著者
泉山 茂之 アナルバエフ マクサト 渡辺 悌二
出版者
北海道地理学会
雑誌
地理学論集 (ISSN:18822118)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.14-21, 2009
被引用文献数
6

キルギス共和国南部のアライ谷地域で,地元ハンターへの聞き取りと住民へのアンケート調査を中心に,現存する大型野生動物のリストを作成し,この地域にみられる問題点を明らかにした。その結果,13種の動物をリストアップした。この中には,ソ連邦崩壊後に増加したオオカミと,絶滅の危機に瀕しているマルコポーロ・シープ,現在も続く狩猟によって個体数が激減していると考えられるアイベックスが含まれている。オオカミの群れはいわゆる「里オオカミ」として集落付近で定着するようになっている。これは,ソ連邦時代には国家がオオカミを害獣として組織的に捕殺していたのに,現在では地域の住民が自ら対応しなければならなくなった結果である。オオカミの駆除は必ずしも好ましいとは言えないが,少なくとも人間の居住地域からの排除は必要である。また,マルコポーロ・シープについては,タジキスタン国境に近い,住民の立ち入りが困難なザ・アライ山脈のある地域を除いてすでに絶滅が進行してしまっている。アイベックスについては,新型の銃器による違法狩猟が続いており,食肉用に捕獲されるため,狩猟された個体がトラックの荷台に満載されていたという目撃情報も複数存在している。こうした現状から,実効性のある対策が急務であるが,この地域の生物資源保全を有効に進める一つの貢献として,現在,議論が進んでいる,パミール・アライ国際自然保護地域の設立(PATCAプロジェクト)が期待される。しかしながらアンケート調査によれば,このプロジェクトの計画の存在を知っていた住民はわずか16.9% (331人中56人)に過ぎなかった。