著者
山下 亜紀郎
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
地理学評論. Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.621-642, 2001-11-01
参考文献数
15
被引用文献数
2

本研究では,金沢市における都市住民による用水路利用,ならびに用水路の維持に対する意識と実践にっいて,住民や地域組織などへのアンケート調査および聞取り調査に基づいて解明した.1970年頃まで,用水路は都市住民の生活にとって多様な機能を有していたが,現在では,景観要素としての「見て楽しむ」機能と火災や積雪に対する「防災」機能に特化している.用水路利用者の住民属性に関しては両校下で相違がみられ,長町校下では,用水路は幅広い住民層によって利用されているが,小立野校下では高年齢層や居住年数の長い人に限られる.居住地に関しては両校下とも,利用者が用水路からの距離に比例して減少している.用水路の維持に関しては,地域組織による活動が重要な役割を果たしている・現在の都市生活者にとって,個人単位で用水路を生活に利用し,維持するには限界があり,地域組織で用水路の新しい活用法を見出し,維持・管理していくことが重要である.
著者
坂本 優紀 渡辺 隼矢 山下 亜紀郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
巻号頁・発行日
pp.000341, 2018 (Released:2018-06-27)

1.研究背景と目的 長野県は,2013年の打揚煙火製造額が全国2位,製造業者数では1位と,煙火生産の盛んな地域である.その中でも特に,長野市を中心とする北信地方と飯田市を中心とする南信地方に,その利用の偏りがみられる.今回対象とする南信地方は,1712年に奉納煙火があったことが記録されており,長野県内において最も古くから煙火を扱ってきた地域といえる.当地域の煙火の特徴としてあげられるのが,三国(さんごく)と呼ばれる筒系吹き出し煙火である.三国は,赤松の大木を刳り抜いたものや,竹筒,あるいは紙管の中に数種類の火薬を詰めた煙火で,長さは大きいものでおよそ200cm,重さは約250kg(火薬の総量は24kg)になる.現在でも,北は宮田村から南は阿南町まで幅広い範囲において神社の祭りで奉納されている. 古くから奉納煙火として使用されてきた三国であるが,近年では,三国を地域のイベントに取り入れる事例もある. そこで本発表では,長野県南信地方北部の上伊那地域における三国の分布とその利用形態に着目し,三国の拡がりと利用形態の変遷を明らかにすることを目的とする. 2.対象地域対象地域である長野県上伊那地域は,長野県南信地方の北部に位置し,伊那市を中心に,駒ヶ根市と上伊那郡の6町村によって構成される.当該地域は,古くは南流する天竜川と,木曽駒ケ岳から東流する太田切川によって地域内の交流が分断され,方言や文化などに差異がみられることで知られており,三国においても同様の傾向がみてとれる. 3.結果と考察2016年に打揚げられた上伊那地域の三国は,14件である.煙火は,江戸時代に愛知県三河地方から伝わったとされており,その分布をみると南側に偏っていることがわかる.利用形態では,多くの打揚げが祭り時の奉納煙火であるものの,箕輪町での打揚げのみが,イベント時のパフォーマンス目的となっている.また,宮田村の三国に関しては,1962年から商工会主体で奉納を始めた記録が残っており,他の地域の奉納煙火とは異なる経緯が明らかとなった.以上の結果をまとめると,江戸時代に愛知県より伝わった煙火は,長野県南信地方で三国へと変化し,駒ヶ根市の太田切川を北限として,神社の奉納煙火として氏子たちにより継承されてきた.戦後になると,駒ヶ根市の北側の宮田村の祭礼に三国が取り入れられることとなった.しかし,それは氏子ではなく,商工会が主体となって行われた.さらに,2000年代に入るとより北側の箕輪町でもパフォーマンスの一環として三国が打揚げられることとなった.上伊那地域においては,三国を氏子主体で奉納煙火として利用する地域から,北側にその打揚げ範囲が拡大していくとともに,その利用形態に関しても,より世俗的なものに変化していることが明らかとなった.本研究の遂行にあたり,2017年度筑波大学山岳科学センター機能強化推進費(調査研究費),課題「山岳地域に関するツーリズム研究の課題構築」(代表者:呉羽正昭)の一部を使用した.
著者
丸山 浩明 宮岡 邦任 仁平 尊明 吉田 圭一郎 山下 亜紀郎 ドナシメント アンソニー
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

アマゾンに建設された代表的な日本人移住地であるマウエスの日系人農場をおもな事例として、氾濫原(ヴァルゼア)と台地(テラフィルメ)という異質な生態空間を巧みに利用した、低投入持続型農業(LISA)を基幹とする住民の複合的な生活様式を明らかにした。事例農場は、ヴァルゼアとテラフィルメの両方に牧場を所有し、船で牛を移牧して周年経営を実現している。一定期間浸水する前者は乾季、浸水しない後者は雨季の放牧地である。テラフィルメ林は、焼畑農業や狩猟採集の場でもある。また、船を使った行商は現金収入を得る重要な農外就業であった。河川環境を利用した複合経営は、アマゾンでの生活の持続性や安定性の基盤となってきた。
著者
山下 亜紀郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.621-642, 2001-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本研究では,金沢市における都市住民による用水路利用,ならびに用水路の維持に対する意識と実践にっいて,住民や地域組織などへのアンケート調査および聞取り調査に基づいて解明した.1970年頃まで,用水路は都市住民の生活にとって多様な機能を有していたが,現在では,景観要素としての「見て楽しむ」機能と火災や積雪に対する「防災」機能に特化している.用水路利用者の住民属性に関しては両校下で相違がみられ,長町校下では,用水路は幅広い住民層によって利用されているが,小立野校下では高年齢層や居住年数の長い人に限られる.居住地に関しては両校下とも,利用者が用水路からの距離に比例して減少している.用水路の維持に関しては,地域組織による活動が重要な役割を果たしている・現在の都市生活者にとって,個人単位で用水路を生活に利用し,維持するには限界があり,地域組織で用水路の新しい活用法を見出し,維持・管理していくことが重要である.
著者
山下 亜紀郎 山元 貴継 兼子 純 駒木 伸比古 李 虎相 橋本 暁子
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.140-151, 2020-03-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿では,「チェミン済民チョン川生態河川造成事業」が実施された韓国中部の地方都市,コンジュ公州市の旧市街地の南縁にあたる,近年まで衰退傾向にあった地区を対象に,店舗の業種構成や景観変化の特徴を把握し,そこに,同地区における地域活性化策や住民の取り組みがいかに関わっているのかを明らかにすることを目的とする.調査対象範囲は,公州市の旧市街地南部の地区である.近年の店舗・事業所等の分布と業種構成およびその変化については, 2017 年3 月と2019 年2 月に実施した建物悉皆調査に基づいて把握した.また,公州市における近年の景観をめぐる動向については,公州市庁の景観に関わる施策を担当する部署への聞き取り調査と資料収集,および,歴史的な建築物や街路を活用した取り組みを行っている地域住民や店舗への聞き取り調査を実施した.店舗・事業所等の全体的な業種構成や分布特性には,2017 年から2019 年の間で大きな変化はみられなかったものの,全店舗・事業所等のうち約4 分の1 にあたる78 件で,店舗の入れ替えや土地利用としての変化が生じていた.この2 年間で空店舗化したところも少なくなかったものの,空店舗に新たに入居した店舗等もみられた.それらは調査対象範囲北側のかつての繁華街であった旧市場町でより顕著であった.一方で,商業地域としては衰退傾向にある調査対象範囲南側や,済民川左岸側においても,店舗の入れ替えや新規出店が少ないながらもみられた.調査対象範囲を中心とした景観をめぐるさまざまな取り組みをまとめると,公州市の旧市街地南部では近年,河川や建築物や「コルモッキル」といった景観構成要素が,一部では保存されつつ,一部では改変されたり新しく創造されたりすることで,古きものと新しきものとが混在した都市景観が形成されつつある.このように新旧混在した景観こそが,韓国の地方都市で衰退傾向にある地区における,地域活性化の活力を体現する個性といえるのかもしれない.古きものを守り活かす活動と,新しきものを創造する事業とが並行しながら,現在の,そして将来の公州市旧市街地南部における独自の景観が造られていくのであろう.
著者
山下 亜紀郎 羽田 司 宮岡 邦任 吉田 圭一郎 オーリンダ マルセーロ エデュアルド アウベス シノハラ アルマンド ヒデキ ヌネス フレデリコ ディアス 大野 文子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>1.はじめに</b><b></b><br> 本研究が対象とするブラジル・ペルナンブコ州ペトロリーナは,ブラジル北東部(ノルデステ)の内陸にひろがるセルトンと呼ばれる熱帯乾燥・半乾燥地域に位置している.1960年代以降,当地域を流れる大河であるサンフランシスコ川を水源とする大規模灌漑プロジェクトが各地で実施された.その中流域にあたるペトロリーナおよび周辺地域でも,1978年にソブラディーニョダムが建設され,広大な灌漑耕地が新たに開発された.そして1990年代以降には,マンゴーやブドウなどの果樹生産が飛躍的に普及し,その結果,現在のペトロリーナおよび周辺地域は,ブラジルでも有数の灌漑果樹生産地域となっている.<br> 本発表では,そのような大規模灌漑プロジェクトが実施されたサンフランシスコ川中流域のペトロリーナを対象に,近年の干ばつが毎年続いている状況下における,水供給側の取水・給水の実態と水需要側(農家)の灌漑の実態に関する現地調査の結果を報告し,灌漑果樹農業の持続性について考察する.<br><b><br> 2.ペトロリーナ周辺地域の水利事情</b><b></b><br> セルトンは干ばつの常襲地域であり,ペトロリーナの降水量データをみても数年に一度の周期で少雨の年があるが,2011年以降は毎年,年降水量400mm以下の少雨年が続いている(山下・羽田2016).それはソブラディーニョダムの集水域としての上流部も同様で,そのため同ダムの貯水率も非常に低下しており,2015年8月には12%,そして同年12月には6%まで下がった.その後再び回復したとはいえ,10~20%程度で推移している.<br> サンフランシスコ川中流域で実施された灌漑プロジェクトのうち最大のものは,プロジェクト・セナドール・ニーロコエーリョ/マリア・テレザであり,ペトロリーナ市街の北側に広がる灌漑耕地面積は20,000haを超える.その耕地にソブラディーニョダムを水源とする用水を供給しているのが,DINCと呼ばれる組織である.DINCによる取水量の変遷をみると,干ばつが続く2011年以降においてむしろ取水量が増えており,月別データをみても雨季より乾季において取水量がより多い.一方で水需要側(農家)がDINCに支払う水使用料は値上げ傾向にある.<br><br><b>3.果樹農家の灌漑方式の変遷と現状</b><b></b><br> 当地域に多くの農家が入植した1980年代には,灌漑プロジェクトのインフラとして整備されたaspers&atilde;oと呼ばれるスプリンクラーによる灌漑方式が主流であった.1990年代になると,micro aspers&atilde;oやgotejo(点滴)などといった節水灌漑が急速に普及した.しかしながらその理由は,水を節約するためというよりも,労働力や水使用料も含めてより少ないコストでより多くの収量・収益を得るためという経済的側面が強い.したがって干ばつが続く近年にあっても,作物の収量や品質を維持することが最優先され,水使用料が値上げしているとはいえ,農家による用水量の削減というのはほとんど行われていない.<br><br><b>4.おわりに</b><b></b><br> 本発表の内容をまとめると以下の通りである.<br> 降水量やダム貯水率の現状からは,当地域では干ばつが続いているといえる.しかしながらDINCも農家も,水を節約することよりも作物に必要な水を与え続けることを優先している.とはいえ当地域では従前から節水灌漑が広く普及していたため,今のところこのことが問題化するには至っていない.むしろすでに節水灌漑が広く導入されているからこそ,干ばつであっても容易にこれ以上用水量を減らすことができないといえる.<br><br>
著者
山下 亜紀郎 羽田 司 吉田 圭一郎 宮岡 邦任 オーリンダ マルセーロ・エドゥアルド・アウベス シノハラ アルマンド・ヒデキ ヌネス フレデリコ・ディアス 大野 文子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<B>1.はじめに</B><BR><br> ブラジル北東部(ノルデステ)の内陸には、セルトンとよばれる熱帯乾燥・半乾燥地帯がひろがり、厳しい自然条件などから、かつてはブラジルでもっとも開発の遅れた地域であった。この地域を流れる大河であるサンフランシスコ川の流域では、20世紀後半以降とくに1970年代以降、国家的な大規模灌漑プロジェクトが実施され、農業開発が進められてきた。この当時の詳細についてはすでに先行研究にまとめられているが(斎藤ほか1999;丸山2000など)、本研究の目的は、その後のセルトン、とくに2000年以降のサンフランシスコ川中流域における灌漑果樹農業の現状と変遷を詳らかにし、今後の展開について考察することである。<BR><br><B>2.ペトロリーナの気候</B><BR><br> 研究対象としたペルナンブコ州ペトロリーナは、サンフランシスコ川中流の沿岸に位置する。気候区分としてはステップ気候に属する。月別平年値(1985~2014年)によると、5~10月は降水がほとんどないが、11~4月にはある程度の降水がある。気温にも若干の年変動がみられ、7月がもっとも低く(24.2℃)、11月がもっとも高い(27.5℃)。ここ40年ほどの年降水量の変遷をみると、比較的多雨の年と少雨の年が周期的に交互に現れる傾向にあり、最多雨年は1985年(1023.5mm)、最少雨年は1993年(187.8mm)である。しかしながら2011年以降、年降水量500mm未満の少雨年が続いており、このことがペトロリーナにおける農業経営や住民の日常生活に大きな影響を与えつつある。<BR><br><B>3.果樹農業の発展</B><BR><br> 1980年代までのペトロリーナではマメやトウモロコシ、トウゴマ、スイカ、トマト、メロンといった単年性の作物が多く生産されていた。しかし、土地集約的な農業を続けたことで、連作障害が問題となった。1990年代になると、灌漑技術の発達もあって、果樹とくにマンゴーとブドウの生産が増加した。2000年以降も果樹生産は増加を続け、2014年におけるペトロリーナの農産物収穫面積は、マンゴーがもっとも多く(7,880ha)、続いてブドウが多い(4,642ha)。ほかにもグァバやバナナ、ココヤシ、アセロラといった果樹の生産も顕著であり、ペトロリーナは果樹複合産地となっている。<BR><br><B>4.さまざまな灌漑方式</B><BR><br> ペトロリーナでもっとも初期の灌漑方式は、BaciaやSulcoとよばれる農地へ直接水を流すものであった。1980年代前半までは大型スプリンクラー(Canh&atilde;o、Aspers&atilde;o)が主流であり、センターピボット(Piv&ocirc;)もみられた。これらはいずれも水浪費型の灌漑方式である。1980年代後半以降、小型スプリンクラー(Microaspers&atilde;o)や点滴(Gotejo)といった節水灌漑が普及し、現在ではこれらが約8割のシェアを占める。最近ではDifusorとよばれる小型霧吹きのような新しい節水器具も導入されている。<BR><br><B>5.おわりに</B><BR><br> 2011年から続く少雨によって、サンフランシスコ川の水資源量も現在劇的に減少している。ペトロリーナでは節水灌漑が普及しているとはいえ、現状の果樹農業が将来的に維持できるかどうかについては、今後も注視していく必要がある。<BR>
著者
坂本 優紀 渡辺 隼矢 山下 亜紀郎
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-57, 2020 (Released:2021-02-28)
参考文献数
20

本稿では,長野県上伊那地域でみられる筒系噴出煙火の三国を地域文化として捉え,三国の伝播と利用形態の変容を明らかにした。伊那谷における三国は江戸時代に三河地方から伝わったとされ,各地域の神社の祭りで奉納されるようになった。現代でも駒ヶ根市以南では,主に神社の秋祭りで奉納され神事としての役割を担っている。第二次世界大戦後になると三国の利用地域が拡大し,それまで三国の北限であった駒ヶ根市より北にある宮田村と箕輪町で三国が放揚され始めた。宮田村では1962年に在来の祭礼に組み込まれる形で三国が奉納されるようになった。当初は祭礼を盛り上げることが目的であったものの,現在では神事としての意義づけがされている。一方,箕輪町では2000年代に地域イベントで放揚され始め,現在も神事としての役割はない。このように三国の拡大過程においてその意義づけは対象地域ごとに異なり,各地域それぞれの選択と解釈がなされていることが明らかとなった。
著者
坂本 優紀 渡辺 隼矢 山下 亜紀郎
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-57, 2020

本稿では,長野県上伊那地域でみられる筒系噴出煙火の三国を地域文化として捉え,三国の伝播と利用形態の変容を明らかにした。伊那谷における三国は江戸時代に三河地方から伝わったとされ,各地域の神社の祭りで奉納されるようになった。現代でも駒ヶ根市以南では,主に神社の秋祭りで奉納され神事としての役割を担っている。第二次世界大戦後になると三国の利用地域が拡大し,それまで三国の北限であった駒ヶ根市より北にある宮田村と箕輪町で三国が放揚され始めた。宮田村では1962年に在来の祭礼に組み込まれる形で三国が奉納されるようになった。当初は祭礼を盛り上げることが目的であったものの,現在では神事としての意義づけがされている。一方,箕輪町では2000年代に地域イベントで放揚され始め,現在も神事としての役割はない。このように三国の拡大過程においてその意義づけは対象地域ごとに異なり,各地域それぞれの選択と解釈がなされていることが明らかとなった。
著者
鈴木 修斗 黄 璐 張 紅 佐藤 大輔 山下 亜紀郎 呉羽 正昭 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.113-128, 2020 (Released:2021-02-28)
参考文献数
6

本稿は,コロナ禍の中において実施された筑波大学大学院におけるフィールドワーク実習(上田巡検)の事例報告である。新型コロナウイルス(COVID-19)の流行下においては,聞き取り調査などの対面接触を伴う実習形式の講義(巡検)の遂行が困難である。そこで筆者らは,感染対策を伴う新たな巡検スタイルの構築を模索・実践した。コロナ禍の中で巡検を実施するにあたり,事前ミーティングや事務連絡はオンライン上で完結させることが可能である。調査時には徹底した感染対策を行うとともに,食事の分散化やゼミのオンライン化によって宿泊場所での感染拡大を防ぐことができる。また,現地調査を円滑に進めるためには,今まで以上に綿密な事前準備が重要である。以上のような対応をとることで,コロナ禍の中においても高い教育効果をもった巡検を遂行することが可能であった。こうした実践の成果は,ウィズコロナの時代におけるフィールドワーク実習の実施に際して,有益な示唆を与える。
著者
兼子 純 山元 貴継 橋本 暁子 李 虎相 山下 亜紀郎 駒木 伸比古 全 志英
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

日韓両国とも,地方都市における中心商業地の衰退が社会問題化している。しかしながら,韓国の地方都市の中心商業地は,人口減少や住民高齢化のわりに空き店舗が目立たず,日本でいう「シャッター商店街」がみられにくい(山元,2018)。そこで本発表では,2016年と2018年に発表者らが行った土地利用実態調査の結果をデータベース化し,韓国地方都市の中心商業地における店舗構成の変化を明らかにすることを目的とする。<br><br>調査対象地域として,韓国南部の慶尚南道梁山(ヤンサン)市の中心商業地(新旧市街地)を選定した(図1)。梁山市は同道の東南部に位置し,釜山広域市の北側,蔚山広域市の南西側に接している。高速道路で周辺都市と連結されており,さらに,釜山都市鉄道2号線によって,釜山市の中心部とも直接結ばれている新興都市である(2017年人口:324,204)。旧市街地は梁山川の左岸に位置し,南部市場が立地している。新市街地は旧市街地の南西約1km,2008年に開通した地下鉄梁山駅前に位置している。近年では,両市街地と梁山川を挟んで対岸に位置する甑山(チュンサン)駅前で,新たな商業開発が進行している。<br><br> 韓国では短期間で店舗が入れ替わることもあって,日本の住宅地図に相当するような,大縮尺かつ店舗名などが記載された地図が作成されることはまずない(橋本ほか,2018)。そのため発表者らは,韓国における中心商業地の構造変化を明らかにするための基礎資料の作成を念頭に置き,2016年3月に梁山市の新市街地と旧市街地において土地利用調査を実施し,そのGISデータベースを構築した。この時の結果をもとに,2018年3月に同じ範囲かつ同様の調査手法で再度土地利用調査を実施し,2年間で店舗が変化している箇所の業種を抽出した。今回の発表では,1階で店舗が変化している部分を分析対象とする。<br><br> 2016年の調査では,新旧市街地での商業機能の分担,つまり旧市街地では伝統的な商品や生鮮食料品店の集積,新市街地では若年層向けの物販サービス機能が卓越し,チェーン店(それらが展開する業種)の立地が確認された。そうした両市街地における2016年から2018年の2年間で店舗構成が変化した箇所を確認すると,旧市街地では530区画中129区画(24.3%),新市街地では485区画中132区画(27.2%)で店舗が入れ替わっていた。<br> 旧市街地において,在来市場を中心とする中心部よりも周辺部で空き店舗が目立つようになり,市街地の範囲が縮小している。新市街地では,店舗の入れ替わりが激しいことに加えて,店舗区画の分割や統合なども顕著である。現地での聞き取り調査によると,賃貸契約は2年が一般的であるが,契約更新時の賃料上昇や韓国特有の権利金の存在もあって,現在では新市街地から,新規に建設が進む甑山駅周辺に移転する店舗が増加しつつあるという。当日の発表では,変化箇所の業種や地域,区割りの特徴などから,梁山市全体の商業地の構造変化について報告する。
著者
兼子 純 山元 貴継 山下 亜紀郎 駒木 伸比古 橋本 暁子 李 虎相 全 志英
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<u>1.研究課題と目的</u><br> 日本においても韓国においても,国土構造として首都への一極集中が指摘され,首都圏と地方都市との格差が拡大している。共に少子高齢化が進行する両国において,地方都市の疲弊は著しく,都市の成立条件や外部環境,地域特性に合わせた持続的な活性化策の構築が必要とされている。その中で日本における地方都市研究では,モータリゼーション,居住機能・商業機能の郊外移転などによる,都市中心部の空洞化問題が注目されやすい。空洞化が進んだ都市中心部では,低・未利用地の増加,人口の高齢化,大型店の撤退問題,生鮮食料品店の不足によるフードデザート問題などが生じ,大きな社会問題となっている。 一方で韓国では,鉄道駅が都市拠点となりにくく,また同一都市内で「旧市街地」と「新市街地」とが空間的にも機能的にも別個に発達しやすいといった日本とは異なる都市構造(山元 2007)が多くみられる中で,バスターミナルに隣接した中心商業地などの更新が比較的進んでいる。そして,地理学の社会的な貢献が相対的に活発であって,国土計画などの政策立案にも積極的に参画する傾向が認められるものの,金(2012)によれば,研究機関が大都市(特に首都ソウル)に偏在し,計量的手法の重視および理論研究への偏重によって,事例研究の蓄積が薄い。 それらを踏まえた本研究の目的は,低成長期における韓国地方都市の都市構造の変容を明らかにすることを目指して,その手がかりとしての土地利用からみた商業地分析の手法を確立することである。なお,今回の報告は調査初年度の単年次のものであり,今後地域を拡大して継続的に研究を進める予定である。<br><u>2.韓国における一極集中と地域差</u> <br> 先述の通り,韓国は首都ソウルとその周辺部への一極集中が顕著である。その集中度は先進諸国の中でも著しく高く,釜山,大邱,光州,大田の各広域市(政令指定都市に相当)との差が大きい一方で,これら広域市と他の地方都市との格差も大きい。 <br><u>3.対象都市</u> <br> 地方都市をどのように定義するのかについては議論の余地があるが,本研究では首都ソウルとその周辺部を除く地域の諸都市を前提とする。今回の調査対象地域としては,韓国南部の慶尚南道梁山市の中心商業地を選定した。梁山市は同道の東南部に位置し,釜山広域市の北側,蔚山広域市の南西側に接している。高速道路で周辺都市と連結されており,さらに,釜山都市鉄道粱山線(2号線)によって,釜山市の中心部とも直接結ばれている。このように梁山市は,釜山大都市圏の一部を構成する都市である一方,工業用地の造成が進み,釜山大学病院をはじめとする医療サービスおよび医療教育の充実した新興都市として独立した勢力があり,人口増加も顕著である(2014年人口:292,376)。 そのうち新市街地は梁山川左岸に位置し,そこに梁山線が2008年に全通し,その終着点でもある梁山駅が開業した。同駅に近接して大型店E-MARTが立地しているほか,計画的に整備された区画に多くの商業施設が集積している。E-MARTに隣接してバスターミナルも立地し,全国各地への路線網を有する。一方,旧市街地は新市街地から見て国道35号線を挟んだ東に位置している。そこには梁山南部市場およびその周辺に生活に密着した小売店舗が集積しており,伝統的な商業景観が形成されている。<br><u>4.調査の方法</u> <br> 今後,韓国の各都市の都市構造の動態的変化を継続的に調査することを目指して,今回はその調査手法の確立を目指す。特に,韓国の商業地における店舗の入れ替わりは日本に比して頻繁で,その新陳代謝が都市を活気づける要因ともなっており,その変化に関心が持たれる。しかし,そうした変化を既存の資料から明らかにすることは難しく,実態調査が求められる。そこで今後,継続的に定点観察することを予定している中で,業種分類の設定の仕方なども重要となる。今回は予備的調査として,事例都市において商業地の調査手法を確立し,その方法を他都市に展開していくことを目指す。
著者
山下 亜紀郎
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.122, no.6, pp.1039-1055, 2013-12-25 (Released:2014-01-16)
参考文献数
27
被引用文献数
1 4

The purpose of this study is to review the history of urban water use in Tokyo focusing on two water sources: surface water and groundwater. First, the following four matters are picked up chronologically: expansion of metropolitan waterworks, enhancement of surface water resources, progress of land subsidence, and groundwater pumping. Second, the change of groundwater use and current conservation policies are clarified for some municipalities. Finally, sustainability of urban water use is discussed. Originally, the water source of metropolitan waterworks was surface water. With increased water demand, the waterworks developed surface water resources in areas remote from Tokyo. Despite increased water demand, groundwater pumping was restricted because of serious land subsidence. Industrial water shifted the water source from groundwater to surface water with the construction of industrial waterworks. On the other hand, groundwater use as residential water has been partially maintained in the Tama Region, western Tokyo. Municipalities in the Tama Region promote policies to maintain groundwater use and recharge. For sustainable urban water use, efforts both to avoid a further increase of water demand and to maintain local groundwater resources are necessary. Moreover, in terms of water security at the time of a disaster or water shortage, a sustainable urban water supply system should include both an extensive water supply system and a local system of water supply.
著者
小荒井 衛 吉田 剛司 長澤 良太 中埜 貴元 乙井 康成 日置 佳之 山下 亜紀郎 佐藤 浩 司馬 愛美子 中山 詩織 西 謙一
出版者
日本地図学会
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.3_16-3_31, 2012 (Released:2015-11-07)
参考文献数
29

This study develops the way to produce landscape ecological map for estimation of biodiversity using the airborne laser survey (LiDAR survey) data. We produce the landscape ecological map consists of three dimensional vegetation structure and micro topography under the forest using LiDAR. Two study areas were selected. One is the Shiretoko Peninsula (Mt. Rausu and Shiretoko Corp), Hokkaido Island as World Natural Heritage Area of Japan. Another is the Chugoku Mountains (north foots of Mt. Dogo) which are many historical iron sand mining sites (Kanna-Nagashi) as Satoyama Region (secondary forest area).Basic legend of landscape-ecological map consists of ecotopes which are the combination of vegetation classification and landform classification. Vegetation classification is three dimensional vegetation structure classification using high density random points data, detailed DSM (Digital Surface Model) and detailed DEM (Digital Elevation Model) by LiDAR data. Landform classification is micro landform classification using detailed DEM by LiDAR data.Using LiDAR data in summer and autumn seasons, 0.5m grid DSM and DEM in summer and 1 or 2m grid DSM and DEM in autumn are obtained. Vegetation classification has been down using three dimensional vegetation structure detected by the difference between LiDAR data in two seasons. The legend of three dimensional vegetation structure maps consists of the combination of vegetation height, thickness of crown and difference in two seasons (deciduous dingle layer tree, deciduous multi layer tree and evergreen tree). Landform classification has been done by automatic landform classification method combined three categories, such as slope degree, texture (roughness) and convexity of autumn DEM. The results of overlay analysis between vegetation classification and landform classification are as follows: On Shiretoko Peninsula, three dimensional vegetation structures are dominated by site elevation compared with micro landform classification. On Chugoku Mountains, some early deciduous high think crown trees (a kind of nut) are located in historical mining sites (Kanna-Nagashi) with following micro landform categories such as gentle slope, concave and rough texture.Grid size of landscape ecological maps is 4m, because the grid size is corresponding on tree crown size. At first, we produced 1m grid vegetation maps and automated landform classification maps, and then we resampled 4m grid data from 1m grid data. These maps would be introduced as example of LiDAR application for ecological field.