著者
山下 亜紀郎 羽田 司 吉田 圭一郎 宮岡 邦任 オーリンダ マルセーロ・エドゥアルド・アウベス シノハラ アルマンド・ヒデキ ヌネス フレデリコ・ディアス 大野 文子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<B>1.はじめに</B><BR><br> ブラジル北東部(ノルデステ)の内陸には、セルトンとよばれる熱帯乾燥・半乾燥地帯がひろがり、厳しい自然条件などから、かつてはブラジルでもっとも開発の遅れた地域であった。この地域を流れる大河であるサンフランシスコ川の流域では、20世紀後半以降とくに1970年代以降、国家的な大規模灌漑プロジェクトが実施され、農業開発が進められてきた。この当時の詳細についてはすでに先行研究にまとめられているが(斎藤ほか1999;丸山2000など)、本研究の目的は、その後のセルトン、とくに2000年以降のサンフランシスコ川中流域における灌漑果樹農業の現状と変遷を詳らかにし、今後の展開について考察することである。<BR><br><B>2.ペトロリーナの気候</B><BR><br> 研究対象としたペルナンブコ州ペトロリーナは、サンフランシスコ川中流の沿岸に位置する。気候区分としてはステップ気候に属する。月別平年値(1985~2014年)によると、5~10月は降水がほとんどないが、11~4月にはある程度の降水がある。気温にも若干の年変動がみられ、7月がもっとも低く(24.2℃)、11月がもっとも高い(27.5℃)。ここ40年ほどの年降水量の変遷をみると、比較的多雨の年と少雨の年が周期的に交互に現れる傾向にあり、最多雨年は1985年(1023.5mm)、最少雨年は1993年(187.8mm)である。しかしながら2011年以降、年降水量500mm未満の少雨年が続いており、このことがペトロリーナにおける農業経営や住民の日常生活に大きな影響を与えつつある。<BR><br><B>3.果樹農業の発展</B><BR><br> 1980年代までのペトロリーナではマメやトウモロコシ、トウゴマ、スイカ、トマト、メロンといった単年性の作物が多く生産されていた。しかし、土地集約的な農業を続けたことで、連作障害が問題となった。1990年代になると、灌漑技術の発達もあって、果樹とくにマンゴーとブドウの生産が増加した。2000年以降も果樹生産は増加を続け、2014年におけるペトロリーナの農産物収穫面積は、マンゴーがもっとも多く(7,880ha)、続いてブドウが多い(4,642ha)。ほかにもグァバやバナナ、ココヤシ、アセロラといった果樹の生産も顕著であり、ペトロリーナは果樹複合産地となっている。<BR><br><B>4.さまざまな灌漑方式</B><BR><br> ペトロリーナでもっとも初期の灌漑方式は、BaciaやSulcoとよばれる農地へ直接水を流すものであった。1980年代前半までは大型スプリンクラー(Canh&atilde;o、Aspers&atilde;o)が主流であり、センターピボット(Piv&ocirc;)もみられた。これらはいずれも水浪費型の灌漑方式である。1980年代後半以降、小型スプリンクラー(Microaspers&atilde;o)や点滴(Gotejo)といった節水灌漑が普及し、現在ではこれらが約8割のシェアを占める。最近ではDifusorとよばれる小型霧吹きのような新しい節水器具も導入されている。<BR><br><B>5.おわりに</B><BR><br> 2011年から続く少雨によって、サンフランシスコ川の水資源量も現在劇的に減少している。ペトロリーナでは節水灌漑が普及しているとはいえ、現状の果樹農業が将来的に維持できるかどうかについては、今後も注視していく必要がある。<BR>