著者
メストメッカー エルンスト-ヨアヒム 早川 勝[訳]
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.1426-1404, 2011-07

万人の万人に対する競争(Bellum omnium contra omnes)? -自然状態における競争について 放牧地で時を過ごす羊の平穏は、比較的な自己愛と競争を欠いているひとの社会に関してカントが述べた比喩である。どうもうな狼の食欲は、市民社会における安全と安寧の自由をあきらめさせる自然状態におけるひとに対するホッブスが述べた比喩である。これらの見解は、自由と平等に関する正反対の原則を教える。カントにとっては、個人の自由は、対立する自由であって、この自由は、法の支配の下での平等な自由と共存することができる。これに対して、トーマス・ホッブスの明らかに反対の立場では、デヴィッド・ヒュームの法と社会の研究およびアダム・スミスの法と経済学の研究を意識しかつ考慮に入れた法と社会の諸原則が展開される。ホッブスは、法と経済を動かす力としての幸福に関するかれの功利主義の解釈と同じ様に、法実証主義に関するベンサムの基本的な説明を採り入れた。それは、法と幸福主義との同一視であり、競争と競争法に関するひとつの重要な論争に導く。つまり、個々人の競争的行為に対する貢献を結果として生じる幸福のプラスまたはマイナスの成果と同一視できるかという問題である。この論争は、ドイツでは、カルテルの禁止かまたはカルテルに対する濫用規制なのかという二者択一の問題を支配した。それに対して、米国では、成果に関する評価審査が有効競争理論のひとつの論点であった。つまり、この論争は、福利のマイナスの成果について特別な立証(specific proof of negative welfare effects)がなされない場合には、伝統的な反トラスト法違反を弁明することができないと主張する反トラストシカゴ学派によってもたらされた。欧州では、それは、もちろん、競争ルールに関する解釈についてより経済的なアプローチをするEU委員会の解釈によって、消費者に対する福利審査(consumer welfare test)の実行可能性に関する論争について終止符が打たれた。それは、デヴィッド・ヒュームの理論の伝統を引き継ぎながら、特別な競争行為の福利に関する成果審査では解明できない理由を説明する制度複合現象理論を展開したF.A.フォン・ハイエクの理論である。筆者は、本稿では、競争ルールが、契約の自由、個人の財産権に関する私法制度の一部であるとして、また、競争を発見手続きとして解している。競争の自由に関する個人の権利は、競争過程における公益とそれに対して適用できるルールを形成するのである。