著者
リップ フォルカー 野沢 紀雅
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.55-82, 2018-09-30

本講演は,ドイツにおける扶養法の根拠を検討するものである。ここにいう根拠とは,扶養義務の社会・経済的あるいは倫理的な理由づけではなく,実定法における扶養義務の法解釈学的な根拠であり正当化を意味している。 本講演では,まず,実定扶養法の機能と意味,その歴史的生成過程,比較法的考察がなされ,その上で,現行扶養法の規律とその根拠が,子の扶養,親の扶養,その他の血族扶養および離婚後扶養の個別領域ごとに考察されている。 ドイツ民法制定当初は,婚姻と血族関係が扶養法の根拠であったが,現在では同性者間の生活パートナー関係と,婚外子の父母の共同の親性(gemeinsame Elternschaft)も扶養義務の根拠とされている。結論として,法律上の扶養義務は社会的関係や単なる生物学上の関係に直接的に基づくのではなく,基本的に,法律上の身分関係によって媒介された家族法上の責任であることが述べられている。
著者
リップ フォルカー 鈴木 博人
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.83-108, 2018-09-30

本稿は,2017年11月13日に法学部・家族法の講義の一環として行われたドイツ家族法の基本的原理を解説した講義の内容を邦訳したものである。 講義は,序論でドイツ家族法改正史とドイツ家族法が基本法(憲法)の準則(とりわけ男女平等条項と家族保護条項)に則って規整されていることが示されている。さらに,ヨーロッパ人権条約の強い影響を受け,いわば家族法の憲法化とも称される状況があることが示される。 序論を受けて,ドイツ家族法の最新の動向が,婚姻・離婚法,親子法,成年者の保護(日本法上の成年後見)法の3領域について示されている。 婚姻・離婚法分野では,法的な形式を与えられた生活共同体として古典的な婚姻とならんで登録された生活パートナー関係,さらには2017年10月1日からの同性婚の制度化後の対応が論じられている。 親子法分野では,血統法から親の配慮(日本法の親権)法,面会交流,子の扶養という広範な領域が概観されている。 成年者保護の分野では,自己決定能力が制限され,自らの事務に関して自分で処理できない成年者の保護が,後見から現代的な成年者保護の流れのなかで示されている。 各分野それぞれについて,喫緊の課題とその課題への取組が示されており,ドイツ家族法の現状理解を助ける,非常に明解な講義となっている。