著者
酒井 雅史 野間 純平
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-17, 2018-01-01 (Released:2018-07-01)
参考文献数
16

大阪府を中心とする近畿方言には,「親愛の情を表す」とされるヤルという素材待遇形式がある。本稿では,待遇表現が話し手による関係把握の表現であるという立場に立ち,大阪府八尾市方言話者のデータをもとに,ヤルの〈機能〉を明らかにした。すなわち,ヤルは,話題の人物が話し手と〈ウチ〉の関係にあり,聞き手もまたその〈ウチ〉の関係にあるという話し手の認識を表す。このような,素材に言及することで聞き手との〈ウチ〉の関係を示すヤルの〈機能〉は,ハルをはじめ,対象を遠隔化する〈機能〉のみを持つ日本語の敬語の中において注目に値する。
著者
酒井 雅史 サカイ マサシ
出版者
大阪大学大学院文学研究科社会言語学研究室
雑誌
阪大社会言語学研究ノート
巻号頁・発行日
vol.10, pp.18-29, 2012-03

本稿では,筆者の内省をもとに兵庫県神戸市における動詞の活用形を用いた命令表現について記述を行なう。具体的には,以下の点を指摘する。(a)兵庫県神戸市方言においては,動詞の活用形を用いた命令表現としてテ形・命令形・連用形・意志形を用いる。(b)神戸市方言の命令表現においては,テ形は《依頼》しか表せず他の機能を持つことはない。命令形は《命令》の場合には使用できるが,聞き手に利益がある《聞き手利益命令》の場合には話し手と聞き手の間に特定の関係性がないと使用できない。意志形は《聞き手利益命令》でのみ使用可能となる。連用形は《命令》《聞き手利益命令》に加えて《勧め》の場合にも使用でき,命令表現においてもっとも広く使用できる形式である。(c)意志形を《聞き手利益命令》で使用できるのは,要求する行為が聞き手にとって利益のあることであり,緊急性を要し,話し手の眼前に聞き手がいる場合に限られるが,連用形の使用にはこれらの制限がない。(d)連用形も意志形と同様に《聞き手利益命令》として使用できるが,意志形が少し親しいソトの人物に対して使用すると不自然なのに対して,連用形は不自然な表現とはならない。また,《聞き手利益命令》において命令形を用いることができる場合は,親から子や先輩から後輩など話し手と聞き手の間に何らかの上下関係がある場合に限られる。
著者
酒井 雅史
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、西日本諸方言の敬語運用の地理的バリエーションを明らかにしようとするものである。これまでの方言敬語に関する研究では、敬語形式の地理的分布と特徴的な運用が個別に指摘されてきているという問題があった。本研究では、この問題に対して、各地に赴いて収集した会話データを分析することで、敬語形式の体系とその運用の双方に関する記述を行い、敬語運用ということばの運用に関する分布を明らかにする。さらに、どのように方言が形成されるのかという課題に取り組む方言形成論の分野では昨今議論が活発になってきているが、敬語運用の地理的分布を明らかにすることによって当該分野に新たなモデルを提示する。