著者
板垣 博 ちょう 斗燮
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、日本多国籍企業の国際的な事業展開とそれを支える統括組織の構造と機能を考察することを目的としている。それには、単なる公式的な組織構造だけではなく、インフォーマルなデータと情報が必要となるため、関連部署及び海外出向経験者とのインタビューを中心とするフィールドスタディを行った。日本の多国籍企業は、従来はグローバルな統合メカニズムというよりは、本社・親工場など日本サイドと海外拠点の1対1の関係の中で経営が行われてきた。しかし、90年代に入って従来の組織構造や情報処理のパターンでは、多国籍企業としての戦略に対応できなくなりつつある。こうした問題意識を背景に、本研究は叙述されている。その内容は以下の通りである。まず第1に、日本の多国籍企業の特色を、「高いオペレーション効率と低収益性のパラドックス」という視点から考察する。この特色は、日本多国籍企業の統括メカニズムの特色、すなわち、日本サイドの権限の強さ、日本人出向社員の比率の高さと権限の強さ、インフォーマルな情報交換の重要性、といった特色と密接な関連がある。第2に、こうした日本の多国籍企業の活動を規定する日本経済の構造変化とそれに対応した直接投資の意義を考察する。第3に、アジア経済危機の中で日本の多国籍企業がどの様な行動をとったかを考察しながら、日本の多国籍企業の特徴ならびに統括メカニズムの具体的な姿を明らかにする。最後に、日本の多国籍企業を代表する松下電器産業の欧州事業展開のケーススタディを通して、グローバル統括メカニズムの実態を検討する。