著者
チェスパ マリアンナ
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
no.13, pp.205-223, 2013

本稿は,イタリア語における過去時制に属する近過去形と遠過去形の相関 関係を明らかにすることを目的としている。伝統的な説明によると,過去時 制である近過去形と遠過去形のあいだには相違点がなく,その使い分けが話 者による選択であるとされている。つまり,話者の視点によって遠過去形が 近過去形の代わりに,あるいは近過去形が遠過去形の代わりに用いることが できるとされている。これは話者にとってその事象が過去の一時点であるな ら話者は遠過去形で描写するのに対し,その事象の効果が現在まで持続する なら近過去形で描写するという区別である。しかし,様々な原因が影響を与 えているため,その「置き換え」が不可能である場合も多く,また両方の時 制が可能であるが解釈が同じではないという場合もある。これはおそらくそ れらの2つの時制の本質の制限に関するものである。本稿はいつその「置き 換え」が可能であるか,いつ不可能であるかまたなぜ制限があるかというこ とに関して述べるものである。分析の結果,遠過去形における用法は幅が狭 いのに対し,近過去形における用法は非常に幅が広いということが明らかに なった。よって,近過去形と遠過去形の区別が重要な点であり,これに基づ いて時制の一致のルールを見直すこともできる。