著者
サトウ タツヤ 安田 裕子 木戸 彩恵 高田 沙織 ヴァルシナー ヤーン
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.255-275, 2006 (Released:2020-07-06)
被引用文献数
3

質的心理学や文化心理学の新しい出発にあたっては新しい方法論が必要である。こうした方法論は現象の性質に即していることが必要である。複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:TEM)は,人間の成長について,その時間的変化を文化との関係で展望する新しい試みを目指したものであり,ヴァルシナーの理論的アイディアのもと我々が共同で開発してきたものである。心理学を含む広い意味での人間科学は,その扱う対象が拡大し,また,定量的,介入的方法が難しい現象を対象とする研究も増えてきた。こうした研究には定性的データの収集や分析が重要となる。複線径路・等至性モデルはそのための一つの提案である。本論文はベルタランフィのシステム論,ベルグソンの持続時間などの哲学的背景の説明を行い,複線径路,等至点(及び両極化した等至点),分岐点,必須通過点,非可逆的時間など,この方法の根幹をなす概念について説明を行い,実際の研究を例示しながら新しい方法論の解説を行うものである。心理学的研究は個体内に心理学的概念(知能や性格など)が存在するものとして測定して研究をするべきではなく,TEM はそうした従来的な方法に対する代替法でもある。