- 著者
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ニラシュ アグネス
- 出版者
- 日本建築学会
- 雑誌
- 日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.595, pp.213-220, 2005
- 参考文献数
- 36
- 被引用文献数
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1
I.序「メタボリズム宣言」(1960年)によれば、メタボリズムとは、「歴史の新陳代謝を積極的に促進させようとすること」を目指したグループの名称である。これまでメタボリズムに関して、「新陳代謝」を巡る理念についての研究が先行してきたが、本稿では、その計画案をCIAMからチームXへの移行時に試みられた建築と都市を取り結ぶ「メガストラクチュア」の事例として再検討するものである。ここではメタボリズムの「メガストラクチュア」の試みとして、菊竹清訓が1950年代末から1960年代末に公表した「垂直型コミュニティ」11計画案を取り上げ、まず「垂直型コミュニティ」に見られる「コア」、「アーバン・スペース」、「リビング・ユニット」に着目し、各計画案のスケールと、(a)「コア」-「アーバン・スペース」、(b)「リビング・ユニット」-「アーバン・スペース」、(c)「リビング・ユニット」-「コア」の相関から「垂直型コミュニティ」を4タイプに分類し、それぞれの形態構造を明らかにする。最後にそれらの相互比較によって菊竹の設計手法とその変化について考察する。II.「垂直型コミュニティ」のタイポロジーと各タイプの形態構造II-1.タイプ1「塔状都市1958」(表1,図1-1)と、「海上都市1958」(表1,図1-2)、「江東地区計画1961」(表1,図1-3)、「海上都市1963」(表1,図1-4)、「海洋都市1968」(表1,図1-5)の「垂直型コミュニティ」は、いずれも2枚の壁から成る巨大な円筒にカプセル群が装着された「垂直型コミュニティ」で、これらをタイプ1としてまとめることができる。ここでは、「コア」が内外二重の円筒状の壁によって構成されており、この二重壁の間に、建築設備、エレベーター・階段室から成る垂直サーキュレーションと、廊下から成る水平サーキュレーションが収められている。また中央の「アーバン・スペース」が、「コア」を構成する内側の円筒状の壁によって完全に囲われており、それにより全体の求心性が強調されている(表1,図1a)。カプセル状の「リビング・ユニット」は、「コア」を構成する外側の円筒状の壁に直接取り付けられている。その結果、「アーバン・スペース」と「リビング・ユニット」とは直結されておらず、「コア」が両者を媒介する要素となっていることがわかる(表1,図1b)。さらに「リビング・ユニット」は、構造上・設備上の基盤である「コア」を構成する外側の円筒状の壁に等しく装着されているだけで、相互の関係は見られない(表1,図1c)。II-2.タイプ2「海上都市うなばら1960」のムーバブロック(表1,図2)と、「浅海型コミュニティ計画1963」の居住ブロック(表1,図3)をタイプ2とする。前者の「コア」が、H-Pシェルのコンクリート船上に直立しているのに対して(表1,図2a)、後者のそれは、上部中央から下部にかけて3本に枝分かれして、三角錐状の「アーバン・スペース」の稜線を枠取っている(表1,図3a)。このタイプは、全体の巨大スケールという点で、タイプ1に類似しているが、「リビング・ユニット」は、各階毎に「コア」から放射状に伸ばされた3本の廊下に沿って並べられ、水平のクラスターを形成しており(表1,図2c,3c)、それゆえ「アーバン・スペース」は「リビング・ユニット」により直接限定されていない(表1,図2b,3b)。II-3.タイプ3「一つのコアをもつ樹状住居1968」(表1,図4)を唯一の事例とするタイプ3は、三段階のスケールに分節されている。まず最大のスケールを持つのが「コア」で、4つのエレベーターと階段室から成る垂直サーキュレーションのまとまりである。この「コア」から、ちょうど樹木の幹から枝が伸びるように、水平スラブが片持ち梁によって張り出されている。これら水平スラブ間では中央の「アーバン・スペース」を「リビング・ユニット」が取り囲んで一つの「コミュニティ・ユニット」が形成されており、これが中間のスケールを表している。各「リビング・ユニット」が最小のスケールを表していることは言うまでもない。「コア」を取り囲む「アーバン・スペース」は、四隅が開放されているが(表1,図4a)、他方でそれは、四辺の段状に積層された「リビング・ユニット」のクラスターによって限定され、かつそれに直接面している。この意味から、ここでの「アーバン・スペース」を、「セミパブリック・スペース」と見なすことができる(表1,図4b)。「リビング・ユニット」は、水平スラブ上に積層され、中央の「コア」とは十字形の廊下によって結ばれている(表1,図4c)。II-4.タイプ4「4つのコアをもつ樹状住居1968」(表1.図5)、「6つのコアをもつ樹状住居1968」(表1.図6)、「塔状住居1969」(表1.図7)をタイプ4とする。これは、三段階のスケールに分節されている点でタイプ3と類似している。しかし、ここでは複数の「コア」が「アーバン・スペース」の周縁に離散配置され(表1,図5a,6a,7a)、逆に「アーバン・スペース」が「コア」と「リビング・ユニット」によって囲い込まれている(表1,図5b,6b,7b)。「リビング・ユニット」は、水平スラブ上に段状に積層されるが、近傍の「コア」によっても直接支えられている(表1,図5c,6c,7c)。III.結-各タイプの比較と考察(a)「コア」-「アーバン・スペース」(c)「リビング・ユニット」-「コア」の関係を縦軸に、(b)「リビング・ユニット」-「アーバン・スペース」と水平スラブによる「リビング・ユニット」の分節を横軸に取ると、上記「垂直型コミュニティ」の4タイプは表2のように位置付けられる。「塔状都市1958」に代表されるタイプ1は、「コア」が「アーバン・スペース」の周縁にあって、直接「リビング・ユニット」を支える「塔状」の原型と見なすことができ、逆に「一つのコアをもつ樹状住居1968」に代表されるタイプ3は、「コア」が「アーバン・スペース」の中央に位置し、直接「リビング・ユニット」を支えず、逆に水平スラブ上に積層された「リビング・ユニット」が「セミパブリック・スペース」を囲い込んでいる「樹状」の原型と見なすことができる。タイプ4には菊竹の言う「塔状」と「樹状」が混在しており、これら二つの「カタ」の区分は両義的である。他方タイプ1とタイプ2が50年代後半、タイプ3とタイプ4が60年代後半に主として設計された点に着目すると、前者から後者へ、計画のスケールが次第に小さくなるとともに、スケールの分節が行われるようになったことがわかる。また50年代末には「塔状都市1958」の「コア」壁面に見られるような「個と集団を結ぶ」ための「人工地盤」が、60年代末には「一つのコアをもつ樹状住居1968」に見られるような水平スラブにり分節され、「リビング・ユニット」により直接限定された「セミパブリック・スペース」が追求された。さらに「塔状都市1958」の「アーバン・スペース」は、「コア」壁面によって完全に閉鎖されていたが、「一つのコアをもつ樹状住居1968」のそれは、4隅が開放されており、最終的に「極超高層住居」(図7)では、全体の外縁部へ押し出されることに至っている。