著者
松本 隆 マツモト タカシ Takashi MATSUMOTO
出版者
清泉女子大学人文科学研究所
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
no.35, pp.286-271, 2014

1874年に翻訳出版された化学入門書『ものわり の はしご』の語彙、特に巻頭の用語解説付録「ことば の さだめ」の見出し項目を分析した。本書は、漢字と漢語を廃し、化学的な現象や物質名を含め、全文を平仮名の和語で訳しており、その語彙分析から主な特徴として次の3点を見出した。(1)和語による造語は、それまでの漢字を用いた造語の流れを汲んでおり、和語でも体系的で簡明な命名が可能である。(2)類義関係にある和語動詞群を使い分けることにより、混同しやすい類似の化学現象を区別して表現できる。(3)漢語よりも和語の方が、現実世界の事象を巧みに言語に写像し命名した例も見られる。つまり本書は、近代の西洋思想を和語で表現し、論旨の通った文章を平仮名で表記できることを、化学の分野で世に示した先駆的実践ということができる。
著者
松本 隆 マツモト タカシ Takashi MATSUMOTO
出版者
清泉女子大学人文科学研究所
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 = Bulletin of Seisen University Research Institute for Cultural Science (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
no.37, pp.110-95, 2016

助詞の「は」と「が」の中には、どちらを選んでも文意に大差がなく、そこから受ける印象だけが異なるものがある。小説をはじめとする文芸作品では、こうした反転可能な「は/が」を、表現技法のひとつとして使い分け、微妙なニュアンス差を伝える事例が観察される。「は/が」の働きの違いを、そこから思い描かれる心象の差異に関連づけて解釈する見方が提案されている。本稿では、「は」を主観的な「寄り」の心象、「が」を客観的な「引き」の心象に対応させて、小説などの情景描写文における「は/が」の働きを検討した。その結果、「は/が」が、作品全体の構成と展開、細部における心象の構図調整、読者の視線誘導や心理操作などの機能を果たしていることを認めた。 Although the Japanese particles WA and GA differ in meaning and usage, occasionally they can convey almost the same meaning, with the only difference being the impression left by the sentence. We can observe many examples in which the rhetorical use of the interchangeable WA / GA particles conveys subtle differences in the meaning of expressions used in literary works such as novels. Some researchers have proposed an explanation of the differences in function between WA and GA, in relation to the imaginary pictures drawn in readers' minds provoked by the two particles. This paper hypothesized that WA corresponds to a subjective close view and GA to an objective distant view, and examined depictive descriptions which contain WA/GA in literary works such as novels. The conclusion was that WA and GA are concerned with the construction and development of the entire story, the detailed compositional adjustment of the story's imagery, the direction of the reader's gaze, and the psychology of the reader.
著者
松本 隆 マツモト タカシ Takashi MATSUMOTO
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要
巻号頁・発行日
vol.35, pp.271-286, 2014-03

1874年に翻訳出版された化学入門書『ものわり の はしご』の語彙、特に巻頭の用語解説付録「ことば の さだめ」の見出し項目を分析した。本書は、漢字と漢語を廃し、化学的な現象や物質名を含め、全文を平仮名の和語で訳しており、その語彙分析から主な特徴として次の3点を見出した。(1)和語による造語は、それまでの漢字を用いた造語の流れを汲んでおり、和語でも体系的で簡明な命名が可能である。(2)類義関係にある和語動詞群を使い分けることにより、混同しやすい類似の化学現象を区別して表現できる。(3)漢語よりも和語の方が、現実世界の事象を巧みに言語に写像し命名した例も見られる。つまり本書は、近代の西洋思想を和語で表現し、論旨の通った文章を平仮名で表記できることを、化学の分野で世に示した先駆的実践ということができる。