が終了した。一方、カルデラ外に堆積物が確認できない1876年から1974年までの伊豆大島の一連の小〜中規模噴火は、全般的にマグマ頭位が高かった期間(火道内の赤熱したマグマ頭部が断続的に目視された期間)に発生した。この視点にもとづいて、カルデラ外に堆積物を残さなかった小規模噴火も含む伊豆大島の噴火の特徴とその成因を、統一的に次の5類型に再分類することができる。すなわち、(1)マグマ頭位が高い時期に生じた非爆発的な小〜中規模噴火(1974年、1950-51年など:旧類型の対象外)、(2)マグマの側方貫入が起きず、マグマ頭位低下が緩慢かつ限定的であったため短い火山灰期が生じた5つの中規模噴火(Y0.8、Y3.8、N3.0など:旧類型のType 3)、(3)マグマの側方貫入が起きてマグマ頭位低下がすみやかに進行したため火山灰期が生じなかった7つの中規模噴火(1986年、Y5.2、N3.2など:旧類型のType 2)、(4)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞して長い火山灰期が生じた9つの中〜大規模噴火(1777-78年=Y1.0、Y4.0、N4.0など:旧類型のType 1)、(5)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に地下水位付近で停滞し、大量の地下水浸入にともなう水蒸気マグマ爆発や岩屑なだれが生じた3つの中〜大規模噴火(S1.0、S1.5、S2.0:旧類型のType 1)。