著者
安田 裕子 荒川 歩 髙田 沙織 木戸 彩恵 サトウ タツヤ
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.181-203, 2008 (Released:2020-07-06)

中絶を選択した女性は,生命の喪失や,社会的に容認されないというスティグマに苦しむ。そのために,自らの経験や気持ちを誰かに語ることが困難であり,孤独のうちに悲嘆のプロセスを辿る人が多い。本稿では,20 歳前後の未婚の時期に中絶を経験し,中絶手術後 2 年以上経過した女性 3 名を対象にインタビューを行い,その経験を聴きとった。そして,中絶を選択する未婚の若年女性が何に迷い苦しんでいるのかを,その経験の固有の意味を含めて,周囲の人々が理解できるように,描き出すことを目指した。分析枠組みとしては,複線径路・等至性モデル(TEM)を用いた。妊娠していることに気づき,医師の診断を受け,中絶手術をし,現在に至るまでの時間経過のなかで,社会的制約やパートナーなどの周囲の人々の影響をうけつつ変化する,中絶経験の多様性を捉えた。彼女たちは,パートナーの辛さに配慮し,また中絶したことによる罪悪感に苛まれ,それゆえ周囲の人々に話すことができず,実質的・精神的な支えを得られにくい辛い状態であった。また,中絶をすることで,元の状態に戻ることを望んでいる人もいた。しかし,時間が経過した後,彼女たちは,妊娠と中絶を,自分の人生における大事な経験として受け容れようと変化していた。
著者
妹尾 麻美 三品 拓人 安田 裕子
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.20, no.Special, pp.S140-S147, 2021 (Released:2022-04-28)

本研究では,予期せぬ妊娠を経験した女性が子どもを「産む」と決めた事例を,キャロル・ギリガンの議論から示唆を受けたケアの倫理を用いて,分析・考察する。これまでの研究は女性の「産まない」決定に焦点を当ててきたが,「産む」決定について十分には論じてこなかった。そこで,いばらきコホート調査による妊娠女性 48人への聞き取り調査のうち,「産む」決定について語られた 1 人の女性に焦点を当てる。女性は不安や苦悩を抱えながらも,身近な他者と話しあい,ときに拒絶もありつつ交渉し「産む」ことを決める。このプロセスのなかで, 女性は自分のこと,周囲の他者のことを考え,自他に配慮しながら責任を引き受けていた。それに対し,周囲の他者も女性の声に応答・配慮しており,ここにはケアの応酬が見られた。本研究では,女性とその周囲のケアの実践によって「産む」ことに対する不安を解消し,それを引き受けていくプロセスを示した。この結論から,互いへの配慮を基盤とする場の形成を促す必要が示唆される。
著者
矢藤 優子 孫 怡 安梅 勅江 安田 裕子 吉 げん洪 Park Joonha
出版者
立命館大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

本研究は日本・中国・韓国3ヵ国における社会心理学・発達心理学・臨床心理学の研究者と連携し,多様な研究手法を用いた大規模な文化比較研究を通じて, 1)就労女性の産後復帰の実態および早期育児支援,養育スタイルのあり方を比較し,2)3ヵ国において異なる育児支援・養育スタイルが社会・家庭・個人要因と絡みながら,親子のwell-beingおよび乳幼児の発達に影響を及ぼすメカニズムを解明,3)各育児支援スタイルの利点と欠点および文化差を明らかにした上で,働く母親に有効な育児サポートと支援策を提供し,女性の就労・育児の両立,および子どもの健やかな成長に貢献することを目指す。
著者
山田 洋子 岡本 祐子 斎藤 清二 筒井 真優美 戸田 有一 伊藤 哲司 戈木クレイグヒル 滋子 杉浦 淳吉 河原 紀子 藤野 友紀 松嶋 秀明 川島 大輔 家島 明彦 矢守 克也 北 啓一朗 江本 リナ 山田 千積 安田 裕子 三戸 由恵
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

質的研究とナラティヴ(語り・物語)アプローチによって、ウィーン、ロンドン、ハノイ、シカゴ、海外4都市の大学において、多文化横断ナラティヴ・フィールドワークを行った。心理学、医学、看護学による国際的・学際的コラボレーション・プロジェクトを組織し、多文化横断ナラティヴ理論および多声教育法と臨床支援法を開発した。成果をウェッブサイトHPで公開するとともに、著書『多文化横断ナラティヴ:臨床支援と多声教育』(やまだようこ編、280頁、編集工房レィヴン)を刊行した。
著者
サトウ タツヤ 安田 裕子 木戸 彩恵 高田 沙織 ヴァルシナー ヤーン
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.255-275, 2006 (Released:2020-07-06)
被引用文献数
3

質的心理学や文化心理学の新しい出発にあたっては新しい方法論が必要である。こうした方法論は現象の性質に即していることが必要である。複線径路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model:TEM)は,人間の成長について,その時間的変化を文化との関係で展望する新しい試みを目指したものであり,ヴァルシナーの理論的アイディアのもと我々が共同で開発してきたものである。心理学を含む広い意味での人間科学は,その扱う対象が拡大し,また,定量的,介入的方法が難しい現象を対象とする研究も増えてきた。こうした研究には定性的データの収集や分析が重要となる。複線径路・等至性モデルはそのための一つの提案である。本論文はベルタランフィのシステム論,ベルグソンの持続時間などの哲学的背景の説明を行い,複線径路,等至点(及び両極化した等至点),分岐点,必須通過点,非可逆的時間など,この方法の根幹をなす概念について説明を行い,実際の研究を例示しながら新しい方法論の解説を行うものである。心理学的研究は個体内に心理学的概念(知能や性格など)が存在するものとして測定して研究をするべきではなく,TEM はそうした従来的な方法に対する代替法でもある。
著者
宮城 貴子 安田 裕子
出版者
一般社団法人 日本観光経営学会
雑誌
観光マネジメント・レビュー (ISSN:24362921)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.46-61, 2023-03-31 (Released:2023-04-07)

本稿では、日本のホスピタリティ産業における外国人材が、当該産業に従事し続けていくプロセスにおける異文化適応の様相を明らかにすることを目的としている。そのため本研究では、外国人材への半構造化インタビューを実施し、そこから得られたデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果、日本語独特の言語行動の困難さ、日本人顧客への対応や、職場内における言語的な摩擦や心理面を示す人間関係構築の課題が捉えられた。これらの課題に対応するため、人間関係構築の工夫、当該産業での支えと,沖縄という地域からの支えを軸にして,役割やその場に応じて日本文化と自文化を組み合わせる異文化適応の様相が重要であることが明らかになった。本稿において、異文化における外国人材に関する示唆や、ホスピタリティ産業における日本語教育及び、当該業界への実務面での示唆が提示できると思われる。
著者
草野 純子 安田 裕子
出版者
日本国際情報学会
雑誌
国際情報研究 (ISSN:18842178)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.61-71, 2016-12-25 (Released:2016-12-26)
参考文献数
26

The purpose of this study is to examine cases of the “past life therapy” of “spiritual” pain by means of the method of Dr. Brian Weiss's “past life therapy” by surveying summaries of patients' age, occupation,religion, symptoms, treatment and psychological state. Through this case study, the authors of this essay wish to pave their way to consider the tendency of spiritual pain, and to clarify the issues and direction of future care. In the framework of the “past life therapy,” “spiritual” pain of life in this world is a pain which is visible to the real being because this catches the pain as it is. A sufferer's sense of being seen by the real being leads the sufferer to reduce pain. According to the theory, talking about death and experiences of world after death “widen our horizons”, and “values and behaviors change when the sufferer wakes.” This enables the sufferer to “transcend” this world and rise to a multilateral dimension of mind, spirit, or soul.This world briefed here is a main subject of our analysis.
著者
指宿 信 安田 裕子 青木 孝之 廣井 亮一 丸山 泰弘 後藤 弘子 石塚 伸一 佐藤 達哉 中村 正
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

第一に、法学、心理学、社会学、精神医学など多様な学問領域の専門家による「治療的司法」概念の検討が多角的に進められ、刑罰重視型より更生支援型刑事司法が再犯防止に有効という海外の先行する知見が、我が国においても通用することが明らかした。 第二に、更生支援を具体的に進めるための支援や治療を提供する社会的資源となる「プロバイダー」が各所に存在し活動を進めているが、治療的司法観を共有することができることがわかった。 第三に、刑事被告人や被疑者に最も近接する立場にある弁護人が、相当程度現行の刑事司法制度の中でも治療的司法に基づいた処分や処遇を進めることが可能であることが明らかになってきた。