著者
谷野 喜久子 細野 衛 渡邊 眞紀子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.229-247, 2013-05-01 (Released:2017-12-05)
参考文献数
38
被引用文献数
2 2

日本の海岸砂丘構成層の起源として海浜砂,テフラ,大陸風成塵などが知られるが,個々の構成層の形成物質を検証した例は少ない.本研究は構成層の理化学特性に基づき,尻屋崎砂丘の起源と形成史を考察する.砂丘は田名部段丘面(MIS5e相当)上の尻屋崎ローム層を覆い,埋没土層を境に構成層I~Vからなる.最下位層Iを除く上位層II~Vはbi-modal(シルト・砂各画分)の粒度組成を示し活性アルミニウムに富む.この特徴と明度・色特性(H2O2処理)が尻屋崎ローム層に類似することから,砂丘はローム層と段丘構成層の剥離物が再堆積した物と考えられる.砂丘砂の理化学特性(TC≧1%,MI≦1.7)は,それが二次的な風化テフラ付加による黒ぼく土様の化学的特性と腐植性状をもつテフリック レス デューンであることを示唆する.これは地形史的に冬季北西風と直交する西海岸の段丘崖に風食凹地(ブロウアウト)が発達し,その後にヘアピン・縦砂丘が分布することと矛盾しない.
著者
茗荷 傑 橋本 恵祐 亀井 宏行 渡邊 眞紀子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.257-270, 2017-05-01 (Released:2022-03-02)
参考文献数
22

諏訪之瀬島における今日の農業土地利用を支える土壌の特性を明らかにすることを目的として,農耕地,放牧地,林地および1813年噴出のスコリア層下の埋没土層の土壌分析を行った.対象とした土壌は「火山放出物未熟土」と一部「未熟黒ボク土」に分類された.土壌分析の結果,農業にとって不適な土地ではないことが明らかとなったが,現在も噴火活動による降灰が続くため,諏訪之瀬島の土壌が黒ボク土へと成熟していくことは期待しにくい.露頭の埋没A層の特性は,土つくり実験地,ミカン栽培地,および斜面の崖下にある竹林の土壌特性に類似していた.緑肥の投入など人間による積極的な干渉が強い土壌ほど地力が高いことが示された.埋没A層は1813年の無人島化以前の農業生産活動を支えた土壌であり,諏訪之瀬島の資源であるといえる.今日の農業基盤拡大にあたり,過去の土壌資源を活用することが効果的であると考えられる.
著者
坂上 伸生 渡邊 眞紀子 太田 寛行 藤嶽 暢英
出版者
日本ペドロジー学会
雑誌
ペドロジスト (ISSN:00314064)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.24-32, 2004-06-30 (Released:2018-06-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

Sclerotium grain is the resting body of ectomycorrhizal fungi found in forest soils. A melanic-spherical shape in approximately 1-2mm diameter characterizes the external feature of the grain, and a hollow structure with honeycomb transverse wall appears inside the grain. In our previous studies, we reported a high aluminum concentration inside sclerotium grains and suggested the close relationship between the status of active aluminum and the distribution of these grains in Andosols (Watanabe et al., 2001; 2002). Here we examined the chemical properties focused on active aluminum and carbon in several nonallophanic Andosols under forest vegetation for further discussions on the regulating factor of the distribution of the sclerotium grains. In each studied soil profile, the mean weight of sclerotium grain (mg grain^<-1>) had a tendency to increase with the content of exchangeable aluminum, content of total organic carbon and nitrogen, carbon content of humic acid extracted from soils. The ratio of Alp to total organic C(Al_p/T-C) showed a strong negative correlation between the mean weight sclerotium grains regardless of profiles. The bonding ratio of carbon and aluminum in soils was assumed to be one of the factor influencing the development of sclerotium grains.
著者
田村 岳 ニャムサンジャ フラン 渡邊 眞紀子 ボロルマ オユンツェツェク
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>隣接した異なる2つ、あるいはそれ以上の生態系間の移行帯であるエコトーンは、植生等地上景観の変化に富んだ空間として注目されている。しかし、その形成には気候、母材、人間活動等の影響を強く受けることから、植生ー土壌システムとして土壌性状を調べることで、エコトーン形成要因の時間・空間的な理解を深めることが可能であると考えられる。そこで本研究では、気候や母材に差のない環境において、植生がもたらす水熱環境の変化が性状に現れやすい土壌遊離鉄に着目し、エコトーンの特徴づけを試みた。</p><p> 調査対象地はモンゴル国ウランバートル中心市街地から北西に約15kmに位置するBaruun Salaaである。Baruun Salaaはヨーロッパアカマツを主構成とする林分とステップ草地、さらにその間にエコトーンのシラカンバ林が見られる森林ステップである。本研究では、それら3地点(Pine、Birch、Grassland)における各5つの土壌試料を105℃、550℃、850℃で段階的に加熱し、ヘマタイト化(赤色化)させることで、遊離酸化鉄の特性の差異を調べた。処理した試料は土色(CIE表色系L*,a*,b*)測定を行い、その後a*/b*値の平均値の差を統計的に評価するために対応のあるt検定(両側検定、<i>p&lt;0.05</i>)を行った。さらに、試料中の全鉄と全ケイ素含量の測定をエネルギー分散蛍光X線元素分析装置(EDX)により、ヘマタイト等鉱物の同定をX線回析装置(XRD)によりそれぞれ行った。</p><p> 土色分析の結果から、105℃、550℃、850℃の温度上昇とともにa*/b*値の平均値は、地点ごとに分離されることが判明し、とくに850℃ではPineとGrassland間、PineとBirch間で有意差が見られた。このことからBirchの遊離酸化鉄の性質はGrasslandに類似すると考えられた。一方、EDX、XRDの結果から、全鉄含量に対するヘマタイト含量の値、全ケイ素含量に対するイライトの含量の値は、ともにBirch>Pine>Grasslandの順に大きくなり、Birchでは、土壌の粘土化が進んでいるということが判明した。遊離酸化鉄の活性度や鉄を含む層状珪酸塩の脱水酸化物反応は、火災の影響を強く受けるほど大きくなる(関 2012, Ulery et al. 1996)ことから、Birchでは火災の影響をより強く受けた可能性が示唆された。このことは、燃えた切り株や焚火の跡がBirch調査区で認められた観察結果(田村 2020)と整合した。</p>
著者
杉山 真二 渡邊 眞紀子 山元 希里
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.361-373, 2002-10-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
48
被引用文献数
6 6

九州南部に分布する多数のテフラを時間の指標として,最終氷期以降における黒ボク土の分布とその変遷について検討した.その結果,九州南部では約29,000年前から約13,000年前までの最終氷期においても黒ボク土が形成されており,その分布は現在と同様か,より広域であった可能性が認められた.その後,約8,400年前にかけても,広域に黒ボク土が分布していたと考えられるが,約7,300年前には黒ボク土の分布が縮小し,種子島を含む鹿児島県域では黒ボク土がほとんどみられなくなったと推定される.これは,おもに照葉樹林の分布拡大の影響と考えられる.歴史時代には再び黒ボク土の分布が拡大したが,現在では縮小・衰退傾向にあると推定される.これは,農耕地の拡大などによるイネ科草原植生の減少の影響と考えられる.黒ボク土の有機物の給源植物は層準で異なっており,最終氷期はクマザサ属Sasa,完新世以降はススキ属Miscanthusやメダケ属ネザサ節Pleioblastus sect. Nezasaが主体であったと推定される.
著者
渡邊 眞紀子 坂上 寛一 青木 久美子 杉山 真二
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.36-49, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

わが国に広く分布する火山灰土壌の特徴は,その黒くて厚い腐植層にある。これは,アルミニウムに富む非結晶質の粘土鉱物と結合し,微生物の分解に抵抗して2万年以上も安定的に存在する「腐植」に起因する。腐植はまた土壌をとりまく水熱条件に敏感に反応する性質をもっことが知られている。これらの性質を踏まえて完新世火山灰を母材とする埋没土の腐植特性を用いて過去の気候植生環境を推定することが可能であると考える。しかしながら,土壌は様々な環境因子の支配を複合的に受けるたあ,土壌の保有する古環境情報を抽出するためには,調査地域の設定が大きな鍵をにぎる。本研究は,古土壌研究,さらに土壌生成研究に際して意義のある土壌の属性レベルにおける分布特性に関する方法論を提示するものである. 本研究では,日本各地の火山灰土壌に腐植特性の高度分布とその規則性を明らかにした。土壌試料を火山麓緩斜面に沿って採取することによって,高度変化に伴う腐植特性と気候・植生因子との対応関係をみることができると考える。 4っの火山地域(十和田火山,日光男体火山,赤城火山,大山火山)から採取した60の表土試料を用いて,有機炭素含有量と腐植酸Pg吸収強度の腐植特性を分析した。また,気候環境にっいては国土数値情報気候ファイルによって地点ごとに温量指数および乾湿指数を算出し,植生環境にっいては植物珪酸体組成分析を行った。腐植特性の分布には,っぎのような規則性があることが明きらかとなった。 1) 有機炭素含有量によって示される腐植集積量は気候環境と対応する空間分布を示す。腐植集積が最大となる標高は調査地域によって異なるが,腐植集積の最大を与える気候条件として,乾湿指数17~22の共通条件が求められた。 2) 土壌腐植酸に含まれる緑色色素の発現の強さを定量した腐植酸Pg吸収強度も標高の変化に伴う垂直成帯性がみられる。 Pg吸収強度と温量指数との間には強い負の相関が認められた。 3) 植物珪酸体組成分析にもとついて,腐植の生成・集積に寄与したと考えられるイネ科草木植生の植物生産量を推定した。その結果, Pg吸収強度はイネ科タケ亜科クマザサ属と強い正の相関がみられ,一方イネ科非タケ亜科のススキ属とは負の相関が認められた。気候指数と植物珪酸体組成の分析結果を照合すると,森林の林床植生として繁茂するクマザサ属の増加と低温条件の卓越に伴いPg吸収強度は増大する傾向があり, Pg吸収強度は植生環境を指示する属性の一っとして評価することができる。また,各調査地域でPg吸収強度の急激な上昇がみられる地点は, 典型的な黒ボク土であるmelanic Andisolと森林土壌としての性質の強いfulvic Andisolの分布境界を与えると判断できる。 4) Pg吸収強度と比較すると,有機炭素含有量にっいては植物推定生産量との有意な関係は認められなかった。 4っの調査地域を総合的に比較すると,赤城山の事例において腐植特性と気候・植生環境の空間分布の対応が最も明瞭に示された。これにっいては,赤城山で対象とした斜面の水平距離および垂直高度が,気候・植生因子の影響を抽出あるいは強調し,さらに地形,地質母材,人為的影響といった他因子の影響を消去あるいは最小限にするたあに適したスケールとなっていることが指摘できる。 腐植集積の極大域およびPg吸収強度の上昇が始まる地点は,気候・植生環境の変化に伴う移動が予想される地域である。今後の研究課題として、本稿で扱った土壌属性が埋没土においても表土と同様に,土壌の初成作用として働いた気候植生環境の情報を保有していることを確認する必要がある。その上で,埋没土を対象とした空間分布特性の規則性を明らかにし,表土との比較を行うことが次の研究手順となる。
著者
亀井 宏行 渡邊 眞紀子 菱田 哲郎 塚本 敏夫 金谷 一朗 大城 道則
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

制約条件の多い海外での遺跡調査の効率化を図るために,エジプトのアルザヤーン神殿遺跡を対象にして,情報技術の導入を検討した。まずICタグ利用について検討し,遺物や文書管理だけではなく,建物や遺物の修復履歴の管理にも応用できることを示した。3次元スキャナは建物や碑文の記録ばかりでなく,遺構の発掘経過の記録にも用いた。サッカラの階段ピラミッドの3次元記録も実施した。GPS測量や衛星画像の導入を図り,神殿周辺の水環境地図を作成し,ペルシア時代のカナート,ローマ時代の井戸や水路網跡を発見した。地中レーダ探査に基づいた発掘調査では,文字を記した土器片(オストラカ)を発掘した。遺構の保存修復計画を立てるために, 3年間にわたる温湿度計測や風速・風向計測も実施した。