著者
北村 繁 エルナンデス ウォルテル プリンジャー カルロス マティアス オトニエル
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.100, 2007

<BR> コアテペケカルデラ(Lat. 13.87N, Long. 89.55W; 11.5 x 6.5 km)は中米北部にみられる5つの大規模カルデラ火山のひとつで、エルサルバドル共和国の首都・サンサルバドル市の西南西約40kmに位置している。これまで、3回の大規模噴火により、Bellavista, Arce, Congoとよばれる降下軽石および軽石流を、それぞれ77ka、72ka、および、56.9kaに生じたことが知られてきた(Pullinger, 1998; Rose, et al., 1999)。<BR> これらのうち、Bellavista降下軽石および軽石流は、カルデラ周辺にのみ分布が知られている。一方、Arce降下軽石は、エルサルバドル西部地域で見出される最も顕著な降下軽石層で、黒雲母と角閃石に富むため野外での認定が容易で、カルデラ周辺から西方一帯に広く堆積することが知られてきた。また、その下位には、グァテマラ南部~エルサルバドル西部に分布するHテフラ(84ka)が見出されている。Congo軽石流は、カルデラ周辺に厚く堆積しており、Congo降下軽石もカルデラから西方への分布が知られている。<BR> これに加えて、近年、Congo降下軽石より上位に、Atiqui- zaya降下軽石(kitamura, 2006)、および、Conacaste軽石流堆積物(Hernandez & Pullinger, 未公表資料)が見出された。従来、これらは、それぞれ、Congo降下軽石および軽石流堆積物の一部とみなされてきたが、Congo 降下軽石あるいは軽石流堆積物の上位に、明瞭なロームをはさんで堆積していること、最下部に桃白色の細粒火山灰(Turin火山灰)を伴っていることから、Congo降下軽石および軽石流堆積物と異なる噴火による堆積物であることが野外で認定できる。また、Atiquizaya降下軽石とConacaste軽石流堆積物は、それぞれ独立に見出されたが、上述したような層位的特徴からみて、両者は同じ噴火の産物であると考えられる。Congo降下軽石および軽石流堆積物、ならびに、Atiquizaya降下軽石およびConacaste軽石流堆積物は、いずれも角閃石と斜方輝石に富む。<BR> 一方、コアテペケカルデラの西北西150kmに位置するグァテマラ市周辺では、従来よりA1、および、A2テフラと呼ばれる火山灰が知られてきた(Koch & McLean、1975)。いずれも数cm程度までの厚さの白色細粒火山灰であるが、A1テフラは、黒雲母と角閃石に富み、A2テフラは、角閃石と斜方輝石に富む。A1テフラは、上述のHテフラの上位に、Cテフラをはさんで堆積しており、A2テフラは、A1テフラの上位に堆積している。また、A2テフラは、23kaとされるBテフラの下位に、Eテフラをはさんで堆積している。したがって、A1およびA2テフラは、コアテペケカルデラ起源のテフラと対比を検討すべき層位にある。<BR> 本研究では、コアテペケカルデラから20km程度までの地域、ならびに、グァテマラ市付近の数地点の露頭から試料を採取し、各テフラの火山ガラスの化学組成を比較することにより、対比を検討した。分析には、弘前大学理工学部地球環境学講座の波長分散型X線マイクロアナライザーを用い(加速電圧15kv、ビーム電流3x10<SUP>-9</SUP>A、ビーム径10μm)、ガラス片を10~30個程度分析して、平均と標準偏差をもとめた。<BR> 化学組成分析の結果、Congo降下軽石および軽石流堆積物と、Atiquizaya降下軽石およびConacaste軽石流堆積物については、互いに火山ガラスの化学組成が類似していることが判明した。一方、これらのテフラと、Arce降下軽石、Bellavista降下軽石および軽石流堆積物の火山ガラスの化学組成は、Harker図上で、互いに異なった分布を示すことから、明瞭に判別される。グァテマラ市周辺で知られてきたA1、A2テフラの火山ガラスの化学組成の分析結果をHarker図上で、これらと比較すると、A1テフラはArceテフラと、A2テフラは、Congo降下軽石・軽石流堆積物と、Atiquizaya降下軽石・Conacaste軽石流堆積物と類似した化学組成をもつことが判明した。<BR> 本研究で得られた化学組成、ならびに、従来より知られていた層位、鉱物組成からみて、A1テフラとArceテフラ、A2テフラとCongoテフラまたはAtiquizayaテフラは対比される可能性が極めて高い。すなわち、Arceテフラ、および、CongoまたはAtiquizayaテフラのいずれかは、約150km離れたGuatemala市まで到達していたとみられる。また、グァテマラのCテフラの年代は、約72ka以前で、Eテフラは、およそ57ka以降であるとみることができる。