著者
塚本 早織 バレリー ゴンザレス 唐沢 穣
出版者
Society for Human Environmental Studies
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.25-31, 2010
被引用文献数
1

カナダでは、様々な人種的、文化的背景を持つ人々が共生しているにもかかわらず、「白人」以外の人々は「カナダ人」として知覚されにくい現象がみられ、差別や偏見の対象となる。本研究の目的は、人が持ちえる最も基本的な要素である「人種」「出身地」「居住地」が自身や他者を「カナダ人」であると判断する際に与える影響を検証することであった。108名のカナダ人大学生に、国民アイデンティティに関する質問紙に回答してもらった。まず、他者をカナダ人であると判断する際に「白人」要素の有無が基準になるという仮説を基に、外国生まれの白人と、カナダ生まれの非白人の、「私はカナダ人である」との主張に対する同意の程度を5件法で評定させた。その結果、参加者の「カナダ人」像に一致したのは、カナダ生まれの非白人であった。次に、同じ対象に関する「他の多くのカナダ人」の推測評定を求めたところ、非白人参加者の回答に、「白人」対象をよりカナダ人であると推測する傾向が見られた。また、参加者に自身の国民アイデンティティを規定する際に重要だと考える要素を順序付けさせた。その結果、非白人参加者は白人参加者に比べ、「人種」要素が自身の国民アイデンティティを定義する際に不可欠だと考える傾向が明らかになった。人種や民族性を理由とする差別や偏見の経験が、認知に影響を与えるという先行研究の知見と同様に、本研究においても参加者の人種によって自身や他者の国民アイデンティティ認知が異なることが明らかになった。