著者
ムーアハウス H.F. 岡田 桂
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-12,129, 2001-03-21 (Released:2011-05-30)
参考文献数
23

本稿は、過去30年にわたるヨーロッパのサッカー社会学の発展に関しての批判的な検討である。具体的には、サッカー社会学が「フーリガニズム」と暴力というテーマに支配され、その双方に関する研究が不完全、あるいは過剰であるということを問題にする。また、主として暴力に関する議論の焼き直しである「アイデンティティ」や「ファン性」といったものに対する最近の新たな強調と、「ファン」を若い男性サポーターと同義と見なすような誤りや多くの分析上の欠陥についても指摘する。これらの一般的な誤りを実証する上で、多様な文献を用いた考察を行う。本論文ではまた、イングランドの研究者が「フーリガニズム」と「アイデンティティ」に対する過度な強調姿勢をヨーロッパに広めたため、ヨーロッパのサッカー社会学がサッカーに関する他の多くの重要な問題点を見落とすことになった事実についても議論する。不適切な問題設定とお粗末な方法論によるビジネスとしてのサッカー論に関する新たな出版ラッシュとは裏腹に、サッカーにおける財政的な取り決め、ユース世代のトレーニングや育成、購買者によるサッカー関連商品の実際的な消費のされ方、女性とサッカーなどの問題は、重要でありながら関心が払われてこなかった。この論文は、サッカー社会学が社会分析の一分野としての重要性を増すためにも、これまでの伝統的なテーマから脱却すべきであることを示唆するものである。