著者
田村 岳 ニャムサンジャ フラン 渡邊 眞紀子 ボロルマ オユンツェツェク
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>隣接した異なる2つ、あるいはそれ以上の生態系間の移行帯であるエコトーンは、植生等地上景観の変化に富んだ空間として注目されている。しかし、その形成には気候、母材、人間活動等の影響を強く受けることから、植生ー土壌システムとして土壌性状を調べることで、エコトーン形成要因の時間・空間的な理解を深めることが可能であると考えられる。そこで本研究では、気候や母材に差のない環境において、植生がもたらす水熱環境の変化が性状に現れやすい土壌遊離鉄に着目し、エコトーンの特徴づけを試みた。</p><p> 調査対象地はモンゴル国ウランバートル中心市街地から北西に約15kmに位置するBaruun Salaaである。Baruun Salaaはヨーロッパアカマツを主構成とする林分とステップ草地、さらにその間にエコトーンのシラカンバ林が見られる森林ステップである。本研究では、それら3地点(Pine、Birch、Grassland)における各5つの土壌試料を105℃、550℃、850℃で段階的に加熱し、ヘマタイト化(赤色化)させることで、遊離酸化鉄の特性の差異を調べた。処理した試料は土色(CIE表色系L*,a*,b*)測定を行い、その後a*/b*値の平均値の差を統計的に評価するために対応のあるt検定(両側検定、<i>p&lt;0.05</i>)を行った。さらに、試料中の全鉄と全ケイ素含量の測定をエネルギー分散蛍光X線元素分析装置(EDX)により、ヘマタイト等鉱物の同定をX線回析装置(XRD)によりそれぞれ行った。</p><p> 土色分析の結果から、105℃、550℃、850℃の温度上昇とともにa*/b*値の平均値は、地点ごとに分離されることが判明し、とくに850℃ではPineとGrassland間、PineとBirch間で有意差が見られた。このことからBirchの遊離酸化鉄の性質はGrasslandに類似すると考えられた。一方、EDX、XRDの結果から、全鉄含量に対するヘマタイト含量の値、全ケイ素含量に対するイライトの含量の値は、ともにBirch>Pine>Grasslandの順に大きくなり、Birchでは、土壌の粘土化が進んでいるということが判明した。遊離酸化鉄の活性度や鉄を含む層状珪酸塩の脱水酸化物反応は、火災の影響を強く受けるほど大きくなる(関 2012, Ulery et al. 1996)ことから、Birchでは火災の影響をより強く受けた可能性が示唆された。このことは、燃えた切り株や焚火の跡がBirch調査区で認められた観察結果(田村 2020)と整合した。</p>