著者
ヒル ピーター (訳)橋本 陽子
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.186-209, 2005-02-07

本論は,1989年に「昭和」という時代が終ったあとに生じた,ヤクザ(暴力団)の企業活動の発展を探るものである.平成以降,ヤクザは,彼らの経済環境に大きな影響をあたえた二つの出来事と格闘してきた.その出来事とは,バブル経済の崩壊と1992年の暴対法(「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)の施行である.バブル崩壊以後の経済不況のもとで,ヤクザは金になる事業を奪われたが,その分他の手段で補った.暴対法は,合法とされたヤクザの行為に新しい規制を加えたため,従来の行為による事業は高くつくことになったが,団員たちは新しい収入源の開拓に向うようになった.とりわけ,バブル経済と暴対法のダブルパンチヘの対応として増えたのが,覚せい剤取引や窃盗団であった.本論は,経済的な困難が長引くと,これまで彼らの世界を安定させてきた組織内あるいは組織間のメカニズムが弱体化するであろうという結論を導く.