- 著者
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王 婷
渡辺 悌二
- 出版者
- 北海道地理学会
- 雑誌
- 地理学論集 (ISSN:18822118)
- 巻号頁・発行日
- vol.95, no.2, pp.13-31, 2020-09-24 (Released:2020-10-05)
- 参考文献数
- 39
- 被引用文献数
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山岳国立公園のおもなレクリエーション活動には登山と野営があり,登山者に提供される宿泊施設として野営場と山小屋が設置されていることが多い。野営場の適切な管理は,自然環境の保護・保全をすすめるために必要であると同時に,登山者に質の高い野営体験を提供するために重要である。本研究では,大雪山国立公園の高山帯に分布する,管理の行われていない野営場(正式呼称は「野営指定地」)に適切な管理を導入するために,野営場の予約制の管理制度が確立されている台湾の3 つの山岳国立公園を事例として,野営場の特徴を明らかにし,予約制管理の取り組みとその効果について調査を行った。 対象とした台湾の国立公園(国家公園)は,玉山,雪覇および太魯閣の3 つの国立公園で,まず,文献調査およびインターネット調査によって,これらの国立公園の野営場ならびに山小屋に関する情報を収集し,ArcGIS を使ってそれらの分布図を作成した。 次に,それぞれの国立公園の代表的な登山道沿いの宿泊施設(野営場および山小屋)の設置密度を計算した。その結果,登山道区間の長さ1 km あたりに設置された山小屋の数が少ないほど,野営場がたくさん設置されている特徴が見いだされた。また,玉山国立公園の登山道区間・八通関越嶺線では,登山道長1 km あたりの宿泊施設の設置密度が一番小さく(0.19 カ所/km),逆に山小屋の少ない太魯閣国立公園の登山道区間・奇萊東稜線で設置密度が一番大きかった(0.86 カ所/km)。台湾の山岳国立公園では,非公式野営場とオンライン予約の可能な野営場を組み合わせて配置することで,隣接する野営場の設置間隔を小さくし,個々の野営場面積を小さくすることに成功している。 さらに,これら3 つの国立公園で公園管理者に対して聞き取り調査を行った結果,それぞれの国立公園で異なる人数制限と予約制度が導入されていることが明らかになった。また,雪覇国立公園の宿泊施設利用者に対してアンケート調査を実施した。これらの調査の結果,予約制の管理制度の導入が野営場の混雑問題の軽減と野営体験の質の改善に役立っていることが明らかになった。しかし,無許可入園者の幕営による混雑がいくつかの野営場で問題となっているなど改善の余地が残されていることも明らかになった。 大雪山国立公園の高山帯には,土壌侵食と過剰利用が問題となっている野営指定地があり,こうした野営指定地では予約制度の導入が問題解決・軽減に有効であると考えられる。その際,太魯閣国立公園のように,今後,オンライン予約を必要とする野営指定地と予約のいらない野営指定地を組み合わせた緩やかな予約制度の導入が議論されるべきである。さらに,黒岳野営指定地のように利用者が多く土壌侵食の著しい野営指定地においては,テントパッドの設置のような能動的管理の導入が期待される。