著者
酒井 雅史 サカイ マサシ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.10, pp.18-29, 2012-03

本稿では,筆者の内省をもとに兵庫県神戸市における動詞の活用形を用いた命令表現について記述を行なう。具体的には,以下の点を指摘する。(a)兵庫県神戸市方言においては,動詞の活用形を用いた命令表現としてテ形・命令形・連用形・意志形を用いる。(b)神戸市方言の命令表現においては,テ形は《依頼》しか表せず他の機能を持つことはない。命令形は《命令》の場合には使用できるが,聞き手に利益がある《聞き手利益命令》の場合には話し手と聞き手の間に特定の関係性がないと使用できない。意志形は《聞き手利益命令》でのみ使用可能となる。連用形は《命令》《聞き手利益命令》に加えて《勧め》の場合にも使用でき,命令表現においてもっとも広く使用できる形式である。(c)意志形を《聞き手利益命令》で使用できるのは,要求する行為が聞き手にとって利益のあることであり,緊急性を要し,話し手の眼前に聞き手がいる場合に限られるが,連用形の使用にはこれらの制限がない。(d)連用形も意志形と同様に《聞き手利益命令》として使用できるが,意志形が少し親しいソトの人物に対して使用すると不自然なのに対して,連用形は不自然な表現とはならない。また,《聞き手利益命令》において命令形を用いることができる場合は,親から子や先輩から後輩など話し手と聞き手の間に何らかの上下関係がある場合に限られる。