著者
アルトゥン ウグル
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
no.12, pp.67-84, 2012

日本は19世紀後半の開国以後,資本主義社会の一部となっていく過程において,活発な情報収集活動が行われた。その一つとして当時のオスマン帝国を訪れた記録も残されている。彼らが当時書いた自身の日記や紀行,新聞記事,そして手紙でのやり取り等は今も数多く現存しており,これらが日本におけるトルコに関する知識の基盤となったと推測される。よって,これらの資料は日本とトルコの関係を検討する上で重要になると考えられる。1911年にイスタンブールに留学に来た小林哲之助はトルコの政治的,軍事的,外交上の事情を新聞や外務省にレポートを送るなどの形で伝え,日本に於いてトルコに関する情報を創造する先行者の一人であった。小林が集めた情報は当時のトルコの事情をあらゆる場面で取り上げる上でかなり重要だと思われる。外務省職員であった小林哲之助は,本国より奨学金を得てトルコに留学した。彼は留学生という身分ながら,トルコ国内でその周辺諸国である東ヨーロッパやバルカン半島の事情をレポートし,これらの情報は大阪朝日新聞の鳥居素川と連絡を密にとりあった。鳥居素川の協力の下それらの情報を「ガラタ塔より」という書籍にてまとめている。その中には,小林哲之助がトルコに留学している間に勃発した伊土戦争,バルカン戦争や第一次世界大戦についての内容が詳細に記されており,当時の東ヨーロッパやバルカン半島の様子を知る為にも貴重な資料だと言える。本論文は二章で成り立てて,第一章では第一次世界大戦の前の日本とトルコの陥った状況や国際社会での一付けを考察する。こうやって歴史的背景を構成しながら両国の世界システムにどのような影響を与えて,どういった役割を果たしているかは論じる。また,第二章では小林のトルコに関する観察を取り上げるとともに伊土戦争から第一次世界大戦に至たるまでの時期を検討する。小林が書き残した書籍「ガラタ塔より」,外務省のレポートや論文等を基に日本の外交官が見るトルコのイメージと,このイメージの伝え方や伝達手段,トルコに於ける小林の情報ネットワークに触れながら,小林の活動の目的や,日本のトルコ観に与えた影響を取り上げる。